毎日かあさん、ときどき職人

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こんにちは。ライターのヤスダユミカです。
生活必需品。でも、どこか愛嬌があって、かわいらしい。ふきんやランチョンマット、ポーチなどの布小物は「お針子さん」と呼ばれる方々に一つひとつ丁寧に縫われています。伝統の技を受け継ぐ職人ではないけれど、自分が得意なことを活かして「工芸」を支えてくれる人たちのほとんどが、家庭を支える主婦やお母さんでもあるのです。今回はそのひとり、田方あいさんに、日々の働き方、暮らし方について、お話をうかがいました。

無心でミシンをかけると、ストレスも飛んでいく。
好きなことをして、お金ももらえるなんて。「お針子さん」ってシアワセな仕事です。

「子どものころから家庭科が得意。夏休みの工作は、いつも縫い物を提出してました」と笑う田方さん。服飾系の短大を卒業後、デザイン会社に就職。出産を機に退職して、しばらくは子育てに専念することに。家事のかたわら、子どもたちの洋服を縫ったり、近所の主婦たちと「手づくりサークル」の活動をしたり。ずっと手は動かしていた。
そろそろなにか仕事を始めたいな。そう考え始めたとき、サークル仲間のひとりが「お針子さん」の仕事を紹介してくれた。
「家でできる!大好きなミシンが使える!わたしのためにある仕事!」と飛び上がって喜んだ。

桜や紫陽花、七夕やクリスマスなど、季節に合わせて柄やデザインが変わる。 出雲のうさぎや福岡の明太子、大阪のたこ焼きなど、ご当地柄も人気。
桜や紫陽花、七夕やクリスマスなど、季節に合わせて柄やデザインが変わる。 出雲のうさぎや福岡の明太子、大阪のたこ焼きなど、ご当地柄も人気。

現在は人気商品のギャザーポーチを主に担当。 「ご当地や季節に合わせて色柄が変わるのが楽しみ。これまでに何個縫ったんだろう?一番多くて月に1000個かな…」 目を丸めるわたしたちに、慌てて付け加える。 「あ、ふだんは月に500個ぐらいですよ」 始めて3年。すっかり頼れるベテランさんだ。

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依頼が入ると、個数・納期などを確認、スケジュールを組み立てる。縫うのは自分、バネを入れたり、包装してくれる仲間と分担し、調整しながら進めていく。
「信頼して任されるので、進行管理はとても大事。ここまで終わった!とスケジュール表に丸をつけるのが気持ちいいんです」。

6時半起床。朝食をつくり、7時半には家族を送り出す。掃除・洗濯を済ませ、お茶を飲んで一息。そこからが「お針子さんタイム」。昼食を挟んで夕方5時ぐらいまで、ひたすらミシンをかける。夕飯とお風呂のあとは、テレビを見ながら布の折り曲げなど単純作業をのんびりと。
「でも、まったくやらない日もある。友達とランチしたり、週1~2回は気分転換にカフェでバイトしたり。メリハリがいちばん」。
家事の効率もアップした。買い物はできるだけまとめて、献立は週のはじめに立てる。
「ダラダラしちゃったらすごく後悔する。この間にポーチ何個縫えただろうって」と想像するだけで悔しそう。「お針子さん」になって、時間の大切さをひしひし感じるようになった。

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自分のペースでお気に入りの音楽でも聞きながら、リラックスしてできるのがいい。夜型人間。気分が乗れば家族が寝てから、仕事することも。
「この夏は忙しくて、テレビでオリンピック見ながら夢中でミシンをかけてたら、空が明るくなっていて。売れっ子漫画家か!みたいな」とか言いながら、なんだか楽しそう。最近はペースもつかめてきて、めったに夜なべはしないけれど。
「困ったときには相談できる工房のスタッフや、手伝いにかけつけてくれる仲間がいる」。
ひとりのようで、ひとりじゃない。そんな繋がり方が心強くて、心地よい。

直線縫いの目安になるように、ガムテープを貼った。布の滑りも良くなる。 タグの縫い位置が一目でわかる型紙もボール紙で自作。日々の工夫も楽しみのひとつ。
直線縫いの目安になるように、ガムテープを貼った。布の滑りも良くなる。タグの縫い位置が一目でわかる型紙もボール紙で自作。日々の工夫も楽しみのひとつ。

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「とにかくミシンで縫うのが大好き。平たい布が立体になって、ずらりと並んでいくのを見るのとワクワクします」。
慣れないものを縫うときは、最初は思うように進まなくても、コツがつかめると本人いわく「よそ見をしても縫える」ぐらいに。そんなときは、「よっしゃ」と小さくガッツポーズ。日々の「成長」がうれしい。
「お母さん、なに始めるん?」と言っていた子どもたちも、「お母さんが縫ったポーチ、お店に並んでたよ」と嬉しそうに写真を送ってくれるようになった。
「商品がテレビで紹介されたときは、家中が大騒ぎ!やっていてよかったって感動しました」と語る表情には、ちょっと自慢げな「お針子さん」と優しいお母さんの顔が同居している。

「イヤなことがあった日も無心でミシンをかけていれば、いつの間にかストレスも飛んでっちゃう」。

歳をとっても、ずっと続けていきたい。それがごく自然かのように、田方さんは言う。
「お針子さん」仲間で集まる機会もある。
「たまには違う話をすればいいのに、『どうやったら早く縫える?』とか『この部分にミシンかけるの楽しいよね』とか。そんな話ばかり」と照れ笑い。
「家で好きなことを仕事にして、その上お金もいただけるなんてシアワセです」。
ミシンの音が伴奏がわり。今日も鼻歌まじりに縫い物をする田方さんの姿が浮かんでくる。

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田方 あいさん
中3と中1、ふたりのお母さん。短大を卒業後、再びミシンをいじり始めたのは、子どもの洋服づくりがきっかけ。「気に入り過ぎて、ぼろぼろになるまで着てくれた」と嬉しそうにかわいらしいズボンを見せてくれた。「仕事のBGMはテンポのいい曲。でもよすぎるとノリノリになっちゃうから適度なやつ」と笑う田方さん。周りの空気が、ぱっと明るくなる。

<関連商品>
・鹿の家族 ギャザーポーチ (日本市)

 文:ヤスダユミカ
写真:林直美

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