手作業とオリジナルの道具から生まれた、個性と温もりが宿るお正月飾り

新年を祝い、年神様をお迎えして、よい一年になることを願うお正月飾り。

今年のお正月は、熊手と干支飾り、昔から続くお飾りを、今の暮らしに寄り添うようアップデート。晴れやかな毎日を願った、縁起物を作りました。

この製作現場が奈良県香芝市にあるということで、早速訪ねてみました。

あらゆる人が集い、能力が広がる、開かれた空間

お伺いしたのは、「Good Job!センター香芝」さん。障がいのある方たちとともにアート・デザイン・ビジネスの分野を超え、社会参加と新しい仕事づくりを行う拠点として、2016年にオープンしました。木造の建物は温かみのある外観で、中に入ると大きな窓から光が差し込み、カフェやショップ、工房、事務所がゆるやかにつながる見通しの良いワンフロアが広がっています。

外観からも視界の開けた気持ちよさが伝わる、Good Job!センター香芝さん

「福祉施設は社会資源として、公民館のようなコモンスペースの役割も果たせるはずです。仕事を生み出すためにはさまざまな人と関わることが大切。あらゆる人たちが集い、買い物もできる“開かれた場”にしようと、多様性のある面白い空間にしました」と話すのは、同センターで企画製造ディレクターをつとめる藤井克英さん。

別棟には広々とした制作スペースやアトリエも備わり、全国約140の福祉施設や企業とのコラボによる多彩な商品、そしてGood Job!センター香芝オリジナルプロダクトも含めた約2,000種類を扱う流通拠点としての機能も担っています。

Good Job! センター香芝 企画製造ディレクターの藤井克英さん
ものづくりの拠点と地域に開かれたカフェがゆるやかにつながり、さまざまな楽しみ方ができる

ここには10代から70代まで、さまざまな特性を持つメンバー(利用者)が通っています。

「メンバーと施設が、“利用する人”と“支援する人”という2点だけでなく、もう1つの点、“一緒に誰かへ届ける”という共通の目的を持つ。そのことで、関係は線から面へと広がり、対等で協働的なつながりが生まれると思っています」と藤井さん。

そのために力を入れているのがものづくり。環境が整えば、『色を塗る』『テープを剥がす』などそれぞれの能力を発揮して様々なものづくりに貢献できます。

「だからこそボランティアやスタッフも含め、“できるときに、できることを、できるだけ”してもらっています」

現在約45名の利用者が登録し、分業して手仕事をおこなっている

「『障がい』と聞くと、“できないこと”を思い浮かべがちですが、私たちは“できる可能性”に目を向けてきました。『自立』には、できないことをできるようにするだけではなく、“できないことを誰かに託す”という形もある。互いに補い合うことで“できる環境”が生まれ、その選択肢の多さこそが自立の豊かさにつながるように思います」

“できること”を通じて人と社会がしなやかにつながる。その思いが息づく制作の現場は、実際どのように動いているのでしょうか。

作業しやすい仕組みも道具も、オリジナルで作る

現場では、ちょうど午(うま)の干支飾りが制作されていました。マスキングテープで塗り分けを工夫しながら一つひとつ丁寧に色を塗り、終わるとテープを剥がす。作業はできる人が、できることを分担して進められます。

「デジタル工作機なども揃っているので、機械で加工してスタンプを作りました。従来なら筆で職人さんが感覚的に描いていた部分をマスキングをして塗り分けたり、スタンプを使ったりして表現しています。こうした道具があることで、どの部分に何を施すのかが視覚的に分かり、作業しやすくなる。量産のためにも、こういった道具づくりから工夫しています」

本格的なデジタル工作機器を備え、デジタル技術と手仕事を活かした商品を開発している

これまでに培った経験を応用し、デザイナーと相談しながらスポンジ素材を用いて版画のような風合いを生み出しました。完成までには多くの試作を重ねたといいます。

胴体部分は模様のスタンプ、目の部分は雫型のスタンプ、黒目は綿棒を使うなど、パーツによって道具を使い分ける

「工房にはレーザーカッターもあるので、まずはテストピースを使ってスタンプの再現性を確認しました。そこから微調整を繰り返して、ようやく完成形にたどり着いたんです」

サンプルも自作し、まずはこちらで練習をおこなった
張り子で作られる人気の郷土玩具「鹿コロコロ」制作の様子

工房には多くのオリジナル道具や商品パーツが並び、「商品の数と同じくらい道具がありますよ」とのこと。

「塗装したものを乾かすためにホルダーを作って吊るしたり、リンゴ飴のように突き刺してみたり。ちょっとした“遊び心”を加えて、作る工程そのものも楽しめるよう工夫しています」

使用したあとの端材も、他の作品に活用できる
「鹿コロコロ」を乾かしているところ。開きやすい足を固定するジョイントパーツやホルダーも自作。ずらりと並ぶ姿もキュート

作り手に寄り添う工夫と楽しむ気持ち。その想いが商品の温かみにもつながっているのかもしれません。

丁寧な手作業に個性と温もりが宿る

工房の奥では、熊手の主役「お福」の絵付けが行われていました。立体的な形に合わせて作ったオリジナルのガイドで下書きをし、ほっぺや唇は木の棒で作ったスタンプを使って均一に仕上げます。目や髪の毛など細かな部分は、メンバーが一筆ずつ丁寧に描いていました。

自作の透明な立体ガイドで、各パーツの位置が分かりやすい

「今回は顔の表情がとても大事なので、手描きがふさわしい。描き手の技術が要になりますから、目の太さやカーブ、髪の毛の繊細なラインが描けるメンバーにお願いしています」。

集中力が求められる繊細な作業です。

お福の表情を描く西村さん。自身でも絵を描き、オリジナルキャラクターやぬいぐるみなどを制作するなど、創作の幅を広げているそう

西村さんは伝統工芸やこけしに関するレクチャーを受けるなど経験を重ね、今では均一で美しい仕上がりを実現できるまでになりました。センターでは張り子人形の依頼も増え、国内外から注目されています。

春日大社の神域で育った杉の木を使って

午の干支飾りの素材は杉の木ですが、実はちょっと特別な木が使われています。

「世界文化遺産・春日大社(奈良市)の境内で育った杉なんですよ」と藤井さん。

Good Job!センター香芝の運営母体が所属している別団体「あたしい・はたらくを・つくる福祉型事業協同組合(通称:あたつく組合)」に、春日大社が「障害のある人の仕事づくりに役立ててもらいたい」との思いから譲った木だといいます。

2016年、春日大社の神苑「万葉植物園」で、台風などの被害により倒木や枯損木(こそんぼく)となった杉の間伐が行われました。それまでは園内で循環利用されていて、外に出ることはありませんでしたが、活用方法を模索する中で「あたつく組合」に声がかかったそうです。譲り受けたのは樹齢30〜100年ほどの杉、約30本。

春日大社

世界文化遺産のご神域から木を運び出すには、さまざまな許諾を受ける必要がありました。運搬や製材にも多くの費用がかかるため、クラウドファンディングを立ち上げ、「春日大社境内の杉プロジェクト」として活動を開始。

木の管理や活用を検討し、返礼品の制作まで実施。原木はまず2〜3年かけて自然乾燥させ、その後製材・加工を経てさまざまなアイテムに生まれ変わりました。

返礼品となった、枡や名刺ケース、表札

中川政七商店でもこの取り組みを知り、新年を祝う干支飾りにふさわしい素材だと考え、使用させていただくことになりました。一般に出回る植林材と異なり、春日大社の杉は自然のままの木。節や虫食い、色むらもありますが、それこそが唯一無二の個性です。「木目や風合いの違いも楽しんでもらえると嬉しいです」と藤井さんは話します。

自然に育った個性と力強さを宿す、春日大社境内の杉

このプロジェクトを通じて、春日大社をはじめ多くの企業や団体とのつながりが生まれ、思わぬ仕事にも発展しているそうです。

「規格が揃っていない木は敬遠されがちですが、私たちはそこにこそ価値を感じています。端材も含めてすべて無駄にせず活用する予定です。営利目的ではなく、神社の思いを受け継いで取り組めるのは、福祉だからこそかもしれません」

晴れやかな毎日を願った、賑やかで楽しいお正月飾りたち。Good Job! センター香芝の手仕事によるあたたかい作品で、新しい年を迎えてみてはいかがでしょうか。

<取材協力>
「Good Job!センター香芝」
奈良県香芝市下田西2-8-1

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