【デザイナーが話したくなる】麻デニムパンツ
そういえば、なぜ、麻だけのデニムはなかったのか?
デザイナーの河田さんに、麻でつくるデニム生地の難しさを聞きました。
「デニムの定番は厚みのある生地です。あれは目を詰めて織っているからしっかりとした生地になるんです。 一方で麻糸は柔軟性がなく、糸にフシがあったり太さにムラがあるため、なかなか目を詰めて織れません。 扱いの難しい素材なんです。仮に目を詰められたとしても、ムラの出やすい糸なので隙間ができたり、 織り上がっても厚みが足りなかったり。織るスピードもゆっくりにしなければいけないから、 大量生産にも向きません。
だからこそ、綿のようにしっかりした生地感の麻のデニムは、今までなかなか世の中になかったんですよね。」
しかしながら、麻生地は、吸水、吸湿、速乾性に優れているのが魅力。
もし、麻だけのデニムが実現できれば、夏場のように汗をかきやすいシーズンでも、 さらりと着られるものが出来上がると考えました。
さらに、綿には無い光沢感も、麻生地の特長。
「カジュアルになりすぎないので、年齢を重ねても長く履けるデニムになるはずと思いました。」
世代を選ばず、軽やかに日々を楽しみたい人に勧められる一着になるという確信がありました。
試作を重ねる中で、大切にしたのがほどよい「ワーク感」。
「麻100%の生地で試作してみても、いわゆる一般的な麻のパンツのようになってしまったりして。
ちょっと柔らかすぎたんです。
麻らしい柔らかな風合いは残しつつ、日常的に履いてもらうには、しっかり目が詰まった丈夫さも欲しい。
これ、という生地にはなかなか出会えませんでした」
そんな折、河田さんが生地の展示会で出会ったのが、明治30年に創業以来、滋賀県の近江湖東産地で、
4代に渡って麻を織り続ける「林与」さんでした。
「展示会にデニムの生地を一つ出していらっしゃったんですけど、本当に麻だけで織っているのかな?
と思えるくらい目もしっかり詰まった、まさに『デニム生地』だったんです。」
麻のデニム生地を織っているのは「シャトル織機」という織機。
糸を織物にするための機械(織機)の中でも、古くから使われていたシャトル織機は、
現代的な織機に比べてスピードが遅く、生産性の観点では劣ります。
いずれ時代の波に消える機械となるはずでしたが、その「ゆっくり」とした動作こそが、
切れやすい麻の糸とも相性が良く、目を詰めて丈夫に織ることができるんです。
一日に織れる速度はゆっくり。
織り始める前にも、織り始めてからも、糸の様子を見ながら調整を繰り返す。
ただ、あきらめずに、完成形を追求し続ける──職人としての意気込みがあるからこそ、
いまだかつてないほどの麻デニム生地が生まれていたんです。
実際に履くと、通常のデニムとの違いはすぐにわかります。
軽くてやわらかながら、しっかりとした厚みもある。デニムとしての安心感もありつつ
さらっとした肌触りは、大人に嬉しい履き心地。
最初からやわらかくて、くたっとした生地感がこなれた感じを醸し出してくれます。
最近デニムを履かなくなったなという、大人の女性にも履いてほしい1本です。
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