わたしの一皿 なまこの気持ちでのんびりと
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拙著「中国手仕事紀行」が発売から一ヶ月。お陰様で、昨今の事情はさておき好評です。多くの方に読んでもらいたい。
しばらく中国はお預けだな、と思っていたけど国内の移動も色々と気を遣うようになってきましたね、みんげい おくむらの奥村です。
我が家の近くの市場では今が旬の、ある貝がよく見られます。それは北海道からやってくるホッキ貝。げんこつ大のおいしい貝。
旬はこの冬場だけれども、一年を通してみられるもので、一大産地の北海道苫小牧で年に一度か二度これを食べるのを楽しみにしています。アイヌの木工を見に行く時に、この貝を食べるため苫小牧を通る、というお決まりルートがあるのです。
苫小牧ではホッキを使ったカレーを出すお店が多く、市場の有名な食堂は行列ができるほど。
確かに貝の出汁が出るし、身もプリっとして美味しく、絶品のシーフードカレーになるので、ホッキ貝が安い時に試してみてはどうでしょうか。ちなみに今日は刺身ですが、余分に買ったので我が家もホッキカレーを作ったところ。
ホッキ貝は剥き身も売っているのだけれど、断然殻付きで買ってくる方がおいしい。貝剥きで、何個かやってみれば貝を開けるコツはすぐに掴めるし、貝剥きの道具はそこらで売っているので常備しておくといい。
殻付きで買った方がいいのはホッキ貝に限らない。貝全般なので、貝好きの方は貝剥きを常備すべし。これ本当ですからね。
うつわは、島根県松江の湯町窯から
うつわは、島根県の松江にある民藝の窯として有名な湯町窯のものを用意した。青みのある皿は、海鼠釉(なまこゆう)という釉薬が掛かっている。
湯町窯というと、柔らかな黄色を使ったスリップウェアや、目玉焼きをおいしく作れるエッグベーカーが浮かぶ人もいるでしょう。なかなかお詳しいですね。実はこの海鼠釉も窯元定番なのです。
この釉薬は色の出方をコントロールしにくいもので、全面に青が出るものもあれば、今回のようにフチの方にちょこっと、みたいなものもあって、絵画のように選ぶ楽しみがある。
我が家のものは、なんだか波打ち際みたいで、どこか可愛げを感じる。海を感じさせるお皿だから、こんな刺身の時にはよく手に取る一枚。
この釉薬、海鼠釉は藁灰からできている。各地でこの釉薬を使った仕事が見られるのは、身近な天然素材だったからだ。先人たちの知恵と工夫。すばらしいじゃないですか。
そうそう、ホッキ貝といえばあの赤い身。と思うかもしれないが、生は赤くない。茹でると赤くなるのだ。
今回は生きた貝を買ってきたので茹でない。そのまま生で刺身にする。
貝を剥いてヒモや内臓を取り、きれいな身になったものを上からまな板に叩きつけると、キューっと縮む。残酷なようだが、これで貝のコリコリ感がでるのだ。あとは好みのサイズに切るだけ。
新鮮な貝の刺身の甘みときたら、たまらないんですよ。それだから殻付きのまま買ってくる。貝剥きの多少の面倒なんて、この味を考えたら苦にならない。
民藝という言葉に出会って、焼き物をみていくと、本当に土地の素材を工夫して使ってきたことがわかる。手に入るもので誰かの暮らしの役に立つ道具を作り、そしてそれをより美しく、と。
今の暮らしの中ですぐに自分の手を使って何かを生み出すことなんてもちろんできないけれど、そんな感覚で作られたものを手にし、何かを感じることができるなら、まだいいじゃないか。とうつわを手にするたびに思う。
奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。
みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com
文・写真:奥村 忍