「長く愛されるものづくり」の要素を、Salvia(サルビア)主宰・セキユリヲさんに聞く
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つくり手の人柄が見えてくるようなプロダクト。直感的に、近くに置いておきたいなと感じるものには、人の温度がこもっているような気がします。
「目指しているのは、新しいけど、懐かしいデザイン。
いつまで経っても古びない、長く大切にできるものをつくっていきたい」
デザイナーのセキユリヲさんが主宰する〈Salvia(サルビア)〉は、オリジナルデザインの靴下やハンカチ、ストールなど、日々の暮らしを彩るものをつくっている生活雑貨ブランドです。
Salviaのコンセプトは「古きよきをあたらしく」。
東京・蔵前のアトリエで、日本各地の伝統工芸や地場産業など、つくり手の技術をいかしたものづくりをしています。
デザイナーのセキさんは、やわらかでやさしい温もりのあるsalviaのデザインをそのまま体現したような方。
今回はそんなセキユリヲさんに、Salviaの活動や、日本のものづくりについてお話を伺いました。
植物は人を癒やす力を持っている
Salviaというブランドは、もともとはセキさんの個人的な活動から始まりました。
子どもの頃から絵を描くのが好きで、グラフィックデザイナーとして本や雑誌のデザインなどを手掛けていたセキさん。
「植物のスケッチをしているときやパターンを描いているときが、いちばん心が安らぐんです。
植物の持つエネルギーを身に着けられたら、と、描き溜めていたスケッチを元にものをつくるようになったことが、Salviaの活動につながっていきました」
はじめは、自分でデザインしたテキスタイルを使って、クッションやカーテンなど、生活にまつわるものをつくりためていましたが、2000年に表参道のギャラリー・ROCKETで行った展示会をきっかけに、企業やメーカーとコラボレーションをしてものづくりをするように。
ある染織家との出会い
そんな中、セキさんのその後のものづくりに大きな影響を与える、ある職人さんとの出会いがありました。
インテリアテキスタイルの仕事で、当時新潟にあった「抜染」をしている染め工場と一緒にものづくりをしたときのこと。
※抜染(ばっせん):抜染剤を使い、無地染めの生地の色を抜くことで、模様や柄を描く手法。
それまではインクジェットやシルクスクリーンなどのプリントでテキスタイルをつくっていましたが、初めて職人さんと組んで布づくりを経験。
その道を極めている職人さんの技術に感動し、彼らとのものづくりのおもしろさにすっかり夢中になりました。
「自分ひとりではなく、自分以上にいろんなものを経験している人とご一緒すると、倍以上のクオリティの高いものが人々に届けられるんだなと実感できたんです」
そこからセキさんは、古くから続く職人さんの技術をいかしたものづくりに惹かれ、力を注ぐようになっていきました。
ものづくりの原点は「欲しいもの」
Salviaのものづくりは、まずは「これがつくりたい」「こんなものがあったらいいな」という、セキさんの思いから始まります。
次に職人さんを探しますが、なかには職人さんが見つかるまでに何年もかかることもあるのだそう。
そうして、ようやく出会えた職人さんとのものづくりが始まると、何度も現場に足を運んでは、職人さんと話し合い、試作を重ねていきます。
ときには予想もしていなかったようなサンプルができあがってきたりと予想外の展開や職人さんとの一連のやりとりがとにかく楽しいというセキさん。
「職人さんに『もっとこういうものできませんかね?』というと、『ちょっとやってみるよ』と言って、ぜんぜん違うものがでてくるんですよ。『じゃあこうしよう』『ああしよう』といって、思いもよらなかったものができあがる。その工程がすごくおもしろいんです」
完成したプロダクトだけでなく、職人さんとのものづくりの過程も伝えたくて、2006年から小冊子「季刊サルビア」を発行。ものづくりの裏側にある、あたたかなストーリーの数々を紹介しています。
テキスタイルを学びに、スウェーデンの小さな島へ
さらなる転機が訪れたのは、2009年のこと。
2000年に個人的な活動として始まったSalviaにもスタッフが加わり、徐々に仕事を任せられる状況になっていました。
「一生のうち、何年かは日本以外の国に住んでみたい」という気持ちがあったセキさん。2009年の秋から1年間、ご主人と猫ともどもスウェーデン留学へ。「カペラゴーデン」という小さな手工芸の学校で、スウェーデン織りや刺繍、染色などのテキスタイルを本格的に学びました。
「スウェーデンは、夫と何度か旅行で行ったことがあったんです。他の国にも行きましたが、(北欧が)居心地がよくて、自分たちの求めている感覚に近いなと思いました」
学校があるのは、エーランド島という小さな島で、スウェーデンの中でもとくに田舎で人間よりも羊の数の方が多いような、牧歌的なところだったのだそう。
そこには、何もないからこそ感じられる自然の生き生きした美しい姿や、ものづくりに没頭できる理想的な環境がありました。
「『今日、あの花咲いたね』というのが、みんなのいちばんの喜びだったり、話題の中心だったりするんですよ。
東京で暮らしていた私にとって、それがものすごく豊かなことだなと思いました」
スウェーデンで学んだ1年間のことを、とても大切な宝物のことのように話してくれたセキさん。
雪割草(ゆきわりそう)といって、雪を割って春一番に出てくるお花が咲いた日には、わぁーっと噂が広まり、みんなで走って見に行ったり。
「雪が降った日には、大の大人たちがみんなで懐中電灯をつけて、夜中の散歩に出かけこともかけがえのない思い出です」
スウェーデンでの経験は、その後のセキさんのものづくりにたくさんの変化をもたらしました。
そのひとつが作品の色使いです。
留学を経て、スウェーデンの基本色に惹かれるようになりました。
「透明感があるんですよね。空気が澄んでいるからかな。色の使い方などもきっと、すごく身になっていると思います」
そして、もうひとつ。
「カード織り」という、スウェーデンや北欧で伝統的に伝わる織り物の技法に出会ったことです。
カード(台紙)を織り機に見立て、くるくると回すだけで模様の織り物がつくれるシンプルな手法で、織り機の元祖となったものなのだそうです。
「織り物っていうと織り機がないとできない、道具を揃えなきゃいけないイメージ。でも、この小さなカードならどこでも、例えば、森の中でも織り物ができちゃうというおもしろさがあります」
スウェーデン滞在中、カード織りに長けているある先生との出会いがあり、その奥深さにすっかり魅了されたセキさん。直々にカード織りを集中的に学び、帰国後はSalviaのアトリエなどでワークショップを行うまでになりました。
「そこから、手でつくるものっていいな、と改めて思いました」
ものづくりから、ことづくりへ
セキさんがスウェーデンから帰国した翌年の2011年、Salviaのアトリエは東京の下町・蔵前に引越しをしました。
「蔵前のまちの人と人のつながりの濃さがが、すごく居心地がいいなと思ったんです」
現在、蔵前のアトリエは、ものづくりの企画や発送を行うオフィスとしての役割のほか、月に1回だけオープンする手仕事を販売するお店「月いちサルビア」や、カード織りワークショップの開催など、「地域」と「人」や「もの」がつながる場にもなっています。
さらにこの夏ははじめての取り組みも。新潟のつくり手さんが主催するファクトリーイベントに、お客さんにもSalviaの一員として参加してもらうという体験型の企画を予定しています。
「これからは、『場づくり』や『ことづくり』をやりたいなと思っています。ワークショップや、Salviaの活動を一緒に体験してもらうとか。人と人とのつながりをつくっていきたいですね」
まもなく20周年を迎えるSalvia。
セキさんの趣味の延長から少しずつはじまった活動は、職人さんの技術をいかしたものづくりや、その過程を伝えるための冊子づくり、スタッフとお客さんがつながる場づくりに。
さらには、お客さんにもものづくりの一部を体験してもらうような“ことづくり”へと、ゆるやかに活動の広がりを見せています。
そして、その根底にはいつも「つくることが好き」という、セキさんのおおらかであたたかな思いがあるように感じました。
<取材協力>
Salvia(サルビア)
セキユリヲさん
http://salvia.jp/
文:西谷渉
写真:中村ナリコ、 Salviaさんご提供(スウェーデン写真)