お茶好きが指名買いする奈良のお茶。違いは「根っこ」にありました
エリア
お茶と聞いてすぐ思い浮かぶ名産地といえば、静岡、宇治などがありますが、実は、知る人ぞ知る産地が奈良にあります。
お茶を愛する人の間で評価の高いのが、奈良の大和高原で栽培されている銘柄です。
奈良県の奈良市東部や山添村、宇陀市など北東部の高原地帯をさす大和高原は、標高が200mから600m。奈良盆地が100m以下なので、標高の高さがわかります。
夏は涼しく、冬は厳寒なエリアです。
この気候と立地に美味しさの理由があると聞いて、2軒の生産者さんを訪ねました。
毎日毎日、茶の木の声を聞きにいく
まず1軒目の茶農園は、大和高原の山添村でお茶を生産する株式会社大和園。
「実は大和高原の新茶シーズンは、全国でもっとも遅いんです。大和高原の冬は長く、春は遅い。でもその冷涼な環境が、お茶をおいしくしてくれます。日照時間が短く一気に成長できないぶん、根から吸い上げる栄養をたっぷり蓄えることができるからです。昼夜の温度差が大きいことから甘みや旨みを十分に含む茶葉に育つのも特徴でしょうね」と代表の奥中直樹さん。
おいしさの決め手は、根からの栄養だったとは。
太陽の光が少ないことは必ずしもマイナスではなく、そのぶん根が活躍しているとは驚きでした。
奥中さんは先代から受け継いだ茶園でお茶を栽培するうちに「もっと寒暖差が大きくて、茶の木に適した場所があるのでは」というフロンティアスピリットが芽生え、手つかずだった森を自分の手で切り拓いて、何もないところから理想の茶園を追求する活動に力を入れてきました。
こうして完成した茶園があるのは、はるか彼方まで広々と見渡せる小高い山の上。
車一台がやっとの山道を走ってようやくたどり着きます。
茶の木の間を鹿が横切る光景も、日常茶飯事です。
そこにチューブを張り巡らせた最新の給水システムを整え、農薬を使わないように、毎日訪れて虫や病気をチェックしています。
栽培の極意は「茶の木を、甘やかさないこと」。
まるで、奥中さんが親で、茶の木はその子どもたちのようです。
「肥料を与えすぎないように気をつけています。そうすると、茶の木は自分で養分を求めて根を伸ばそうとする。そのほうが、大地の栄養をより多く吸い上げ、おいしくなります」
製法は茶葉に合わせて選択。
「茶畑ごとに、また日ごとに茶葉は変わるから」と、一つひとつの茶畑の状態に応じて、煎茶なら蒸し方を変え、ほうじ茶なら焙煎を変えています。
そうすることで「あの茶畑の、この日の茶葉」がもつ香り、味わいを把握でき、出荷前には「もっと爽やかさを出したい」「風味が増すように」などと絶妙なバランスを考えてブレンドできます。
出荷までのプロセスで大切にしているのはテイスティングだそうです。
仕上げの段階で、色、香り、渋み、甘み、旨みのバランスを確認。奥中さんは「甘み、香りが前に出すぎない、ゆっくり、あっさり」のブレンドを心がけています。
「奥ゆかしい味わい、というのが近いかもしれないですね。濃い味わいが前に強く出すぎると、誰もが似たような感想をもつことになりがちです。あっさりしていれば、人によって受け取り方に微妙な差が出てくる。そのほうが、私の好みには合っているんです」
丹精込めた茶葉は、品評会で受賞した経験は数知れず、最高位に輝くことも。
奥中さんはお茶を出荷すると言わずに「嫁に出す」と言います。
茶葉を語るときの言葉選びにも、親子のような愛情がこもっています。
花も実もあるお茶づくり
「気温が低い大和高原では茶の木が成長しはじめるのが遅く、収穫の回数も限られます。でもお茶は、ゆっくり育つほうがおいしいんです」と案内してくれたのは、奈良市東部に位置する月ヶ瀬の月ヶ瀬健康茶園株式会社の代表・岩田文明さんです。
広大な敷地に、茶畑と茶山が点在していました。
「ここは茶山なんですよ」
かなり傾斜の激しい段々畑を、茶の木の濃い緑が染めています。
歩くというより、山登りをするように茶の木を見てまわります。
さまざまな場所に茶山があるのは、お茶づくりをやめることになった昔ながらの茶山も引き継いでいるからだそうです。
「急斜面なので農作業はしにくいのですが、茶の木がしっかりと根を伸ばし、空気が通りやすいため、水はけがいいんです」
茶山によってちがう環境で栽培されてきた、樹齢50年以上の茶の木を受け継ぎ、斜面の日当たり、土質など、土地のもつ本来の価値をいかして育てることが、おいしさにつながるそうです。
月ヶ瀬の地に根ざし、100年来の特徴を受け継いできた品種名がつけられていない在来の茶樹も、大切に育んでいます。
「お茶の味わいって、土質で変わるんです。以前、さまざまな栽培方法による味のちがいを確かめてみたところ、人の手を加えない自然の土質で育つお茶が、一番すっきりとした風味でおいしいとわかりました。粘土質、花崗岩質など、土質がちがうからこその味の差を楽しむこともできます」
試行錯誤してみたら、答えはシンプルだった。
それ以来、それぞれの立地にふさわしい、自然循環型のお茶づくりを続けているそうです。
「農薬を一度でも使うと、自然の土壌は変わってしまう。虫や雑草も育つ生態系のなかでこそ、私のめざすお茶づくりが続きます」
岩田さんは、手を伸ばして茶の木がつけていた実を拾い、なかの種を見せてくれました。
「私たちは挿し木ではなく、種から育てる実生(みしょう)にも取り組んでいます。実生であれば太い根っこが地下へと深く、木の背丈よりも伸びていくからです」
大地からミネラルをたっぷりと吸い上げられるように、時間がかかっても、茶の根がしっかり伸びる育て方を大切にしています。
自然のリズムがつくるお茶の、爽やかさ、繊細さ、複雑さ、清涼感は格別です。
「おいしい水が、すっとからだになじみ、また飲みたくなるのと似ているんじゃないでしょうか」
大和高原のお茶は、飲み終わってしばらくすると、また恋しくなる優しい風味。
からだと心にじっくりと沁みわたっていくように感じるのも、ゆっくりと丁寧に育ってきたお茶だからなのでしょうね。
<取材協力>
株式会社大和園
奈良県山辺郡山添村菅生2197-3
0743-85-0639
https://yamatoen.nara.jp/
月ヶ瀬健康茶園株式会社
奈良県奈良市月ヶ瀬尾山1965
0743-92-0739
http://www.tukicha.com
文:久保田説子、徳永祐巳子
写真:渡邉敬介、北尾篤司
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