自分のお店を持つという人生の選択。3つの人気ローカルショップ店主の場合
三者三様の店づくりから、人気店のヒントをつかむ
旅の目的地になるような、わざわざ行きたいお店が今、地方都市に増えています。
9月某日、その人気店を集めたトークイベントが行われ、開催の数日前には「立ち見も満員」で受付をストップするほどの人気ぶりに。
生活雑貨メーカーの中川政七商店が主催する合同展示会「大日本市」で行われたそのイベントのタイトルは‥‥
司会:「この時間のテーマは『人が集まるLocal Shopのつくりかた』としています」
司会:「それでは、スピーカーの皆さんに拍手をお願いします。
登壇いただいている3人は、皆さん地方都市で魅力的なショップを展開する方々なんですが、それぞれ、立場は異なっています。
『ataW (アタウ)』関坂さんは、福井県の鯖江出身で、300年以上続く漆器メーカーの跡継ぎとしてUターンしました。
『archipelago (アーキペラゴ) 』小菅さんは、縁もゆかりもない丹波篠山に移住して、お店を開かれています。
『吉嗣 (よしつぐ) 商店』の吉嗣さんは、チェーン展開をする蔦屋書店の六本松店の中にお店があるというユニークな業態で、地元福岡で、地域に根ざした独自のお店づくりをされています。
今日はこの三者三様の店づくりから、人気店のヒントをつかんでいきたいと思います」
福井県鯖江の「ataW (アタウ) 」、兵庫県丹波篠山の「archipelago (アーキペラゴ) 」、福岡県六本松の「吉嗣商店」。
どのお店も、セレクトの審美眼や空間の心地よさ、ここにしかない体験ができる場所として人気を呼び、まさに「人が集まるLocal Shop」となっています。
都市部にはない暮らし方、働き方。自分のお店を持つという人生の選択肢。
3店はそれぞれ、どのようなきっかけで始まり、人気店に至ったのでしょうか。
司会:「それでは、早速はじめていきましょう」
Local Shopの魅力がたっぷり詰まったお話、第1話は「きっかけ編」をお届けします!
お店を始めたきっかけは、こんなところから
まずは自己紹介を兼ねて、お店を持つことになった経緯のお話からスタート。
3人への事前アンケートを元に、それぞれのエピソードにはこんなキャッチコピーが付いていました。
「嫌々ながら」「植生があった」「お客さんが上司」。
司会:「まず、『嫌々ながら』の方から聞いてみたいんですが」
「はい、僕です(笑) 」
と手を挙げたのはataWの関坂さん。
「実は、おふたりとは違って純粋に、お店をやりたくてスタートしたというのでは、正直ないんですが‥‥」
とちょっと話にくそうです。
ataW関坂さんの場合:「嫌々ながら」Uターン
関坂:「改めまして、福井県の鯖江市というところからきました、関坂達弘と申します。
本業は、鯖江で1701年から続いている家業の漆器業をやっています。本業とは別にやっているのが、ataWというお店です。
もともと僕自身はデザインの勉強をしてきて、仕事もデザイン事務所で、主にグラフィックデザイナーとして広告とか雑誌のデザインをしていました。
でもずっと、親からは『帰ってこい、帰ってこい』と言われていて。最初は『嫌々ながら』2014年に会社を継ぐために戻ってきたんです。
実はお店自体は元々、別の名前で、親が運営していました。でも、僕が好きな感じじゃなかったし、お店の売り上げもそんなに良くなかった。
だったら、しばらく鯖江を離れていた自分の視点で、何か地域の中で面白いお店が作れないかと思って、任せてもらったのが始まりです。
その場所をataWという名前でリニューアルしてオープンさせたのが、2015年ですね」
はじめは「嫌々ながら」家業を継ぎ、それと同時に未経験からお店を持つことになった関坂さん。
ちょうどその頃、店舗運営の経験をしっかり積んだ上で、自身のお店を立ち上げようとしていたのが、archipelagoの小菅さんです。
archipelago小菅さんの場合:「植生が合った」場所へ移住
「植生が合った」のが開店のきっかけ、と答えたのは、archipelagoの小菅さん。
小菅:「初めまして。丹波篠山で、アーキペラゴというお店をやっております。小菅庸喜 (こすげのぶゆき)と申します」
「もともと丹波篠山自体には、縁もゆかりもなく、出身は埼玉です。武蔵野と呼ばれるような緑の多いエリアで高校まで過ごしました。
その後、京都の美術大学に行って、2007年に卒業と同時にセレクトショップを展開するアパレル会社に入社しました」
主にはブランドのあるべき姿や発信の仕方を考える、ブランディングプランナーという立場で店舗運営に携わり、ちょうど関坂さんのataWがオープンした2015年に独立。自分でお店を開くことに。
自分のお店をと考えた時、小菅さんの頭にあったのは「商売をする場所」というよりも、「自分が妻や子どもと、どういう場所にベースを置いていくのか」という思いだったそうです。
小菅:「幼少期、今でいう自然教育寄りの幼稚園に行っていまして。自然に対して感じる美しさみたいなものは、原体験として持っていたんですね。
そういう視点で、長野の松本や安曇野のあたりとか、山梨のあたり、瀬戸内も穏やかで良いねって、妻といろいろな土地を探しました。
前職の本社が大阪にあったので、関西圏ならどこかと考えた時に、大阪から1時間ほどの距離にある丹波篠山という場所が目にとまったんです。
訪れてみると、もともと城下町だった町ならではの文化度の高さがあって、そういう土台の上に、我々より10歳くらい上の世代の先輩たちが、新しいお店を始めたりしていました。
昔からのものと新しいものがうまく混じりあって、少しずつ町が動き出しそうな気配を感じたので、思い切って移り住んで、店を始めた、という経緯です」
Uターン、移住。
暮らす場所を変えてお店を開いたataWの関坂さんやarchipelagoの小菅さんとは対照的に、「吉嗣商店」吉嗣さんは、もともと馴染みのある土地でお店を開いています。
しかもきっかけは不思議な「縁」から。
六本松 蔦屋書店「吉嗣商店」吉嗣さんの場合:「お客さんが上司」になって新店オープン
吉嗣:「初めまして。「吉嗣 (よしつぐ) 商店」を運営しています、吉嗣直恭と申します。よろしくお願いします」
「私は、もともと福岡の太宰府出身で、18歳くらいのときに上京しましてインポートセレクトショップに務めていました。
そのあと福岡に戻ってヴィンテージショップでマネージャー、バイヤーとして働いて、10年ほど、ウェア・家具等、アメリカ全土を回って買い付けをしていたんですね。
その途中、29歳の時に自分でお店を立ち上げました。
お店は10年ほど営業したあと締めて、全く違う仕事に携わったりしていたのですが、ちょうど3年くらい前にご縁があって今の九州TSUTAYAに入社して、「六本松 蔦屋書店」の中に、生活雑貨やアパレルを中心にしたお店を開いています。
この「3年くらい前の縁」こそが、先ほどのキーワードにつながるよう。きっかけは10年続けられていたご自身のお店での出会いだったそうです。
吉嗣:「私が以前、福岡市内で自分の店をやっていた時に、よく通ってくれていた方がいまして。その方が、ツタヤの方だったんです。
本当に洋服が好きで、いつもこだわりを持って着てくれていて。何かで、ちょっとお茶する機会があったときに『実は、今度ツタヤで新しい形のお店を出すから、そのときに、何かヒントをくれないか』という相談を受けたんですね。
最初はアドバイザー的な役割という話だったんですが、ちょうど自分も、何か新しいことをしてみたいなという思いがあって。
いろいろ話し合った結果、そのまま、入社して、今のお店を持つことになりました。今はそのお客さんが、直属の上司なんです」
そうして六本松 蔦屋書店の中に吉嗣商店がオープンしたのは2017年。
3店ともここ数年でスタートしたお店ですが、きっかけも動機も、本当に三者三様です。
きっかけがあって始めたとしても、そこからお店を自分の力で「続けていく」ことは、簡単なことではないはず。
話はここからお店づくりにぐっと踏み込んで、人気店を支える重要なテーマに入っていきます。
司会:「ここからは『人が集まるお店をつくるには』、続いて『ローカルショップって儲かるの?』というテーマで話を伺っていきたいと思います」
序盤はここまで。次回、まず「人が集まるお店をつくるには」のお話から始まります!
<お店紹介> *アイウエオ順
archipelago
兵庫県篠山市古市193-1
079-595-1071
http://archipelago.me/
ataW
福井県越前市赤坂町 3-22-1
0778-43-0009
https://ata-w.jp/
六本松 蔦屋書店 吉嗣商店
福岡県福岡市中央区六本松 4-2-1 六本松421 2F
092-731-7760
https://store.tsite.jp/ropponmatsu/floor/shop/tsutaya-stationery/
文:尾島可奈子
会場写真:中里楓