大人の沖縄居酒屋「花ずみ」で未知との遭遇。海ぶどうが水槽を舞う
エリア
「ここはね、大人の沖縄居酒屋です。器に使っているやちむんもこだわっています」
地元の方にそう教えてもらって「花ずみ」の暖簾をくぐったのは18時頃。
店内は、仕事帰りらしきおじさんたちが顔をゆるめてすでに晩酌を始めています。
掘りごたつを囲む座敷席はお隣さんともほど良い距離感で、一見さんも常連さんも過ごしやすそう。
お酒はやっぱり、泡盛でしょう。水割りでいただきます。
同席した方に聞いた話では、沖縄の水は本州と違って硬水。泡盛というとかなり強いお酒のイメージですが、硬水の水や氷で飲むと、いい塩梅に和らいで飲みやすくなるのだとか。
本当‥‥?か、どうかはわかりませんが、ぐびりといくと、確かに本州で以前に飲んだ時よりも、飲みやすいように感じます。沖縄の人たちは酒豪ぞろいなのではなく、いい飲み方を知っている、ということなのでしょうか。
さて、合わせる一品は何にしよう。いや、一品と言わず2・3品は食べたいなぁ。
なぜならこの「花ずみ」は八重山地方出身の女将さんが作る八重山の家庭料理が味わえるお店。
しかも、「おすすめのお店は?」と尋ねた地元っ子が、「あそこは、何を食べてもうまい!」と何人も名前を挙げた人気店なのです。
未知との遭遇。オオタニワタリの新芽
まず「絶対食べて!」と言われていた「オオタニワタリの新芽」を注文。
オオタニワタリって?しかも新芽??と思っているうちにツヤツヤした姿で運ばれてきたのがこちら。
見たことのない姿かたち。
オオタニワタリは、葉の長さは1メートル以上にもなる大きな植物。九州南部や台湾にも分布しているそうで、一般的には観葉植物として親しまれています。
それを沖縄、特に八重山では、新芽部分を炒め物や天ぷらなどにして食べる文化があるのです。
今日は中でも新鮮なオオタニワタリでしか味わえない、お刺身でいただきます。
一口ほおばると、パリッとした歯ごたえ、水分がぎゅっと詰まっているのに水っぽくなく肉厚。噛み進めるほど、口の中に新芽のみずみずしい香り。
ああ、何枚でもいけるなぁ。酢みそがまたよく合う。
沖縄の人は新芽の出る頃に山に出かけたりすると、みんな摘み頃のオオタニワタリがないか、ウキウキとチェックするのだそう。気持ち、わかります。
お次はドゥル天に、八重山かまぼこ
初めての出会いに感動しているうちに、また新しい出会いが次々と。
沖縄の伝統料理「ドゥルワカシー」を天ぷらにした「ドゥル天」。
ドゥルワカシーとは、田芋 (里芋) とその茎、豚肉などを合わせた炒め煮で、古くから沖縄のお祝い事の席に並ぶごちそうです。
お次は「八重山かまぼこ」。八重山諸島の中でも、石垣島特産の揚げかまぼこです。素材や形で、いろいろな種類があるそう。
ああ、何を食べても、泡盛がよく進みます。これは気をつけなければ。
女将さんが目利きするやちむんにも注目
さて、ここまでの料理でお気づきかもしれませんが、この「花ずみ」、器も素敵なんです。
地元食材で作った料理に合うようにと、女将さんが全て自分で目利きして選んだやちむん (沖縄の焼き物) が使われています。
昭和63年にお店を開いて以来、30年近くのお店の歴史がそのまま、女将さんの器好きの歴史。
「器は、出会った時に買うのよ」
との女将さんの名言を心に刻みながら、次のオーダーを。
揚げ物が続いたので今度はさっぱり。満を持して、本州でも有名な海ぶどうを注文します。
海ぶどうが水槽を舞う理由
店員さんがさっとカウンターの奥の水槽から海ぶどうをすくい上げました。
へぇ、海ぶどうってこうやって保管されているんだ。
そう思ってよくよく眺めると、水槽の中で、ぐるぐるぐるぐる海ぶどうが円を描いています。
これは一体‥‥?
確かに見た目にはきれいだけれど、何のためにそんなに回っているのか。
目を離せないでいると、教えてくれました。
「海ぶどうは鮮度が命。海の中のように水流を作ってあげると、新鮮な状態が長持ちするんです」
出してもらった海ぶどうが美味しいのは言うまでもありません。プチプチと口の中で弾けた後の、つるんとしたのどごし。
ああやっぱり、本場にこないと出会えないものってあるのだなぁ。
ぐるぐる舞う海ぶどうを眺めながら深々と感動して、泡盛の杯を傾けるペースがまた少し、早まっていくのでした。
<取材協力>
花ずみ
沖縄県那覇市久米2-24-12
098-866-1732
http://www.hanazumi.jp/
文:尾島可奈子
写真:武安弘毅