わたしの一皿 雪どけのうつわ

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千葉に生まれ育ったものとして、千葉愛がある。それもかなり大きな。数にはできないが、いつも心にしまってあって、今か今かと出番を待っています。そんな僕ですが、各地へ行くと「千葉の名物は?」と聞かれてなかなか困る。これ、千葉県民あるある。実は北海道に次ぐほどの農業県だし、漁業も酪農も盛ん。だけど、一つ一つの素材に目立ったインパクトや知名度がない。うーん、残念。しかし、そのあたりの控えめさがかえって千葉の魅力、と思ってしまう人がもしいるとすれば、同士です。あなたも千葉出身ですね?ほどほど何でもある県、それが千葉。

前置きが長くなりました。みんげい おくむらの奥村です。寒いこの時期ですが、そこかしこに春の訪れを感じさせる食材が並び始めます。今日の素材「菜の花」もその一つ。冒頭の千葉の話、ここにつながります。千葉の県花は菜の花。そして千葉の食用菜の花はダントツ日本一の生産量なのです。なのに「千葉といえば菜の花なんですよ!」と自信たっぷりに各地で話してもぽかんとされるんだ。うーん、わかります。子供ながらに、春に咲いた菜の花を見て、「地味だなぁ」と思ったもの。

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しかし、食材の菜の花と聞けば、心躍る人も多いはず。地味の滋味です。ひかえめな花、あざやかな緑の葉と茎、そこからは想像も出来ぬほろ苦さ。ギャップにグラっとくるんだよね、というまさに好例でしょうか。優しいあの人のたまに吐く毒っ気が好き。そんなのありますよね。こちとら日々毒まみれですが。まあそれはいいか。

今日は菜の花をシンプルに芥子あえに。さっとゆがいて調味料にひたし、ちょいと待てば出来上がり。なかなか優秀なクイックメニュー。あわせるうつわは白。日本の民藝のうつわの代名詞とも言われる産地のものです。はたしてどこのものかわかるでしょうか。

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答えは「小鹿田焼(おんたやき)」。大分県日田市にある産地です。小鹿田焼といえば、飛び鉋(とびかんな)や刷毛目(はけめ)という技法で知られ、それが頭に浮かぶ人はなかなかうつわ好きですね。今日はそこを敢えての無地。小鹿田焼のやさしい白を感じてもらえませんか。天然の素材からできた釉薬は、そもそもいわゆる「白」よりはクリームがかっておだやかな色なのですが、それが焼きの具合でさらに色々な表情を見せます。柔らかくて味わい深い白でしょう。

このうつわが作られる小鹿田の皿山(集落)へは、日田市の中心部から車で30分ほど。皿山の景色自体のうつくしさがまたたまらない場所なんです。町を抜け、山に入ると川沿いをひたすら登っていきます。冬の終わりには梅、春は桜、初夏は蛍、秋は紅葉、冬本番は雪景色。いつ訪れても美しい日本の里山の季節を感じることができる山道を登ったらいよいよ到着。一子相伝が守られ、今も10軒しかない小鹿田焼の窯元。そこかしこに窯やその煙突が見えます。目を閉じれば、その小さな集落の中を流れる川の音と、川の水を利用して動く唐臼が、コーン、コーンと焼き物のための土を砕く音が聞こえます。

よくよく各窯元の売店をのぞけば、最初はまったく同じように見える小鹿田焼もそれぞれの家に特徴があることがわかります。今日の一枚は果たしてどこの窯元のものかな。

冬はよく雪が降る小鹿田。そんな小鹿田の景色のような白のうつわに、菜の花が乗っかれば、もう雪どけ。テーブルの上にも春の訪れです。さて、今夜はこの菜の花にどんな酒を合わせよう。鼻の奥をぴりりとくすぐる芥子。うーん、こりゃ日本酒を人肌ぐらいでお燗かなぁ。

奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。

みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文:奥村 忍
写真:山根 衣理

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