ほかに無いアウトドアショップ、東京「Tsugiki」へ
エリア

新緑の野山に萌える今日この頃、皆さまはいかがお過ごしでしょうか。青空のもと、キャンプやバーベキューなど、アウトドアを楽しみたいと思う方も多いのではないでしょうか。
アウトドアを楽しむ道具の専門店もありますが、一風変わった品揃えが魅力のセレクトショップがあると耳にしました。下町の雰囲気を色濃く残す東京は千駄木。
駅から徒歩で6分ほどのところにある「Tsugiki」は、アウトドアグッズだけではなく伝統工芸や“富山県の魅力”も提案するお店です。
この3つがなぜ、どういう風に融合しているのでしょうか。オーナーの木原彰夫さんのお話を伺ってまいりました。

アウトドアブランド勤務からお店を持つまで
木原さんは富山県高岡市出身。高岡漆器や高岡銅器など伝統工芸が盛んな土地で育ちました。
上京後、チャムスというアメリカのアウトドアブランドの日本代理店で11年間勤務。ゼネラルマネージャーとして海外事業部、デザイナー、セールス、プレスPRなどを経験して独立し、2015年11月にTsugikiをオープンさせました。
「お店を始めた理由は地元への恩返しですかね。富山県の地方創生事業に関わる機会がありまして、お手伝いのようなことをしているうちに『お店を出してみないか』という要望が出ました。
どちらかというと、半ば強引にお店をやらされたという感じなんですけど(笑)」と木原さん。
アウトドアブランドでの仕事の経験、地元・富山の友人知人との関係、それぞれが“接ぎ木”のように重なり合って、一つのお店が産声をあげました。

ごった煮のような店内
暖簾をくぐって店内に入ってみると、どこか懐かしいような空気感に包まれます。富山の古道具屋で購入したという什器から滲むものでしょうか。一方で、内装は厳選された富山県の木材で仕上げるこだわりも。
店内にはアウトドアのウエアもあれば、古めかしい器、仏具の「おりん」まであります。ぶら下がる電灯も売り物です。

商品のセレクトにこだわりはあるのでしょうか。
「とにかく、かっこいいと感じたものを仕入れています。まだ世の中にあまり知られていないようなものも、たくさん扱うようにしています。
珍しいものと出会える場所でもあると思うので、そういう意味では提案型のお店ですよね。まずは来てもらって、この雰囲気を感じてもらいたいです」
ジャンルを超えた商品が並ぶごった煮のような店内。それでも、どこか統一感があるのは、落ち着いた色合いの内装のおかげかもしれません。
愛着のわくアウトドアグッズを目指して
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木原さんが思う、かっこいいアウトドアグッズ。その一つがオリジナルで製作したシェラカップです。渋い色合いが目を惹きます。

「高岡にある『モメンタムファクトリー・Orii』という会社の銅器着色の伝統工芸士さんに作ってもらいました。色合いが独特でしょう?
これは銅を化学変化で色を変えていくという伝統工芸の技術なんです。ぬかや大根など、自然のものを銅に焼き付けていくと、化学変化で、色が変わっていくんですよ」
折ったり、曲げたりすることのできる「すずがみ」という商品も高岡発。熟練の職人による金鎚で叩く技術によって、作り上げられました。通常の錫の板と違い、何回も圧延を繰り返しています。持ってみるととても軽い。

どちらもアウトドアだけでなく、インドアでも使えそうな商品です。
「セレクトも商品開発も、機能よりまず先に『かっこいいかどうか』を考えます。
見た目が気に入っているものの方が、使いたくなりますよね。インテリアとして飾ったりもできます。そうして使っていくうちに、愛着が湧いてくるんじゃないかなと」
職人さんとの付き合い方
木原さんが新しい商品を探すときも高岡の広い人脈を活用します。ちょっと声を掛ければ、皆、何かを教えてくれる。ただし、有名なブランドや商品はTsugikiでなくても販売しています。木原さんが狙うのはニッチな商品です。
さて、木原さんはそうした商品や作り手とどのように出会い、仕入れや製品開発をしているのでしょうか。
「飲ミュニケーションですね。高岡に帰ると、まず、職人さんと飲んでます。例えば、『こういうのやりたいんですけど、できます?』みたいな」
やったことのないものを職人さんに作ってもらうのは、至難の業ではないでしょうか。
「『こういうの作りたい』という時点で最初にお金を全部払ってしまいます。リスクを背負わないと皆、信用してくれないですからね」
「やりたい」と一度でも思ったら自分がリスクを背負うことで、信用を得て実行していく。職人さん相手の仕事に限らず、どこの世界でも言えることかもしれません。

売る人間が楽しまなければ、お客さんも楽しめない
富山を軸にしながらも面白いと思えばなんでも仕入れるそうです。「こんなものもあるよ」と木原さんの声が商品から聞こえてきそうです。
「売る人間も楽しまないといけないし。売る人間が楽しんでないと、お客さんをワクワクさせたり、楽しませることはできないですよね」

もし千駄木周辺で用事があるならば、一度立ち寄ってみてはいかがでしょうか。心ときめく商品に出会えるかもしれません。
<取材協力>
Tsugiki
東京都文京区千駄木2-7-13
03-5832-9313
文・写真:梶原誠司