「古きよきをあたらしく。」セキユリヲさんに聞く、これからの伝統技術の活かし方
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愛されるものづくりには、つくり手の技術とこだわり、そして思いが込められています。
その背景の物語に触れたとき、私たちははじめてそのものの真価と出会えるのかもしれません。
「職人と一緒につくると、一人のときより何倍もクオリティの高いものができた」。
ものづくりの現場を知ったとき、デザイナーのセキユリヲさんは興奮したといいます。以来、日本の伝統技術をリスペクトしながらものづくりを続けます。
そんなデザイナーの目から見た、これからの技術のいかし方とは——?
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今回お話を伺ったのは、雑貨ブランド「Salvia(サルビア)」のセキユリヲさん。東京・蔵前を拠点に、日本各地の職人さんと組んで、日々の暮らしに寄り添うものづくりをしています。
Salviaのものづくりに学ぶ、技術をいかすヒント
商品をつくりはじめるとき、セキさんはまず自分でサンプルをつくるのだとか。
デザインをするだけでなく、あるときは刺繍をしたり、またあるときは織り機を使うことも。
それを職人さんのところに持ち込み、商品化する方法を模索していくそうです。
サンプルまで自分でつくってしまうデザイナーはなかなかいないと思いますが、だからこそ技術的に何ができて何ができないのか、どんな表現の可能性があるのかが、肌感覚でつかめるのだろうなと思いました。
実際サンプルをつくるようになってから、より自分のイメージを伝えやすく、職人さんとのコミュニケーションもスムーズに進むようになったのだそうです。
そうして、職人さんの技術を最大限にいかした質の高いものが仕上がっていきます。
また、セキさんはよく現場に足を運ぶそうです。
「職人さんとの話が本当におもしろいんです。こっちが楽しんでると、職人さんもノッてくれますしね(笑)
技術を本当に尊敬していますし、やりとりの工程こそおもしろいと感じてます」
ものづくりの過程では、とにかくいろいろな予期せぬ出来事が起こりますが、試行錯誤をかさねていくうちに、思ってもみなかったような素敵なものができあがっていくのだそうです。
それは決して一方的なコミュニケーションではなく、技術側とデザイン側、お互いのアイディアを取り入れながら相乗効果で生まれる“よりよいもの”をつねに探求しているからこそできること。
「『こんなのできたよ』と言って、全然違うサンプルがあがってくることもありますよ。それってじつは、すごく良くなるきっかけなんですよね」
職人さんとのやりとりについて、本当に楽しそうにお話してくださるセキさん。そうして楽しみながら、ものづくりの現場を知っていく。そこに、よいものが生まれるヒントがあるように思いました。
「結果、こんなすごいものができました、ということももちろん大事なんだけど、そこに至るまでの流れこそがおもしろいし、ものづくりの核心はそこにあるんじゃないかと思うんです」
とはいえ、よいものに辿り着くまでの工程は、ひと筋縄ではいかないことも多いはず。
それでも、ときには大変なことすら楽しみながら、技術やものの魅力を最大限引き出そうとできるのは、セキさんはじめ、Salviaのスタッフたちの根っこにある「つくることや、手を動かすことが好き」という気持ちなのかもしれません。
デザインの力がもたらすもの
デザインと技術の組み合わせによって、素敵なプロダクトが生まれるとき、それは単に仕事になるということ以上に、職人さんにとって、良い変化をもたらすこともあります。
セキさんが、10年以上お付き合いしている新潟の小さな靴下工場さんは、Salviaとのものづくりによって、仕事がかわったというつくり手のひとつ。
以前は、いわゆる受注生産で、ときには納期がタイトなものや、量産型のものなど、難しいと感じるお仕事も引き受けていたそうですが、Salviaの仕事がきっかけとなり、やりたいことの方向性がはっきりとし、より職人さん自身がつくりたいものをつくれるようになったそうです。
また、職人さんのお子さんが3人揃って家業を継がれているのにも驚きました。
後継者がいなくて途絶えてしまうつくり手が多いなか、家族全員が継ぐというのは、とても嬉しいこと。
きっと、生き生きと働いている親の姿を見たり、素敵な商品ができあがるのを見ることで、子どもたちも家業の魅力に気づくのだろうなと思いました。
いま、産地で求められているもの
ものづくりをする過程で、いろいろな地方に足を運んだり、職人さんと日々コミュニケーションをとっていると、そのなかで見えてくる、産地の課題もたくさんあるといいます。
職人さんの高齢化に伴う後継ぎの問題や、10数年前から海外製品が入ってきたことによる価格競争で仕事を失ったり、安価に値切られてしまうことも。
そのように苦しい状況が続いていることから、子どもには継がせたくないという職人さんも多いのだそうです。
日本全国でものづくりの担い手が減っている状況を肌で感じているSalviaでは、そうした体制的な部分を改善していかないとなかなか良い循環はつくれないと、日々話し合いを重ねています。
「職人さんの待遇を改善することが必要だと考えています。技術にも敬意を持って、きちんとしたお支払いをするなど。
職人さん、売り手、買う人がみな、おなじく対等な関係という理解が深まれば、社会の仕組みも変わっていくのでは」と、Salviaスタッフの篠田さん。
「人と人の関わりがないと、いいものはつくれない」
ひたむきにものづくりをする職人さんの姿や技術の素晴らしさを知っているからこそ、産地に寄り添ったものづくりを大切にしているSalviaのスタッフたち。
ものには、つくり手の人柄がしっかりと映し出されるといいます。
「人と人の関わりがないと、いいものはつくれないと感じています。
機械を動かしてつくるときも、その機械を動かすのも人の手なので、つくる人によってできるものが全然違うんです。同じ仕様書でつくっても、違う工場では同じようには仕上がらないことも多いです。そういう部分にも、つくり手の人柄があらわれます。
だからこそ、この人とだったら一緒にやらせてもらいたいと思える人柄や、ものづくりへの考え方を大事にしています」
「私たちがお付き合いする職人さんって、小さい規模の家族や、ひとりでやられてる方が多いんです。
だから、たくさんつくって、たくさん売ってほしいというよりも、自分たちがつくっているものを大事にしてくれる人たちに買ってほしいと思っている方々ばかり。
そんな風に、ものづくりのベースにある大事にしたい部分を共有できる人たちとご一緒させていただいています。そんな職人さんとのつながりを、これからも大切にしていきたいです」
デザインと技術が掛け合わさり、素敵な商品が生まれる。そしてお店で私たちが買うことで産地が少し元気になり、また次のものづくりへとつながっていく。
そんなSalviaの活動を見ていると、ひとつひとつは決して大きな規模ではないものの、人と人のつながりや確かな信頼関係から成り立っていて、とても人間らしい営みだなと感じました。
たくさんものを買って消費するという流れが見直されている中で、古くから伝わる技術をいかして未来へとつないでいくために、Salviaのような活動体から学べることはまだまだありそうです。
<取材協力>
Salvia(サルビア)
セキユリヲさん、篠田由梨子さん
http://salvia.jp/
文:西谷渉
写真:中村ナリコ