老舗「あかしや」で真剣な筆選び。空海ゆかりの「奈良筆」で新年を迎える

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お正月には書を見ることが多くなりますね。

筆で書かれた年賀状は、目を引きます。

日本の文化を感じるし、何より美しく、かっこいい。

自分もこんな年賀状が送れたらと憧れますし、書いた人に尊敬の念すら抱いてしまいます。

正月行事には「書き初め」もあります。

新年の抱負を、思いを込めて書く。PCやスマートフォンに打ち込むより、決意も覚悟もずっと深く、筆が表してくれそうです。

大人のたしなみとして、筆を持ってみたい。

いつかはと願うなら、それは年の改まる今かもしれません。

「“弘法は筆を選ばず”と言いますが、それは超名人の空海さん(弘法大師)ならでは。良い筆を選ぶと書が楽しくなりますよ」と語るのは、奈良筆のトップメーカー、「あかしや」の代表取締役社長、水谷豊さんです。

株式会社あかしやの代表取締役 水谷豊さん
株式会社あかしやの代表取締役 水谷豊さん

筆発祥の地で伝わる奈良筆とは

筆は飛鳥時代に中国から奈良に伝来し、作られるようになったのは平安時代。

製法を唐から奈良へ持ち帰ったのは、空海と伝わります。

代々多くの筆匠が、発祥の地で奈良筆ならではの伝統の技を磨き上げてきました。

あかしやは創業300年以上。もとは「南都七大寺」に仕える筆司(筆職人)の家でした。

奈良市に本社を構える
奈良市に本社を構える

南都七大寺とは東大寺や興福寺など、奈良(南都)で大きな勢力を持っていた寺のこと。

その筆司であるということは、はるか昔から筆のトップメーカーであったということです。

江戸中期には筆問屋として看板を上げた、老舗中の老舗です。

そのあかしやが作る奈良筆とは、日本の筆の起源にさかのぼる、国指定の伝統的工芸品です。

動物の毛を丹念に練り混ぜて

奈良筆の最大の特色は、丹念な練り混ぜ技法にあるとされています。

毛は1本1本が異なるため、筆作りに機械は使いません。

規格品を作るには、熟練した匠の手技が必要となるのです。

筆匠は高度な技で、リスやムササビ、イタチにタヌキやヒツジなど9種類にもおよぶ動物の毛を、巧みに組み合わせていきます。

たとえばリスは筆のすべりを良くし、運筆を助けるもの。イタチは柔らかで弾力があり、筆先に鋭さと粘りを兼ね備えます。

そんな個体ごとの特性から長所を引き出し、修正を繰り返し、練り混ぜることで弾力を与え、絶妙の穂先を持つ1本に仕上げるのです。

練り混ぜの作業。重ね合わせた毛をむらのないように練り合わせていく
練り混ぜの作業。重ね合わせた毛をむらのないように練り合わせていく

その技がよく分かるのが、水谷さんが「奈良筆の代表選手です」と胸を張る「円転自在」という筆です。

奈良筆
円転自在

筆には写経用、かな用、漢字用があり、さらに漢字には楷書用、草書用、行書用の三体があり、それぞれに用途も使命も異なります。

ところが「円転自在」は、五役すべてを兼ねるもの。

「練り混ぜを究め、自在に弾力を与えることで、オールマイティに使うことができるのです」

奈良筆と遊べるショールームへ

そんな「奈良筆の魅力を知ってもらいたい」と本社に併設されたショールームにお邪魔しました。

明るいショールームには、筆をはじめ、化粧筆などのオリジナル商品も多数並ぶ
明るいショールームには、筆をはじめ、化粧筆などのオリジナル商品も多数並ぶ

場所は歴史を感じさせる平城宮跡(大内裏)の近く。奈良時代の都、平城京があったところです。

「筆と遊んでもらいたい」

ここでは販売する筆の全てを見て、試して、相談して。好みの1本を選ぶことができます。

プロの書道家が選ぶハイクラスな筆から初心者向けまで。姿かたちも様々な筆が勢ぞろい。

1本あれば便利な筆ペンや、道具を吟味した「大人の書道セット」も取り揃え、筆を手にしたい人の様々な思いをかなえます。

奈良筆の歴史も学べるコーナーや、筆匠による実演見学や筆づくり体験も。

良い筆は、コシが強く穂先がよくまとまり、ストレスなく筆がすっと伸びるもの。

「筆は難しいという思いが変わります。“奈良筆体験”をして、書の喜びを知ってください」

筆のコストは原料半分、人件費半分と言われます。

同社は中国に業界初の生産拠点を築き、動物ごと、部位ごとの毛を現地で直に買い付け。高品質の毛を安定価格で仕入れる独自の仕組みを持ちます。

「コストダウンをした分、第一級の腕の良い職人さんを揃えることができ、とっておきの奈良筆を作ることができるのです」

ショールームの一番奥で作業する筆職人。間近で筆作りを拝見できる

老舗だから新しく

老舗だから新しく。これが300年間奈良筆のトップメーカーであり続けるあかしやの社風です。

筆に水を含ませると色が出る、画期的な水彩毛筆ペン「彩」を開発したのもその一つ。

水彩毛筆ペン「彩」
水彩毛筆ペン「彩」

日本の伝統色を本格的な筆で描くことができるもの。

絵手紙はもちろん、お礼状やカード、年賀状にも活躍しそうです。

「国内だけでなくヨーロッパでも好評いただいています。先のとがった筆の文化は西洋にはなく、しかも色の出る筆ペンは珍しい。中国やアジア諸国でも、これまでにない新しい筆だと喜ばれています」と水谷さん。

新商品誕生の裏には「使いやすく楽しくなければ、筆の文化は後の世に続かない」という思いがあります。

「奈良筆の伝統を守り継ぐためにも、今の時代に進化したニュー奈良筆を作りたい」

これからも、あかしやの挑戦は続きます。

新たな年に筆と仲良くなることができるでしょうか。奈良筆が頼もしい味方になってくれそうです。

<取材協力>
株式会社あかしや
奈良県奈良市南新町78番1号

0742-33-6181

http://www.akashiya-fude.co.jp


<企画展のお知らせ>

奈良の一刀彫をはじめ、筆や墨を展示販売される企画展が開催されます。

企画展「奈良の一刀彫と筆」

日時:12月18日(水)〜1月14日(火)*1月1日(水・祝)は休ませていただきます
開催場所:「大和路 暮らしの間」 (中川政七商店 近鉄百貨店奈良店内)
https://www.d-kintetsu.co.jp/store/nara/yamatoji/shop/index02.html

大和路

*企画展の開催場所「大和路 暮らしの間」について

中川政七商店 近鉄百貨店奈良店内にある「大和路 暮らしの間」では、奈良らしい商品を取り揃え、月替わりの企画展で注目のアイテムを紹介しています。

伝統を守り伝えながら、作り手が積み重ねる時代時代の「新しい挑戦」。

ものづくりの背景を知ると、作り手の想いや、ハッとする気づきに出会う瞬間があります。

「大和路 暮らしの間」では、長い歴史と豊かな自然が共存する奈良で、そんな伝統と挑戦の間に生まれた暮らしに寄り添う品々を、作り手の想いとともにお届けします。

この連載では、企画展に合わせて毎月ひとつ、奈良生まれの暮らしのアイテムをお届け。

次回は、「大和高原のお茶」の企画展より「茶園」の記事をお届けします。

文:園城和子、徳永祐巳子
写真:中井秀彦、北尾篤司

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