人気ローカルショップから見えてくる地域の今とこれから。3人の店主の選ぶ道
地方都市で魅力的なお店を開いている3人からお店づくりの秘訣を伺う、トークイベントレポート。今回は第3話、いよいよ最終回です。
第1話はお店を始めたきっかけ編、第2話は商品仕入れや空間づくりなど具体的なお店づくり編でした。
そして第3話は、お店づくりのその先へ。
ものを売る、買う場所としてのお店の役割を超えた、ローカルに生きるお店だからこその展開が、3店それぞれに始まっています。
ものづくり産地、鯖江にUターンして「ataW (アタウ)」を開いた、関坂さんの今とこれから
「自分の町には何もないと思っていた」と語るのは、ataWの関坂さん。
関坂:「小菅さんのarchipelago (アーキペラゴ) とはまたちょっと違うんですが、うちも、周りは田んぼに囲まれていて、ビジネスとしては、ここにお店は絶対に出しちゃいけないような場所にあります」
「でも実は、鯖江には越前漆器、眼鏡、越前和紙、越前刃物と色々なものづくりがあって、うちの店の半径10km以内くらいに集積しているんです」
「越前和紙の里には全国で唯一、紙の神様を祀る神社があったりして。厳かでとてもいい場所です。そういうことに、戻って来て初めて、少しずつ気づいていきました」
そんなものづくり産地で、ちょうど関坂さんがataWを開店させた2015年から「RENEW (リニュー) 」という体験型マーケットが始まります。立ち上げたのは県外から鯖江へ移住し、TSUGI (ツギ) というデザイン事務所を立ち上げた若者たちでした。
「毎年10月に行なっているんですが、普段は公開しない和紙や漆器の工房を見学できたり、ワークショップをしたり、買い物ができたり。今では越前市などと一緒に、広域で開催しています」
自分がかつて思っていた町とは、違う。町の変化を感じる中、関坂さんは去年から、RENEWの中である企画を始めています。
外の視点を取り入れて、地域の新しいものづくりを
「ataWlone (アタウローネ) というタイトルの企画なんですが、事前に外部のデザイナーを鯖江に呼んで、越前和紙や漆器の工房に連れて行って、その中から好きな技術や素材を選んでもらうんです」
「それでRENEWの期間中に、うちのお店で作品を発表してもらいました。
中には商品化されて、今は他のお店に卸しているものもあります。
職人さんも、自分の作ったものがそういう形で世に出て行くということは初めてで、とても喜んでくれて。それが僕にとっては一番嬉しかったですね」
例えば県外の木工作家、西本良太さんには越前漆器の「塗り」を活かした作品づくりを依頼。ataWで開かれた個展には、レゴブロックなど30種類にのぼる「漆塗りを施した既製品」が並びました。
「溜塗 (ためぬり) という伝統的な技法が使われています。朱色の上に半透明の漆を重ねてあるんですが、そうすると角のラインだけ、下地の色が透けて浮かび上がる。
漆器業界では定番な塗りなんですが、こうして既製品に施すと、普段見慣れているものが漆によって全く違ったものに見えて、とても新鮮でした。
職人さんも、初めは『なんでこんなものに塗るんだ』と怪訝な顔だったんですが、みんな最後には面白いと言って、展示を見にきてくれて」
「どんなに素晴らしい技術があっても、地域の中に暮らしていると見えなくなっていることが、僕ら自身もよくあります。
それを外部のデザイナーさんと組んでフラットな視点で解釈してもらうことで、新しいアイデアを生み出したいなと。
今、鯖江ではTSUGIのメンバーがRENEWを通して、もともと地域にあったものをよく見せることをしてくれているので、それなら僕は、ataWという場所を通して新しいものづくりのチャレンジをしてみようと思っています。
漆器メーカーという本業の方ではどうしても、機能性や売れる、売れないでものづくりをしなければいけない側面がありますが、お店では実験的なことがやれるので。
いつかはこういうチャレンジがきちんと職人さんの仕事に繋がって、ビジネスにもなっていくというのが理想です。
何のためにやっているかといえば、やっぱり僕が、生業としてデザインや、ものづくりの側にずっと立ってきたからなんでしょうね」
農業地、丹波篠山に移住して「archipelago」を開いた、小菅さんの今とこれから
実は、鯖江の関坂さんとはまた異なる土地の状況から、同じように新たなものづくりに取り組んでいるのが、丹波篠山のarchipelago (アーキペラゴ) 店主、小菅さんです。
小菅さんはその取り組みを、「風景を守るためのコンサルティング」と表現していました。
小菅:「丹波篠山という町は、今は観光地としても知られつつありますが、基本的には農業地なんですね。
お米や丹波黒豆、丹波大納言小豆という、おせちなんかに使われる食材がよく作られています。
さっき関坂さんも神社のお話をされていましたけど、篠山にも、土地への感謝を捧げるお祭が、まだ観光化されずにずっと受け継がれていたりします。
そういう文化を支えてきたのはやはり一次産業を担う人たちで、彼らが元気じゃないと、僕たちが好きになった風土は簡単に廃れてしまう。移住してきた身としては、それこそ死活問題です。
そんな思いもあって、去年問屋さんからお話をいただいて、篠山の食材を生かした加工食品のブランドを立ち上げました」
「デザインは、実は鯖江のTSUGIさんに依頼しています。
鯖江の伝統産業も丹波篠山の農業も抱えている問題は共通する部分も多く、問題を解決したり新しいプロダクトを生み出して行く際に、共通言語が多くある上でデザインしてもらった方が良いと思って。
また、自分たちがちゃんと責任をもって販路も確保する形で、プロデュースさせていただきました。
関坂さんの『土地の職人さんたちが元気で喜んでくれるように』というお話と近いと思うんですが、僕も土地の生産者の方にどう還元をしていくのか、が取り組みの根底にあります。
トレンドではなくて、細く長く、定着して続けられるようなプロジェクトにしていきたいです」
観光地、太宰府に生まれ地元で「吉嗣商店」を開いた吉嗣さんの今とこれから
地域への還元は、地元の作家さんの作品を積極的に取り扱っている「吉嗣 (よしつぐ) 商店」の吉嗣さんも共通しています。
加えてもう一つ、吉嗣さんは地域へ「やってくる人」へのアプローチを、これから展望しているそうです。
吉嗣:「実は私の実家が、築110年ほどの古い民家を持っていまして。5・6年前から両親とずっと『今後、どうする?』という話をしてきました。
結果、私自身はあまり関わらないのですが、ちょうど来月、10月4日のオープンで古民家ホテルとして再生することになりました。(※トークイベントは9月に開催)
ちょうど小菅さんの丹波篠山でも古民家ホテルを手がけられた、建築家の才本謙二さん設計です。
太宰府という町は昔からの門前町で、一年を通して訪れる人の多い町です。最近は海外のお客さんも多く観光地として賑わっていますが、実は滞在時間でいうと、とても短いんですね」
「先ほど小菅さんがお店づくりの話で『来てもらったからにはゆっくりしてもらいたい』というお話をされていましたが、私もずっと、お参りしてすぐに帰ってしまうだけではもったいない、そういう過ごし方を何か変えられないか、という思いを持ってきました。
今回せっかくこうして宿が出来るので、私はものを扱う仕事を続けてきた身として、いつかホテルのそばで新しい形のお土産屋さんをできないかなと思っています。
海外からのお客さんも多い町なので、『日本』そのものを提案できるような。そういう発信拠点を作ってみたいですね」
ローカルショップのその先へ
ものづくりの町・鯖江に戻ってきた関坂さんは、職人さんたちを元気にするために、お店を実験とチャレンジの場に活用。
農業の町・丹波篠山に移住した小菅さんは、好きになった風景を残していくために、地域の人たちとものづくりをスタート。
観光の町・太宰府生まれの吉嗣さんは、地元の魅力をもっと知ってもらうために、新しいお土産屋さんを構想中。
町への関わり方が三者三様に異なるのは、まさにローカルショップならではです。
そして地方創生、町おこしと声高に叫ばなくても、みなさん当たり前のように地域のなかでアクションを起こしているのがすごい。
お店という場所や経験を最大限に活かしながら、その役割は「ものを売る・買う」という範疇を軽やかに超えているように見えます。
これからのローカルショップの可能性。
その一端は、『僕も飲食や宿泊にとても興味があります』と最後に語った小菅さんの、こんな言葉にも感じられます。
小菅:「篠山という土地に暮らしていると、日常の中にも美しさがたくさんあって、それに気づける環境であることを日々嬉しく感じます。
ですが、お店に来ていただける日中の短い時間だけでは、その変化や発見に出会うことはなかなか難しい。
一方で飲食は、その土地の食材を体の中に入れるということですよね。
宿泊はその土地で裸になってお風呂に入って身を横たえるわけで、動物的に考えると、もう身を晒した状態で、その土地に浸かるということだと思うんです。
一度、その土地のものを食べて、身を横たえて朝になると、人の感情って初日にきた時とは、また少し違う感覚になっているんじゃないかなと思って」
「ここ数年、ライフスタイルショップという言葉をよく耳にはしますが、スタイルじゃなくもうちょっと地に足がついた形で、ものを長く使ってもらうためにはどうしたらいいか。
そう考えた時に、そういう『滞在』の仕方までサービスを設計した上で、何かを買っていただくという方法もありなんじゃないかな、小さな規模でやっているからこそ、出来ることなんじゃないかな、と最近思っています。
どんなことでも、それがさっきお話しした、土地の風土に僕たちが恩返しできることにつながれば。
自分たちの周りの環境を整えていきながら、できることから土地に関わって行けたら良いかなと思うんです」
徹底的に「ローカル」でありながら、従来の「ショップ」のあり方にとらわれない。
時にものづくりの実験室、時にコンサルタント、時に町づくりの担い手にもなりうる。
そんな、楽しくてたくましいローカルショップの今と近未来を、見せてもらったトークイベントでした。
<お店紹介> *アイウエオ順
archipelago
兵庫県篠山市古市193-1
079-595-1071
http://archipelago.me/
ataW
福井県越前市赤坂町 3-22-1
0778-43-0009
https://ata-w.jp/
六本松 蔦屋書店 吉嗣商店
福岡県福岡市中央区六本松 4-2-1 六本松421 2F
092-731-7760
https://store.tsite.jp/ropponmatsu/floor/shop/tsutaya-stationery/
<関連情報>
■RENEW 2019
新山さんたちが河和田で始めた体験型マーケット「RENEW」が今年も開催されます!
開催:2019年10月12日(土)~14(月)
会場:福井県鯖江市・越前市・越前町全域
https://renew-fukui.com/
■吉嗣さんのお話に登場した太宰府の古民家ホテルはこちら:
「HOTEL CULTIA DAZAIFU」10月4日営業開始
https://www.cultia-dazaifu.com/
文:尾島可奈子
会場写真:中里楓