京都伝統工芸大学校でインタビュー。ものづくりの学校にはどんな若者が学んでいる?
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「力仕事ばっかりかなと思ってたんですけど、繊細なことが多くて。大雑把ではいけないという基本的なことを学びました」
こう語るのは木工専攻2年の学生さん。
ここは、京都府南丹市にある「京都伝統工芸大学校」。伝統工芸技術の後継者育成を目的とした学校として24年前に設立されました。
専攻は陶芸、木彫刻、仏像彫刻、木工芸、漆工芸、蒔絵、金属工芸、竹工芸、石彫刻、和紙工芸、京手描友禅の全11種。
各専攻の専用実習室には一人にひとつの机が与えられ、伝統工芸士をはじめとした一流の工芸士から直接、技術を学ぶことができる、ものづくりをしたい人にとっては理想郷のような環境と、先生方は自身もうらやましそうに語ります。
前回は学校について紹介しましたが、今回は、どんな人たちがどんな思いで、ものづくりを学びにきているのかレポートします。
前編はこちら:「学校から職人デビュー。京都で出会った今どきのものづくり事情」
伝統工芸技術を学べる学校は、世界的にも珍しい?
「高校を卒業して入ってくる学生が多いですね。それも優秀な進学校を卒業して、国立でも、どこでも入れるような成績の子が、わざわざ入学してきます」
と話すのは、教務部長・陶芸専攻工藤良健先生。
志望動機は?
「日本の伝統文化に興味を持ってという学生が多いですね。教科書に、後継者不足ということも書かれているようで、後継者になりたいという思いもあるようです」
以前は2年制だったこともあり、大学を卒業した人や社会人、定年退職した人、転職を考えている人が多かったそうですが、3、4年制が中心になってから若い学生が増えたと言います。
「最近は、6割が女の子。以前は逆でしたが、今は専攻によっては、女の子だけのところもあります。一般的な社会もそうですが、伝統工芸の世界も男性が多かったのが最近は女性もどんどん活躍していますね」
留学生も増えているそうです。
「留学生がくるとは、夢にも思っていなくて。面接で聞くと、世界中で伝統工芸を勉強する場所を探していたらここにたどり着いたと」
日本だけでなく、世界でも珍しい学校。
「美術や芸術を学ぶ学校はいっぱいありますが、伝統工芸、手作りを勉強する学校は中々ないと。今は中国、台湾、韓国とアジア系が多いですけど、過去には、フランス、ベルギー、ドイツ、イギリスからも来ています」
みなさん、専攻は?
「陶芸が一番多いですね。今、1年生34名中、14名が留学生です」
大人気ですね。
「中国には景徳鎮 (けいとくちん) とか素晴らしい焼き物がありますが、教えるところがない。伝統工芸を理論だって学べる学校として選ばれているようです」
自分で納得できるものを100個作る
どんなふうに学んでいるのか、実習が行われているクラスを見学させていただきました。
こちらは陶芸専攻1年のクラス。最初の課題である煎茶碗を作っています。
学校では、「技術は反復練習によって身につく」とし、講義のうち約80%が実習。陶芸では一つの課題に対して作品を100個提出するそうです。
「ものづくりがやりたくて入った」という学生さんたちに、陶芸を選んだ理由を聞きました。
「高校の時に木工やガラス工芸をやっていたので、それ以外のことがやりたいと思って陶芸に」
工房に弟子入りすることは考えなかったんでしょうか?
「弟子入りは難しいイメージがあったので、大学で4年間しっかり職人の方に教えてもらってから弟子入りしたほうが確実かなと思ったので」
課題を100個提出すると聞きましたが、今、何個目ですか?
「120か、130個目です」
あ、100個作って100個提出するんじゃなくて、自分で納得できるものを100個!
「はい」
すごい!ありがとうございます。がんばってください。
技術が身につき、ものの見え方も変わる
続いてお邪魔したのは木工専攻のクラス。
椅子の座面を作る作業をしていた学生さんに話を聞きました。
「もともと装飾が好きで、装飾をするには土台が必要なので土台を作れるようになりたくて木工を選びました」
弟子入りするのではなく、この学校を選んだのは?
「それまで、ものづくりは何もしていなくて、ここは基礎から教えてもらえるので、ここで学ぼうと思いました」
2年間やってみてどうですか?
「木は好きでしたが、初めて知ることがたくさんあります。木の種類によって性質が違うとか。どんどん形ができあがっていくときは気持ちがいいです」
イメージと違って、大変なところはありますか?
「力仕事ばっかりかなと思っていたんですけど、繊細なことが多くて。大雑把ではいけないなと。基本的なことですが」
ありがとうございます。がんばってください。
修了制作の本棚を作っている木工専攻の3年生にも話を聞きました。大阪の自宅からスクールバスで2時間かけて通っているそうです。
3年間で自分の技術の変化を感じますか?
「ぜんぜん違います。改めて木工が好きだなって思ってます。技術もだいぶ変わりました」
「高校でも木工をやっていましたが、かじる程度だったので、ここに来て、見え方も変わりました。組み方とか細かいところまで分かるようになったので」
大阪には木工や家具をけっこう扱っているところも多いので、卒業後も楽しみですね。
「まだ進路は考えていないんですけど、木工のおもちゃとか、小物を作っているところ。手作りできるところがいいなと思っています」
ぜひがんばってください。ありがとうございました。
ノウハウは学べても、技術は自分で身につけるしかない
最後に案内していただいたのは京手描友禅専攻のクラス。
「ずっと憧れていたんですが、衰退産業なので女の子には、と反対されている」と話すのは、家が着物関係の仕事をしているという学生さん。
社会人を経験したものの、やっぱりやりたい、と入学を決めたそうです。
「工房に入ることも考えましたが、雇って一から教える余裕がないと言われて、それだったら自分で力をつけてから入ろうと」
即戦力になる。作り手さん思いですね。
クラスでは先生も一緒に作業をしていました。
「これは商品なんです」と話すのは京手描友禅講師の駒井達夫さん。
ご自分の商品を作るところを見せるのも講義の一環だそうです。
ご自分で作るのと、教えるのは違いますか?
「難しいですね。工程やノウハウは教えられるけれども、技術ばかりは自分で努力してもらうしかない」
繰り返し、繰り返し。
「そうですね。繰り返して技術を身に付けていく。こういう仕事は、一人前になるには随分かかりますからね」
それを3、4年という短期間で。
「だから、完璧にやるということは難しいですけど、卒業する時には、一応は自分でものを作れるようになれるかなと思います」
職人だけが卒業後の道ではない
どの教室でも、みなさん黙々と手を動かしているのが印象的でした。
卒業後はどこに進まれるのでしょうか?
「伝統工芸技術の後継者を育てるという大前提があるので、以前は職人だけ。伝統工芸、職人、と限られたところに送り込もうとしていましたが、今は多様化しています」と言う工藤さん。
志望動機や将来の目標も多様化しているそうです。
「金属大好き、木工大好き、陶芸大好きという子が多いですね。工程はわからないけれど着物の柄や模様が好き、とか。とにかくそのモノが大好き、というのが一番多い理由ですね」
学校でも多様性に応えるため、カリキュラムを多様化させていくことを考えているそうです。
「作家になったり、カルチャーセンターの先生になったり。基本は職人を育てる、後継者を育てる、ですけど、こんな技術やこんな生き方もあるよ、というのを指導していかなければと思っています」
お昼休みも実習室でお弁当を食べるぐらい、ものづくりが好き
「私たち、ここを温室に例えるんです。すごく恵まれた環境の温室は、すくすく伸びるけれども、外からのプレッシャーに弱い面があります」
「昔は何も分からず弟子入りして理不尽に怒られて、そんな過酷な環境で育つ中で我慢強さや底力がついてきました。良くも悪くも、ここの環境にはそれがありません。親方にやめろと言われてすぐに『辞めようと思います』と連絡してきた子もいました」
技術はある。あとはどう社会の中で折り合いをつけながら力を生かしていくかだと工藤さんは語ります。
「職人になると黙々と仕事をして、自分以外が見えなくなってしまいがちですが、皆と和気あいあいやることも必要です。技術力と人間力を兼ね備えて社会に出ていってもらえたら嬉しいですね」
伝統工芸技術の後継者育成を目的として開校した「京都伝統工芸大学校」。
1時間のお昼休みも実習室でお弁当を食べる学生さんが多いと聞き、みんな、本当にものづくりが好きなんだと実感しました。
これからの時代は、そんな熱い想いが未来の職人を育てるのかもしれません。
その想いを忘れずに、力強く羽ばたいていってほしいと思います。
<取材協力>
京都伝統工芸大学校
京都府南丹市園部町二本松1-1
0771-63-1751(代)
文 : 坂田未希子
写真 : 木村正史
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