愛しの純喫茶 〜福岡編〜
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こんにちは。さんち編集部の西木戸 弓佳です。
旅の途中でちょっと一息つきたい時、みなさんはどこに行きますか?私が選ぶのは、どんな地方にも必ずある老舗の喫茶店。お店の中だけ時間が止まったようなレトロな店内に、煙草がもくもく。懐かしのメニューと味のある店主が迎えてくれる純喫茶は密かな旅の楽しみです。旅の途中で訪れた、思わず愛おしくなってしまう純喫茶を紹介する「愛しの純喫茶」。第3回目は、福岡人の胃袋を支える柳橋連合市場のすぐ傍にある老舗喫茶、ベニスです。
少し重たいドアをぐいっと開けると、サイフォンをかき回す手を少し止め「お帰りなさい」と迎えてくれたマスター。黒ベストに蝶ネクタイの姿が、今日も素敵です。前日、すぐ傍にある「柳橋連合市場」で買い物をした帰りに休憩した喫茶「ベニス」。あまりの居心地の良さに、翌日もまたお邪魔してしまったのでした。
喫茶ベニスは、これぞ純喫茶といったクラシカルな雰囲気。ヨーロッパ調の家具、入口のステンドグラス、落ち着いた色の照明、真っ赤な床、控えめにかかるクラシックな音楽・・・ここだけ、昭和のまま時代が止まっているかのよう。ピシッとしたマスターの格好も相まって、老舗ホテルのオーセンティックバーのような重みもあります。
カウンター席にお邪魔し、早速「ナポリタン」を注文。なんというか、ベニスのTHE純喫茶ぶりに、ここはナポリタンを食べないと、と思ったのです。きっと小さい頃に食べた、あのスタンダードなナポリタンに違いない。ワクワクしながら待つ間、同じカウンターに座る常連さんとマスターの会話が耳に入ります。
「あの2人どげんなった?うまくいくとよかねー」と、常連さんの恋の行方を気にするマスター。なんでも最近、ひとりで来るお客さん同士の仲人をしたんだとか。なんと手厚い喫茶店・・・!マスターの人の良さに、お店が長く続いている理由も分かります。
運ばれてきたナポリタンは、そうそう、これ!と言ってしまうような見事な仕上がり。ベーコン、ピーマン、玉ねぎ、マッシュルーム入りの漫画で描いたみたいなナポリタン。ふぅふぅしながら食べてみると麺がモッチモチで、ケチャップの味付けは程よい甘さの優しい味。食べながらついニヤけてしまいます。「大人になってもみんなナポリタンは好いとうねー」とマスターもニコニコ。小さい頃は食べ切れなかったナポリタンですが、ペロッと一皿完食しました。
すっかりノスタルジックな気分に「クリームソーダ!」と注文したくもなりますが、サイフォンでコポコポしているコーヒーのいい香りに惹かれ、やはりホットコーヒーを注文。出てきたコーヒーには、純喫茶らしく冷たい生クリームが添えられていました。もう、完璧です。
ベニスの開店は、まだお店が位置する渡辺通りに路面電車が走っていた頃。今では老舗と呼ばれるホテルニューオータニ博多が出来る前から、ずっとこの場所でお店を続け、町の変化を見てきたのだそう。変化の多いこの町でずっと変わらないスタイルで続いているこのお店は、地元の方たちが心から安らげる憩いの場になっているようです。昨日の出来事、仕事のこと、ペットのこと、みなさんマスターと色々な話をして帰って行かれます。お店に来られるお客さんはみなさん、マスターと話すためにここに来ているのかもしれません。
「また帰ってこんねー」と、見送ってくれたマスター。福岡に戻ったら、また帰ろうと思う、居心地のいい喫茶店でした。
ベニス
福岡県福岡市中央区春吉1-1-2
092-731-3968
文・写真 : 西木戸弓佳