重森三玲がつくった、枯山水とモダンな庭。ふたつの景色が楽しめる「ちそう菰野」
エリア
旅先で出会う、日本庭園。
美しく剪定された木や、手入れの行き届いた砂紋。
なんの前知識がなくても心が洗われるような風景に目を奪われますが、見方を知ると、さらに魅力が一段と深まります。庭には、持ち主の想いや、その土地の文化が詰まっているものです。
今回は、三重県内に唯一存在する、世界的に有名な作庭家・重森三玲(しげもりみれい)が手がけた庭を訪ねます。
菰野町を訪れた重森三玲氏
重森氏が手がける庭があるのは、三重県菰野町。
なぜこの場所に庭をつくることになったのか? 重森氏に作庭を依頼した横山秀吉(よこやま ひできち)さんの孫にあたる、横山陽二さんに話を伺いました。
「祖父はこの家を後世に残したいという想いから、庭をつくりたいと思ったそうです。書物で重森さんのことを知り、“一見さん”でお願いに参りました。
当時すでに著名だった重森さんは最初驚いたそうですが、菰野町に足を運んでくさだり、電車の車窓から眺めた田園風景や、この場所から近い廣幡神社が借景にできるロケーションを気に入り、庭づくりを承諾してくださいました」
慌ただしい日常から、舟石で「心の旅」に
重森氏がつくった庭は、建物を挟むように「表庭」と「裏庭」とがあります。
表庭は、重森氏が得意とする、見事な枯山水。ちなみに枯山水とは、水を使うことなく、石や砂で水のある風景を表現する日本庭園の形式です。
庭には、舟のような形の「舟石」があり、そのまわりは海に見立てた幾重にも広がる砂紋を見ることができます。これは、舟石で「心の旅」にでることをイメージしたもの。
医師をしていた秀吉さんは、庭を眺めて心整える場所になるように‥‥と、重森氏に依頼。上空からこの庭を見ると、苔山で「心」という文字が描かれているそうです。
奥には、仏に見立てた立派な緑石も目を引きます。雨が降ると艶やかに輝き、また苔もひらいて、しっとりと風情ある趣に。
吉田宗匠が手がけた茶室
隣には、陽二さんの母の実家から移築したという、吉田宗匠が手がけた茶室「尽日庵(じんじつあん)」も。
この「尽日庵」という名前、『終日、春を探しに出かけたが春は見つからない。家に帰ると庭先に祠んだ梅のつぼみがあり、春の訪れを告げる花はこんな身近にあったのか』という漢詩から命名されたとか。
茶室へと導く前庭には、尽日庵になくてはならない梅畑もつくられています。
表庭とは異なる趣の裏庭
「ちそう菰野」を挟んで反対側にあるのが裏庭。こちらは伝統的な格式の表庭とはうって変わり、モダンな色彩とデザインです。
白い白川砂と赤い天狗砂、青小判石敷。これは、重森氏が菰野町を訪れた際に電車の車窓から見た日差しを受けてキラキラと光る田園風景が描かれています。
こちらの庭は、1968年6月にできあがって以来、家主やその知人以外は目にすることのできないものでしたが、2017年にレストラン・ギャラリー・庭からなる空間「ちそう菰野」として一般開放。
重森氏が手がけた、古典的な庭とモダンな庭に囲まれて食事ができるとは、なんて贅沢なひとときなのでしょう。
素敵な空間の「ちそう菰野」とともに、その空気感を存分に味わいに出かけてみてください。
<取材協力>
横山陽二さん(名古屋外国語大学准教授)
ちそう菰野
三重県三重郡菰野町大字菰野2657
059-390-1951
http://chisoukomono.com
< 関連記事 >
美しい日本庭園で「三重県の縮図」を味わう。ちそう菰野は五感を開放できるレストラン
こもガク×大日本市菰野博覧会
工芸、温泉、こもの旅。
10月12日 (金) ~14日 (日) の3日間、「萬古焼」「湯の山温泉」「御在所岳」「里山」など豊かな魅力を持つ町三重県菰野町で「こもガク×大日本市菰野博覧会」が開催されます。
期間中「さんち〜工芸と探訪〜」のスマートフォンアプリ「さんちの手帖」は、 「こもガク×大日本市菰野博覧会」の公式アプリとして見どころや近くのイベント情報を配信します。また、各見どころで「旅印」を集めるとプレゼントがもらえる企画も実施。多彩なコンテンツで“工芸と遊び、体感できる”イベントです。ぜひお越しください!
【開催概要】
開催名:「こもガク×大日本市菰野博覧会」
開催期間:2018年10月12日 (金) ~14日 (日)
開場:三重県三重郡菰野町
主催:こもガク×大日本市菰野博覧会実行委員会
公式サイト
公式Facebookページ
公式ガイドアプリ(さんちの手帖)
文:広瀬良子
写真:西澤智子