夏の陽ざしにはえる「黒」、風にそよぐ「白」。涼しく上品な麻のお出かけ服

もうすぐ夏の盛りを迎える時期。ここ最近は毎朝天気を確認するたびにうんざりした気持ちになり、クローゼットから手に取るのは涼しくて洗いやすく、ラクに着られる服ばかりでした。

もちろん夏をのりきる服が控えているのは心強くあるものの、家族や友人との食事会や観劇・鑑賞、またセレモニーの場など、たまのお出かけ用に「ちょうどいい服がない」と焦ることもしばしば。「いざという時に着られる、気分がしゃんとする洋服も持っておけたら安心だな」とは思いながらも、そう出番があるわけでもなく、ひとまずどうにか乗り切りながら買わずのままにしていたのは、もしかすると私だけではないかもしれません。

そんな方にこそおすすめしたい、夏のお出かけに着ていただける「黒と白」。いずれも麻100%で夏に涼しく心地よい生地でありながら、上品な光沢とシンプルなデザインで、普段にもきちんとした場にもぴったりです。

夏の陽ざしにきりりとはえる黒、熱をはらんだ風に爽やかに揺れる白。それぞれのこだわりを、担当デザイナーの山口に聞いてみました。

目指したのは、涼しくて素敵で、きちんと着られる夏の洋服

今回の洋服シリーズを作るにあたり大前提としたのは、夏に着やすい涼しさがありながらも、きちんとした場でも着られる服であること。フォーマルの場にも着やすいようにと、黒と白を色の軸に据えてデザインに落とし込んでいきました。

着る人の好みで形や色が選べ、また一枚でも組み合わせても着られるようにと、それぞれのデザインはあえてバラバラに。黒はワンピース2型とパンツ1型、また白はトップス2型を本シリーズ品として販売します。

いずれも通気性がよく、吸放湿性にも優れながらも上品な光沢をたたえた麻生地を使用。また企画の際に共通してこだわったのは、日本で長く、産地や作り手が育んできた技術を用いることでした。そうして採用したのが、京都の黒染めと滋賀の晒しの技術です。

「黒色と白色のお洋服って世の中に山のようにあるから、商品を企画するにあたっては、中川政七商店らしい個性を何か持たせたいなと思いました。

黒染めは長く和装で使われてきた日本の伝統技術で、今はそれが染め替えという新しい道で活かされています。昨年も夏に着る黒のフォーマル服を作っていて、その際にお願いした京都の馬場染工業さんに今年もお願いしました。

麻生地を晒すことで表現した白の生地は、以前からお取引のある、滋賀で晒しをされている中藤織物整理工場さんに作っていただいています。ここは、中川政七商店の手績み手織り麻の生地をずっと加工してくださっている作り手さん。白く晒す高い技術を持つ企業さんなのですが、織り子さんの減少で手績み手織り麻を作れる量自体が年々減っているので、その晒しをお願いできる量も減っていて。だから何か他の商品にお力添えをいただくことで、この晒しの技術を届けたいと思っていたんです。

今回の生地は手績み手織り麻ではありませんが、遠州地方で織られた透け感のある上質な麻生地を使用しています」(山口)

京都・馬場染工業が染める「黒」

上述のとおり、黒をお願いしたのは京都の老舗黒染め屋・馬場染工業さん。 現在は5代目の馬場麻紀さんが率いるこちらの作り手さんでは、代々、紋付羽織袴や喪服などの礼服を手がけてこられました。

その技を、洋裁を学んだ経験を持つ現代表が洋服に転用したことで、今回のワンピースやパンツのように日常でお楽しみいただけるようにもなっています。

工房の表に掲げられる「黒染」の文字(写真:森一美)

こだわりは染めの回数を通常の倍にして、奥深い黒を表現すること。ひと口に「黒」と言っても様々ある色のなかから、夏に着やすい自然な黒でありながら、深みが出るように仕上げていただきました。なお、長く着て退色してきたときや、漂白剤をとばしてしまったときなどは染め直しもしていただけます。

黒の色見本(写真:森一美)

「昨年は馬場染工業さんと夏のフォーマルとして、綿麻生地のワンピースを4型作りました。フォーマルの場にも重宝するワンピースを、日本人の美しさを昔から引き立ててきた黒染めの技で作りたいと思ったんです。

そのなかでも特に人気のあった2型のデザインをより磨いたものが今年のシリーズ。ふんわり袖のパフスリーブワンピースは優しい雰囲気なので、もう一つはVネックと裾のベンツ(※切れ目のこと)ですっきりした印象に仕上げて、好みで選べるようにしています。

加えて、白いトップスに合うように同じ染めの技術でパンツも作りました。こちらはロングスカートのようなワイドシルエットにしたことで、スカート派の方でも履きやすい仕上がりを目指しています」(山口)

「黒」のシリーズはワンピース2型とパンツ1型をラインアップ
シンプルなデザインはきちんと着るのはもちろん、少し個性的な着こなしにも

滋賀・中藤織物整理工場が晒す「白」

麻織物の一大産地である滋賀県の湖東地域。麻の製織・加工に欠かせない、湖面からの湿潤な空気と、鈴鹿山系から流れる愛知川の美しい水に恵まれたこの地域は、古くから麻織物の産地として発展しました。

今回の「白」は、この土地で織物の整理加工業を営む中藤織物整理工場さんにお願いしたもの。「近江上布伝統工芸士」の称号を持つ職人の高い技術を使い、製織した生地を晒して作る、白い麻生地を採用しました。

さらに、糸に撚りをかけて生地を揉み、表面にシボを作るちぢみ加工を施すことで生地に表情が出る他、凸凹があり肌離れも良いため涼しくラクにも着られます。

工場の内観(画像提供:中藤織物整理工場)

「シボをつける機械にも色々あるのですが、中藤織物整理工場さんではアナログな機械を使っておられます。それが良い意味でとてもレトロな雰囲気で、だからこそ人の手でシボをつけるようなやわらかさが出るのかなって。皺加工や、やわらかくする加工は色々な工場でできるんですけど、そのなかでも中藤さんのものは特に“やわらか感”があるという話をよく耳にしています。

麻を扱う技術もありますし、夏のシャツは肌あたりの良さも大切にしたいと思い、今回は中藤さんにお願いをしました」(山口)

晒したちぢみ生地(画像提供:中藤織物整理工場)

白く晒したちぢみ生地を使って作るのはシャツとチュニック。両者とも透け感があり、風に揺れる裾や袖が目に涼しいデザインとなっています。

「生地が特徴的なので縦のシボシボ感を活かし、ドレープが寄るようなパターンにしました。裾に向かって広がるようにたっぷり生地を使うデザインにしたことで、優雅さや涼しさを見た目にも感じていただけると思います。

シャツは袖からも風が入るようひらひらとした形に調整し、チュニックの方は丈が長い分、バランスをとれるように袖はふんわりと閉じる形にしました。あと、夏の衿元って襟があると汗がついて蒸れるし、かといって襟がないとルーズに見えてしまうので、今回は首元を広めにとって襟をつけることで、きちんと感を出しています。

2型あるどちらのデザインも、きちんとした印象はありつつ見た目の清涼感もあり、細かい皺が目立ちにくいので、普段から気兼ねなく着ていただけると思います」(山口)

「白」のシリーズはブラウスとチュニックの2型
一枚でさらりと着る他、インナーに柄ものを合わせたり、帽子などの小物と合わせたりするのもおすすめ

夏のにぎやかさや陽ざしのなかで、あえて凛々しく、軽やかに着る黒と白。日本の高い技術を使い、品良く、それでいてシンプルで着回しもきく一着に仕上げました。“いざ”という時にも、普段にも。ぜひ夏の思い出の頼りにしていただければと思います。

文:谷尻純子

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