丈夫なかばんを探して琵琶湖へ。工業資材から生まれた「高島帆布」の魅力

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高島帆布のかばん

「Made In Japan」のタグを見て、その先の“産地”も知りたいな、と思うのは私だけだろうか。

作られている地域が自分の地元だったり馴染みのある場所だったりすると、一気に親近感が湧いてくるものだ。そして「なぜその地域で作ることになったのか?」というものづくりの背景を追ってみると、その地域の風土や歴史が分かるからおもしろい。

たとえば、今回紹介する“高島帆布”。その特徴である「丈夫さ」は、産地の降水量の多さと冬の寒さが関係している。

高島市が織物の産地になった訳

滋賀県北西部に位置する高島市は、古くから織物の産地として知られてきた。

その所以は、わが国最大の淡水湖・琵琶湖と、さまざまな気象条件によって生まれる特異な気候にある。

この地域は「弁当忘れても傘忘れるな」という言葉があるほど、とにかく雨の日が多い。日本海側の若狭湾から吹く季節風が比良山にぶつかり雲が低く立ち込める。そこに雨雲が発生しやすく、「高島しぐれ」と呼ばれる霧のような雨が多く降る。1年を通して湿度が高く、この湿度こそが製糸業にとっては抜群の作業環境といえる。

湿度の高さは糸を撚ったり(よったり)織ったりする際の糸切れを防いでくれる。高島は撚糸(ねんし)業を専門とする業者も残っており、強い撚りをかけた強撚糸(きょうねんいと)を使用した「高島ちぢみ」の産地でもある。

そんな高島で古くから生産されてきたのが「高島帆布」。工業用帆布として使われており、一般向けのアパレル製品をあまり作ってこなかったせいか、知っている人もまだ少ないかもしれない。

江戸時代、琵琶湖を往来する船の帆に用いられていたほど強度に優れ、あらゆる工業用製品の資材として重宝された。戦時中はなんと水汲み用のバケツとして使用されていたという。

高島帆布の生地

かつて綿帆布に定められていた厳格なJIS規格もクリアし、1997年に廃止となった今でもその規格に準じた生産を続けている。

高島特有の気候が、特に厚手で耐久性のある高島帆布を生み出しているのだ。

工業用資材からファッションアイテムへ

そんな帆布の強度を生かし、オリジナルのかばんを制作するのが「kii工房」。

丈夫な生地を生かしたラインナップと、どんなファッションにも取り入れやすいシンプルなデザインが人気だ。

白い帆布かばん
厚手で大きめの帆布かばんは旅行やピクニックなどのおでかけにも大活躍。丈夫なので型崩れしにくく、マチも広いのでたっぷり荷物を詰め込める
荷物を入れていなくても独立するほどしっかりした素材。カラーもホワイト、イエロー、レッド、カーキなど、さまざまなコーディネートに合わせたくなるバリエーションが揃う。
荷物を入れていなくても独立するほどしっかりした素材。カラーもホワイト、イエロー、レッド、カーキなど、さまざまなコーディネートに合わせたくなるバリエーションが揃う
ピクニックでの使用例
赤い帆布かばん

リスタートに何気なく選んだ、織物の郷

代表の來住(きし)弘之さんは、24年前、奥さんの恵美子さんとともにkii工房を立ち上げた。

元々大阪でかばんのサンプルづくりをしていたが、田舎暮らしに憧れ心機一転縁もゆかりもない滋賀県へと家族五人で移り住んだ。それが偶然にも、帆布の産地である高島だった。

平成7年にkii工房を立ち上げた弘之さん
平成7年にkii工房を立ち上げた弘之さん

自分のオリジナル商品で勝負したいと考えていた弘之さんは、早速高島帆布を使ったかばんの製造に着手する。しかし、現実はそう甘くはなかった。

「最初は京都や新旭の駅前にも店を出しましたが、これがうまくいかなくて。」

百貨店への営業も積極的に行ったが、売れ行きはいまひとつ。そこで弘之さんは、一度自分の商品を見つめ直すことになる。

高島帆布の魅力とは何か

來住(きし)弘之さん

「昔はファスナーなどいろんな飾りをつけてみたり、色や柄を多用したり、凝ったデザインのものばかり作っていたんです。

そこから基本に立ち返り、良い素材を使っていかにシンプルに作るかだけを考えました。」

さまざまな要素を極限までそぎ落としたデザインを追求。持ち手を牛ヌメ革に変え、必要最小限のポケットをつけた。商品を作りだして、14年目の方向転換だった。

「kii」のロゴがはいったかばん

本来、高島帆布の魅力は「厚くて丈夫」な生地にある。そこに飾りは必要なく、シンプルであればあるほど、その特徴は際立つのだ。

そこからじわじわと人気を集め、着実に売れ行きは伸びていった。

糸を先に染めてから織る「先染め」での技法でチェックなどの柄を作り出す商品も。
糸を先に染めてから織る「先染め」での技法でチェックなどの柄を作り出す商品も

全国行脚して対面販売

kii工房は12~3年前から、イベントにも積極的に参加している。北海道から九州まで、全国の手づくり市やクラフトフェアに出展するため、月に1~2回は遠征へ出かけているという。

製作風景
革ひもなどの素材

「対面販売が基本だと思っています。実際に見て、この生地に触ってもらいたいんです。」

kii工房代表の來住(きし)弘之さん

「青森や福島へも毎年出展していますけど、お客さんが覚えていてくれたりして。だから次の年には、定番に加え新商品も少しだけ持っていくようにしています。」

人とのやりとりを大事にし、10年以上も全国行脚を続けている弘之さん。そうしてファンやリピーターを増やし、ブランドを着実に育ててきた。

等身大で、最大限のものを作る

工房は弘之さん夫妻の自宅の2階。ここへ毎日、近くに住む長女とその旦那さんがやってきて一緒に作業をする。さらに少し離れたところでは、長女夫妻が作業をしているという。

そう、kii工房の商品はすべて家族7人の手作業だけで作られているのだ。

工房内での製作風景
ミシンを使った製作風景

「子供たちには忙しい時期だけ、ちょっと手伝ってもらうはずが‥‥(笑)」と弘之さん。
今や長男や娘もその婿も、立派な職人だ。

お婿さんの作業風景

サイズ違いや色違いなどを合わせると、商品点数は今や200近くにのぼる。

新しい商品のアイデアや、形や色、ロゴの付け方などのデザインは家族みんなで出し合って決める。外注のデザイナーに頼んだことは一度もない。

工房での制作、全国への出店、長浜にある実店舗の店番と、家族それぞれがすべてのパートをこなしながら、kii工房を支えている。

弘之さん、美恵子さん夫妻と娘夫妻
弘之さん、恵美子さん夫妻と長男、娘夫妻

商品の魅力はその手頃さにもある。商品の平均単価は6000円弱。

まずはお客さんに実際に使ってもらい、その感触を確かめてほしいと、良心価格で提供する。

「良いものを作っても、売れなければそれはただの自己満足。凝ったデザインにしたくなるのをグッと抑えて、この価格帯でできる最大限のものを作っています。」

代表の來住(きし)弘之さん

本当に良いものを多くの人に届けるために、何を捨て何をすべきか。

その答えは、とてもシンプルだった。

 

<取材協力>
kii工房
滋賀県長浜市元浜町21-38(店舗)
kiikoubou@kym.biglobe.ne.jp

文:佐藤桂子
写真:桂秀也

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