一生ものの日用品を探すなら富山へ。「現代の荒物」が揃う〈大菅商店〉は必訪です
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「さんち必訪の店」。
産地のものや工芸品を扱い、地元に暮らす人が営むその土地の色を感じられるお店のこと。
必訪 (ひっぽう) はさんち編集部の造語です。産地を旅する中で、みなさんにぜひ訪れていただきたいお店をご紹介していきます。
“現代の荒物屋” 高岡の大菅商店へ
今回訪れたのは富山県高岡市にある「大菅商店」。“現代の荒物(あらもの)屋”をコンセプトに、2016年4月にオープンしたお店です。
「荒物」とは、ほうきやちりとり、ざる、たわしなど、どこの家にもある日用品。
ひと昔前は、町の商店街に必ずと言っていいほど荒物屋さんがありましたが、今ではお目にかかることが少なくなりました。
現代の暮らしにフィットした日用品
日本三大仏の一つ、高岡大仏から歩いてすぐ。白いのれんが目印の「大菅商店」が見えてきました。
店の中に入ると、“荒物”がいたるところに並べられています。
ほうきやちりとり、鍋やザル、桶などおなじみの日用品は、種類が豊富で値段もリーズナブル。
「現代でも暮らしのなかでしっかり使えるものや、生活をちょっと豊かにしてくれるような愛着が持てるものを選んでいるんです」と教えてくれたのは、店主の大菅洋介さん。
どこか懐かしい感じがする「大菅商店」の荒物たち。しかし、不思議と古びた感じはしません。むしろ、「こんな風に使うと面白そう」と思わずワクワクしてしまいます。
全国シェア9割。菅笠の技術を使った新しい提案
店に並んでいる商品のなかでも、大菅さんがおすすめするのが「菅笠」シリーズ。
「高岡市は銅や錫などの伝統産業が有名ですが、実は日本最大の菅笠(すげがさ)の産地なんです。『越中福岡の菅笠』と呼ばれ、現在でも年間3万蓋(かい)を制作しています」
菅笠は竹の骨組みに菅(すげ)を編み込む二重構造で、被っていることを忘れるほど軽く、しかも涼しいため農作業に使われることが多かったそう。
ところが、現代になると日常的に菅笠を使う人は少なくなり、産地にも関わらず、高岡市内で菅笠を目にすることが減っていきました。
そこで大菅さんは、菅笠の利点や構造を生かし、現代の暮らしにも取り入れやすいプロダクトを提案。新しい用途やデザインを開発し、菅笠の魅力も発信しています。
建築士が荒物屋を始めた理由とは
ところで、大菅さんの本職はなんと建築士。
富山で生まれ育ち、東京の設計事務所やゼネコンを経て独立しましたが、東日本大震災を機に奥さんの地元で大菅さん自身も高校時代を過ごした高岡に拠点を移しました。
なぜ建築士の大菅さんがこの場所で荒物屋始めることになったのでしょうか?
「高岡市は、江戸時代からものづくりが栄え、歴史情緒もあるまち。これまでの歴史や古いものに価値を見出しながら、にぎわいをつくりたいなと思っていました」
「大菅商店」の建物は、もともと大菅さんの自宅兼事務所として購入した場所でしたが、調べてみると、この建物が大正時代からの荒物屋だったことを知ります。
「ずっとカーテンが閉まっていた場所だったのですが、ここに荒物屋があったということは、まちのなかで必要とされていたからだと思ったんです。それならここで荒物屋を始めてみようと思いました」
とはいえ、昔の形態をそのままトレースするだけでは面白くない。現代のかたちに合わせた店舗にしようというところから、「現代の荒物屋」というコンセプトが生まれました。
お店をやってよかったこと
現在も建築士と荒物屋の店主の二足のわらじを履いている大菅さん。同じ高岡市内の山町筋には元パン屋をリノベーションした「COMMA,COFFEE STAND」をオープンし、バリスタでもある大菅さんの奥さんが店を切り盛りしています。
高岡で夫婦ともにお店を開いた大菅さん。お店を始めてよかったことが2つあるといいます。
「1つは職住の近さ。今は親がどんな仕事をしているかわからないという子どもたちが多いと聞きますが、高岡に来て、子どもたちに親の仕事を見せられる環境になったのはよかったと思います。
現場に子どもを連れて行くこともありますし、お店をつくるときも家族みんなで解体したり壁を塗ったりしました。以前から試してみたいと思っていた生活を実践できたのはとてもよかったと思っています。
2つ目は、『お店を開きたい』という相談が増えたこと。これまでは建物の相談だけでしたが、スタートアップに関することや事業計画、経営の相談まで受けるようになりました。
実際に自分たちでお店をやっているから商売のリアルもわかる。お店を始めるには覚悟がいりますが、僕らでやれるなら誰でもできると思うんです」
「たとえ困難なことがあっても、やっていける方法をみんなで探せばいいんじゃないかな」
まちのみんなが立ち寄りたくなる場所に
オープンして早2年。すっかりまちに溶け込んだ「大菅商店」は、まちの人たちの交流の場となっています。
「地元の方も観光客も、いろんな世代の方がふらっと立ち寄ってくださるようになりました。店の奥はレンタルスペースになっていて、ここでイベントを開くこともあるんです。まちのサロンのような感じになっていますね」
実は少し前に「大菅商店」の隣の物件も購入したという大菅さん。
元文房具店だったことから、新たに“現代の文具屋”をコンセプトにしたお店を開く計画も進んでいます。ここもどんな場所になっていくか、期待が高まります。
まちの歴史を見つめ、かたちを変えて新たな価値を生み出す。「大菅商店」の、そして大菅さんの挑戦は、これからも続きます。
<取材協力>
大菅商店
富山県高岡市大手町12-4
12:00〜17:00
火曜・水曜休み
http://oosuga-syoten.com
文:石原藍
写真:浅見杳太郎