沖縄の旬のうつわに出会える楽園「GARB DOMINGO」
エリア
産地のものや工芸品を扱い、地元に暮らす人が営むその土地の色を感じられる、「さんち必訪の店」。
“必訪 (ひっぽう)” はさんち編集部の造語です。産地を旅する中で、みなさんにぜひ訪れていただきたいお店をご紹介していきます。
沖縄、GARB DOMINGOへ
今日訪ねたのは、沖縄の台所・牧志第一公設市場のほど近く、壺屋街にあるGARB DOMINGO(ガーブ・ドミンゴ) 。
陶器、漆器、紅型、織物やガラスなど、沖縄の旬の作家ものが並ぶセレクトショップです。
選ぶのは、作家の人となりが見える作品
壺屋街には沖縄の伝統的な焼き物「やちむん」の店が軒を連ねていますが、GARB DOMINGOには、伝統にとらわれない作家さんの作品が置かれています。
「伝統には過去から現在への流れがありますが、僕が出会う沖縄の作家にはそういう長れを持たない、自分ひとりのものを作ってる人が多いですね」と語るのは、オーナーの藤田俊次さん。
もともと東京で建築の仕事をしていましたが、将来子どもを育てる環境を考えて奥さんの実家がある沖縄に移住。2009年、ご夫婦でGARB DOMINGOを開きました。
現在20数名の作家さんの作品を扱っています。
「ちょっと自分の好みと違うなと思っても、個人が『見える』作品だったら、選んでみるようにしています」
個人が見える?
「なんとなく、その作家の人となりが作品から見えるような人を選んでいるのかもしれないですね。今は形が出来上がっていなくても、自分が作りたいなと思ったものがゆっくりと、10年20年後に出来上がるかもしれないなって感じさせる人」
沖縄を感じられるうつわ
作品から沖縄を感じられることも大切にしているそうです。
「修業した先が沖縄だったり、沖縄が好きでしょっちゅう来てる人だったり。沖縄に住んでいなくても、作品から沖縄のエッセンスが感じ取れればいいなと思っています」
藤田さんに、取り扱っている代表的な作家さんを紹介していただきました。
ミスマッチを楽しむ「木漆工とけし」のうつわ
こちらは木工職人の渡慶次弘幸(とけしひろゆき)さんと奥さんで塗師の渡慶次愛(とけしあい)さんの工房「木漆工とけし」のうつわ。
共に沖縄出身で、輪島で漆を学び、現在は名護市で作品を作っています。
一瞬金属を思わせるうつわは、持ってみると、とても軽い。
「沖縄県の木、デイゴを使ってます。沖縄の木は、木自体が軽いものが多くて、本当にスカスカしてもろいんですけど、漆を塗ると硬度が出る。それが質感でも表現されていて、重たそうで軽い、そのミスマッチ感が面白い作品です。
沖縄の木じゃないと出ない軽さですね」
歪んでいるのに、美しい。藤本健さんのうつわ
木工作家・藤本健さんのうつわもアカギやホルトノキ、ガジュマルなど、沖縄の木が使われています。
穴が空いていたり、欠けていたり、歪んでいるのに、なんとも美しいうつわです。
作家の藤本さんは地元で倒され処分される運命だった木を引き取り、うつわに蘇らせているそうです。
「割れとかひびを、その木が持っている個性として出しているのが面白いですね。穴が空いているなら水物を入れなければいい、とうつわに言われているようで、確かにそうだな、とこちらもすんなり受け入れられる。
素材の形と作家の作りたい形がうまくマッチしているように思います」
うつわにとって居心地のいい場所づくり
GARB DOMINGOのディスプレイは、1日のうちに何度も変わります。
「直射日光は入らないんですけど、日の入り具合で店の雰囲気が変わるんです。それで、“今はここに置いたらよさそうだな”って所にうつわを置いています」
配置換えをすると、不思議とお客さんが何度も手に取ったり、変えた直後に買われて行くこともあるそうです。
瞬間、瞬間で、うつわにとって居心地のいい場所を感覚で捉えていく藤田さん。
訪れるお客さんに対しても、大切にしていることがあります。
「僕はあんまり置いているものの説明をしないんです。持って帰る方の、それぞれの家庭があるので。お客さんが“何を盛ろうかな”とか家で使うイメージをしてる時に話しかけちゃうと集中できないと思うので」
ゆったりとくつろいだ気分で作品を見ることができるGARB DOMINGO。
ここに住みたいというお客さんもいたそうですが、なんだか納得できます。お店の外から聞こえる話し声まで心地よく感じます。
「そうなんですよね。ここを決めた時、朝方だったかな。道を箒で掃く音が聞こえたんですよ、シャッシャッって。その音と混ざってバイクが市場に向かう音が聞こえてきて、それが妙に『旅感』があった。
何でだろうと思って2階から外を見たら、前の通りが一方通行だったんですね。一方に音が抜けていくところに時間の流れを感じて、“あ、ここだな”と直感的に決めました」
お店づくりは、街づくりの視点で
並ぶうつわもお店の場所も、お話を伺っていると藤田さんは感性で選んでいるように思えます。
しかし、お店をこの場所に決めたのには建築をやってきた藤田さんらしい、大きな「戦略」がありました。
「もともとお店は、中心地からちょっと外れた、観光客と地元の人が行き交うようなところに作りたいなと思っていました。
重視したのが、自分たちのお店のまわりに次の店舗が入れる余地があるかどうか、です。シャッターが全部開いているのではなく、空き店舗も所々あるような」
旅先でも出来上がっている場所ではなく、これから発展していきそうな所の方が面白いものが見られると藤田さんは言います。
余地を残すことで、どんな「面白い」ことを目指しているのでしょうか?
楽園へ
店名の「DOMINGO」は、スペイン語で「日曜日」という意味だそうです。では、GARBは?
「実は、この近くの市場の下を流れてる川の名前が“ガーブ川”なんです。あまりきれいな川でなく、子どもたちが通る時は鼻をつまんで走ったりしていました。
ガーブは沖縄の言葉で“湿地”という意味もあるらしいと知って、以前、旅先で見た風景と結びついたんです。のどかな日曜日、湿地帯にフラミンゴが居る。
ガーブ川にそんな楽園的なイメージが付いたらいいなと思いました。人がのんびりやって来て、顔見知りの何軒かのお店に顔を出して休日を楽しむような」
お店が市場に近いというのも考えてのこと。
「市場は生活の下支えになっているものなので、うつわともリンクしやすいかなと。生活に近いところで、うつわから影響を与えるといいなと思って」
影響というと?
「伝統的な沖縄の食文化はどんどん廃れているんです。昔はお盆になると手作りしていたご馳走も、今はスーパーで買うようになって。
プラスチックケースに入ったオードブルではやっぱり味気ないんですよね。それを、自分で気に入って選んだうつわに盛るようにしたら、食卓から文化が息づいてくるんじゃないかと思うんです」
実際、お盆の時期に「今日は親戚が来るから」と、市場の買い物帰りにうつわを買いに寄ってくれる地元のお客さんもいるそうです。
「うれしいですね」
藤田さんの人となりを表しているかのようなGARB DOMINGO。
作品の中に「人」を見つけるように、藤田さんはその街が本来持っている魅力や心地よさを感覚的に見つけて、このお店から発信しているのかもしれません。
みなさんも沖縄の旬のうつわと藤田さんの生み出す心地よい空間に触れ合いに、楽園に出かけてみては。
<取材協力>
GARB DOMINGO
沖縄県那覇市壺屋1-6-3
098-988-0244
http://www.garbdomingo.com/
文 : 坂田未希子
写真 : 武安弘毅