全国から「朝食だけ」の予約が入る沖縄第一ホテル。女将が語る「薬膳朝食」の魅力とは
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沖縄屈指の観光ストリート「国際通り」のすぐ近くにありながら、一歩そこに足を踏み入れれば別世界。
他所で出会えなかった沖縄に触れることができたのは、沖縄第一ホテルの朝食会場でした。
1955年創業、全5室の小さな老舗ホテルは宿としての人気もさることながら、宿泊者以外も味わえる「薬膳朝食」でその名を知られます。
常連さんの中には故・筑紫哲也さんなど著名人も多数。
モノレールの県庁前駅から徒歩7分ほどで目指す「沖縄第一ホテル」に到着です。
繁華街の中に突如現れるその門構えは、そこだけ違う世界観が漂います。
緩やかな坂道を登り、明るい中庭を抜けてエントランスへ着く頃には、すっぽりと違う場所へワープしたような心地に。
独特の空気感は、建物の造りやさりげなく配された調度品の成せる技なのだろうと周りをキョロキョロしながら、離れの朝食会場へ。
日差しがよく差し込む会場はその分照明は控えめ。
ちょうど木陰で休んでいるような気持ちでいよいよ朝食がスタートです。
いざ、薬膳朝食のテーブルへ
着席した時点ですでにテーブルにはたくさんの料理が。
左手前は沖縄特産の紅芋とウコンが練りこまれたパン。はちみつ、自家製のブルーベリージャムやごまペーストをつけて味わいます。こうした何気ない付け合わせも豪華です。
こちらは、沖縄では定番野菜というオオタニワタリのおひたし。
ひと皿片付くとすぐ次の料理が運ばれてきます。
どれも沖縄で古くから愛されてきた食材ばかり。薬膳の視点で考えられた料理がなんと20品は並びます。
「沖縄第一ホテルの薬膳朝食」誕生のきっかけ
2代目女将を務める渡辺克江さんにお話を伺うと、こうした朝食のスタイルになったきっかけは、初代女将であるお母様の海外旅行がきっかけだったそう。
「母が50年ほど前にヨーロッパ旅行をした時、コーヒー、トースト、ベーコン、卵の朝食だったそうです。
当時、当ホテルで出していた朝食と全く同じ内容でした。
そこで母は『せっかく沖縄においでになるんだから沖縄らしい朝食を出せないか』と考えて、祖母が作ってくれた島野菜料理をお出ししたところ、お客様が大変喜んでくださったそうです」
品数は一品一品増えていき、最終的に朝食で何品、何カロリーがベストなのかを管理栄養士さんにみてもらい、「50品目585キロカロリー」の朝食に。
さらに克江さんが国際中医薬膳師の資格を取っていたため、薬膳的な食材の組み合わせや調理法を加えて、現在の「沖縄第一ホテルの薬膳朝食」が完成しました。
沖縄第一ホテルの薬膳朝食は、うつわにも注目
ここでもう一つ注目したいのはそんな思いのこもった料理をいろどる、美しいうつわの数々。
沖縄の焼き物を代表する大嶺實清 (おおみね・じっせい) さんのうつわや琉球漆器などが惜しみなく使われています。
「海を越えてはるばる来て下さるお客様に、沖縄の美しいうつわや調度品を見ていただきたい、沖縄の作家さんの素晴らしい作品を味わっていただきたいとの思いから使わせていただいております」
と渡辺さん。
お母様と一緒に窯元に出向き、一品一品、手に取ってどんな料理をのせようかと相談しながら選んでいるそうです。
「古くからお付合いのある作家さんや陶工さんが多いので、うつわへの思いを伺いながら選んでおります。その時間がとても楽しい」とのこと。
写真やお店でため息まじりに眺めていた憧れのうつわを、実際に食事の場で手にすることができる贅沢。
沖縄のうつわに興味がある人には、これ以上ない出会いの場にもなるかもしれません。
さて、美しい琉球ガラスのうつわで旬のフルーツもいただいて、もうお腹いっぱいです。
並んだ食材は50種類以上。これだけ食べて3,240円 (税込) というお値段にも感動します。
もう一つ何より嬉しいのはこれが朝ごはんということ。
沖縄第一ホテルの朝食は8時、9時、10時の時間制。
1時間ほど過ごしてもまだお昼までは十分に時間があります。これからたっぷりと沖縄を満喫できるのです。
この後は、やっぱりこんな素敵なうつわを見てしまったからには、自分も何か家に持って帰りたいな。
沖縄の人たちの体を支えてきた、知恵と栄養満点の朝ごはんに元気をたっぷりおすそ分けしてもらい、渡辺さんのこんな言葉に背中を押されて、沖縄の旅は続きます。
「沖縄にはおじーやおばーの健康長寿を支えてきた栄養価の高い島野菜がたくさんあります。沖縄の風を感じながら薬膳朝食を召し上がったいただき、元気に1日のスタートを切ってほしいなぁと思います」
<取材協力>
沖縄第一ホテル
沖縄県那覇市牧志1-1-12
098-867-3116
http://okinawadaiichihotel.ti-da.net/
※朝食は前日までに要予約
文・写真:尾島可奈子