新潟の縄文土器タンタン麺が熱い 店主「凄いものができた」

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火焔坦々麺

新潟県十日町市。この地に、ひときわ目を引くご当地ラーメンがあります。

その名は「火焔 (かえん) タンタンメン」。

地元の人々はもとより、評判を聞きつけた他県からの観光客もこのタンタンメンを目当てに訪れるのだそう。

豊かな地元食材をふんだんに

十日町の食材で作った火焔タンタン麺

食欲をそそる真っ赤なピリ辛スープに、もっちりとした弾力のある麺。具材は「何を食べても美味しい!」と言われる十日町で採れた豊かな食材。

豪雪の下で甘みを増す雪下ニンジン、歯ごたえが魅力のエリンギ、ご当地ピクルスとも言われるピリ辛スパイシーな神楽南蛮、まろやかな甘みとシャキシャキ食感がアクセントとなるチンゲン菜、口の中で溶け広がる脂がジューシーな旨味を生む妻有ポーク‥‥など。

勢いよく麺をすすり、後からやってくるピリリとした刺激を楽しみ、具材によって変化する味や食感を堪能する。ほんのりと汗をかきながら夢中で平らげてしまいました。

器に宿る、縄文の存在感

文句なしに美味しいタンタンメンですが、それだけでない「ただならぬ」雰囲気があります。少し視線を下げて、器を見てみましょう。

十日町の赤土を使って作られた妻有焼の丼
力強さを感じる丼

なにやら力強い渦が無数に描かれています。

実はこの丼、十日町で出土し国宝となった縄文土器「火焔型土器」をモチーフに作られたもの。どっしりとしたフォルムに、独特の火焔模様を描きました。この地で取れる赤土を使って作った妻有焼の器です。

燃え上がる炎のような形と文様の火焔型土器
国宝「火焰型土器」 (新潟・十日町市蔵、十日町市博物館保管)
燃えあがる炎を彷彿とさせる装飾

かの岡本太郎も衝撃を受けたという、縄文土器。およそ5500~4500年前の造形が、現代においても色褪せない魅力を放っています。存在感のある炎のモチーフは、燃えるような赤いスープのピリ辛タンタンメンにぴったりの存在に感じました。

火焔型土器のイメージを元に作られたかのように見える火焔タンタンメンですが、実は偶然のめぐり合わせで生まれたのだそう。いったいどういうことなのでしょう。

火焔タンタンメンの生みの親、「手打ちラーメン 万太郎」店主の板場克也 (いたば かつや) さんにお話を伺いました。

十日町の人気ラーメン店「手打ちラーメン 万太郎」
「手打ちラーメン 万太郎」。地元で愛されている同店、背脂の乗ったラーメンが看板商品であったことから「そろそろ万太郎切れ、給油しに行こう!」なんて冗談交じりに誘い合わせた地元の人々が通う人気店です
株式会社麺屋万太郎社長で、十日町ラーメン会十連会長も務める、板場克也 (いたば かつや) さん
十日町ラーメン会十連会長も務める、板場さん

ラーメンで町おこし

「新潟というと、背脂ラーメンが生まれた燕三条が有名ですが、十日町にも多くのラーメン店があります。年々増えるラーメン店の様子をみていて、このままでは地元のお客さんの取り合いになってしまうなと危惧していました。

せっかくなら、みんなで協力しあって外から人を呼び込めないかと、ご当地ラーメンの開発を思いつきました。電話帳でラーメン店を探して、端から順に電話で声をかけて、集まってくれたお店と協力して十日町らしいラーメンを作ることになったんです」

「何を作ろうかと考えた時、試しに地元の越後妻有地域 (新潟県十日町市・津南町) で作られている農作物を集めてみました。エリンギ、ニンジン、神楽南蛮、チンゲン菜、妻有ポーク‥‥と並べていて、これはタンタンメンの具材だなと。

タンタンメンではスープに練りゴマを入れることが多いですが、それぞれのお店のスープの味を消してしまわないように、ラー油のみを使うことにしました。美しいヒマワリ畑が地域の観光名所の一つです。そのイメージが伝わるようにヒマワリ油のラー油を使うことにしました。

同じタンタンメンでもお店によって味が違うので、巡っても楽しめるんですよ」

導かれるようにたどり着いた「火焔」

「地元の食材を使ったご当地ラーメンなので、『妻有タンタンメン』として売り出そうと準備を進めていました。しかし、すでにブランド化されていた『妻有そば』と名前が似てしまうことから、別の名前にしてほしいと要望があり、ネーミングに大いに悩むことになりました。

その頃、相談に乗ってくれていた市役所の方が、『せっかくなら丼もオリジナルのものを作ったら?妻有焼だったら器も地元のものになるよ』と妻有焼センターを紹介してくれたんです。

丼の相談を進める中で、十日町から出土した縄文土器をモチーフにする案が浮上し、タンタンメンの燃えるような辛さに合う『火焔』のイメージに繋がっていきました。名前も『火焔タンタンメン』が良いのでは?と、思いがけず道がひらけました」

火焔タンタンメン

焼きあがった丼を受け取り、さっそく盛り付けてみた板場さん。タンタンメンの魅力が映える1杯に、「凄いものができた」と感激したそう。

「『妻有タンタンメン』でそのまま進めていたら、『火焔タンタンメン』は生まれませんでした。まるで縄文土器に導かれたようです」

国宝「火焰型土器 (新潟県十日町市 笹山遺跡出土)」新潟・十日町市蔵 (十日町市博物館保管)

NHK Eテレの人気番組「びじゅチューン」では縄文土器先生として登場するこの火焔型土器。子どもから大人にまで幅広く愛される国宝の1つです。2020年東京五輪が近づく今、日本文化のルーツとしても世界から注目されています。

今年は火焔型土器を含む縄文土器の一部が、東京国立博物館で7月3日から9月2日まで、また海を渡ってフランスでも2度の公開が予定されています。

もちろん、地元である十日町市博物館でも大地の芸術祭の会期中に公開されています。十日町を訪れたら、本物の縄文土器を鑑賞して、火焔タンタンメンを味わう。今昔の十日町の文化に触れるのも楽しそうです。

<取材協力>

手打ちラーメン 万太郎

新潟県十日町市上島丑735-7

025-757-0398

十日町火焔タンタンメン 公式サイト

http://www.kaen-tantanmen.com/

十日町市博物館

新潟県十日町市西本町1-382-1

025-757-5531

http://www.tokamachi-museum.jp/

文:小俣荘子

写真:廣田達也

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