見て、触れて、食べられる工芸品。金沢・ひがし茶屋街で金箔尽くしの旅
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九谷焼や漆器と並び、金沢を代表する工芸、金箔。
金と微量の銀や銅などを混ぜ合わせ、薄さ1万分の1ミリほどまで打ち伸ばしたものです。国内で生産される金箔のうち、なんと99%は金沢産のものだといいます。
茶屋が軒を連ね、情緒溢れるひがし茶屋街には、金沢の中でも金箔をさまざまな形で楽しめるスポットがたくさん。仏像や仏壇といったイメージとはひと味違う金箔を探しに、ひがし茶屋街を歩いてみることにしましょう。
金箔を制するには、金箔を知ることから
まずは、金箔のことを学べる金沢市立安江金箔工芸館へ。
金箔職人であった故・安江孝明氏が「金箔職人の誇りとその証」を後世に残したいとの思いから、金箔にまつわる道具や美術品を収集して設立した同館。その後、市に寄贈され、国内で唯一の金箔の博物館となっています。
常設展示室に入ると、金箔が出来上がるまでのいくつもの細かい工程に驚かされます。
特に意外なのが、金箔づくりにおける和紙の存在。箔打ちの際に金箔1枚ずつの間に入れられる箔打ち紙の出来で、金箔の仕上がりも左右されるのだとか。そのため、この和紙の仕込みも箔職人が担います。
工程の解説や道具類の展示のほか、科学的な視点から金箔を紹介するコーナーも。
金箔をマイクロスコープで観察してみたり、光に透かすと金箔がどんな色になるのかを見てみたりなど、理科の授業のようで好奇心をくすぐられます。
金を取り入れて運気アップ
金箔の知識を深めたら、頭を使ったことですし、甘いもので糖分チャージしましょう。
元祖金箔ソフトクリームが食べられる「箔一」東山店へ。
店内には、金箔コスメや金箔コーヒー、工芸品など金箔を使ったさまざまな商品が並んでいます。
入ってすぐのカウンターでソフトクリームをオーダー。店員さんが慣れた手つきでサッと1枚の金箔をソフトクリームにのせていきます。
豪華なソフトクリームを目の前に、食べるのがもったいないと思いつつも、思い切って一口パクリ。金箔入りのスイーツやお酒はありますが、どれも金箔は細かいもの。約10cm角の金箔は、薄くて少し口に触れただけで唇にふわりとくっつきます。
お味はというと無味無臭。食材の味をそのまま楽しめるようです。
金箔は体内で吸収されることはなく、人体には影響はないそう。見た目の華やかさはもちろん、金を体内に取り入れることは縁起がよいことから、食されるようになったのだとか。
箔一では工芸品に金箔を自分で貼る「箔貼り体験」もできます。今回訪れた東山店から徒歩2分ほどの「かなざわ 美かざり あさの」、または箔一の「本店 箔巧館」で楽しめます。良い旅のお土産になりますね。
金の美しい輝きに眼福
さらなる運気アップを狙って、次にやってきたのが箔座ひかり藏。ここにはなんと、「黄金の蔵」があるんです。
築100年以上の茶屋建築を改装した風情漂う店舗の奥へと進むと、中庭に眩いばかりの金の土蔵が見えます。
薄さ1万分の1ミリの金箔を外壁、内壁合わせて約2万枚使用。15年ほど経つ今まで一度も手を入れることなく、その輝きは衰えていないというから驚きです。
職人の手技の素晴らしさを体感
運気を上げたところで、箔押体験に挑戦してみましょう。
ここ、箔座ひかり藏では、事前に予約をすれば箔押体験ができます(予約の受付は体験希望日の前日まで。定員になり次第受付終了)。
箸やミニ色紙など、数あるメニューの中から今回選んだのは、つつみ香。お香を包む紙に金箔を施します。
金箔を無事にのせたら、上から綿でポンポンと押さえて、紙に金箔を定着させます。
ここからが箔押体験の一番の醍醐味。筆で優しく金箔を払っていくと…
実際に金箔を扱ってみると、その繊細さに驚くと同時に、職人の技のすごさを改めて実感します。
そして、金箔と一口にいっても、金属の配合具合によって色味が異なることも意外と知られていないのでは? どれも同じ金色でないのも、金箔の奥深さを物語っているようです。
金箔とともに茶屋文化に触れる
箔押体験で集中力を使ったので、ひと休みしましょう。
せっかくひがし茶屋街に来たのだから、金沢の茶屋文化も垣間見たいところ。
というわけで、箔座ひかり藏の目の前にある懐華楼 (かいかろう) へ。
懐華楼は、ひがし茶屋街で最も大きな茶屋建築。夜は「一見さんお断り」であるものの、昼間は一般公開されています。
まずは、併設のカフェでリラックス。
囲炉裏のある間から、「木虫籠 (きむすこ) 」と呼ばれる茶屋建築特有の格子越しに外を眺めていると、時間の流れがゆっくりになったような気がするから不思議です。
こちらのカフェでいただけるのが、金箔を使ったくずきり。その名も「黄金くずきり」です。
自家製黒蜜の上にピンと敷かれた金箔を崩してしまうのに躊躇してしまいますが、金箔が細かくなっても、花吹雪ならぬ金吹雪のようになって綺麗なのでご安心を。
カフェだけの利用も可能ですが、見学を申し込むと、茶屋建築の奥まで見て回ることができます。
特にここでしか見られないのが、1階にある金箔畳の茶室。
金色の畳は、金箔を巻いた水引をい草の代わりに使って織りあげたもの。何とも贅沢な茶室です。
いつもの暮らしに金箔を
金箔畳とまではいかなくとも、金箔を暮らしに取り入れたら、ちょっと贅沢な気分が味わえそう。そんな思いを胸に、引き続き、ひがし茶屋街を歩いていると、素敵なお店を見つけました。
箔座長町では、「箔と共にある、暮らし。GO WITH GOLD LEAF」をコンセプトに、現代のライフスタイルにもなじむ金箔を使ったアイテムを提案。どちらかというと伝統工芸や和のイメージが強い金箔ですが、こんな雑貨やアクセサリーなら取り入れやすそうです。
見て、食べて、触れて楽しめる金箔。これほど幅広い楽しみ方ができる工芸品は珍しいのではないでしょうか。今回取り上げた場所以外にも金沢にはたくさんの金箔スポットがあります。ぜひ金沢で思い思いの金箔巡りを楽しんでみてください。
<取材協力>
金沢市立安江金箔工芸館
http://www.kanazawa-museum.jp/kinpaku/
箔一
http://www.hakuichi.co.jp/
箔座
https://www.hakuza.co.jp/
懐華楼
http://www.kaikaro.jp/
文:岩本恵美
写真:金沢市立安江金箔工芸館提供、岩本恵美