函館バウハウス工房から生まれた、親子二人三脚のものづくり

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息子から母への本当の気持ち

母を目の前になかなか素直に話せなかったので、「五稜郭(陶器製)鍋敷き」ができるまでの話を簡単にまとめます。

まず初めて中川さんに会いに奈良に行ってきた事をうらやましがり、一番大きなリアクションをとったのは母でした。函館バウハウス工房併設のギャラリー以外で作品を置いている場所が無くなったりしたので、そんな母のためにも「中川さんの力を借りて、工房で商品を作り、『函と館』に置きたい」と思いました。中川さんのコンサルが始まり、商品の企画や組立てなどを教えてもらうときは、常に工房で作れるものがないかを考えていました。

そして、やっと企画ができて母に話を持っていくと、その反応は意外でした。

喜ぶと思いきや「作りたくない」と言われました。最初、僕は作りたくない理由がピンとこなくて「なんで?」と思いました。

今はやっとわかるのですが、作家としてのプライドがあり、自分の個性を捨てて、お土産のような商品を作るのが嫌だったんだと思います。

 第55回(2016年度)日本現代工芸美術展への留利子さん出品作「MINORI」
第55回(2016年度)日本現代工芸美術展への留利子さん出品作「MINORI」

「函と館」のオープンまで時間が無いときで、地元の工芸の土産ものが1つでも多く欲しかったので、最後は頼み込んで協力してもらうことになりました。型作り、色見本などの試作品を作るのは割とスムーズでした。でもその後、量産する段階で問題が多く発生しました。
まず素焼する前の乾燥段階で歪みが出やすく、また五角形の内側にヒビが入ることが多くありました。重石をのせ通常よりも時間をかけて乾燥させることで少しずつロスが減っていきました。その他にも色々と細かい注文をたくさんつけました。今まで同じ商品を大量に作ることをしてこなかった母には、いろいろと苦労をかけたと思います。

他の陶芸作家さんだったら失礼だったな…と反省しています。「子供だから協力してくれた」と今は感謝しています。それでも「函と館」のオープン後、いろいろなメディアで「五稜郭(陶器製)鍋敷き」が取り上げられると、やはり母は嬉しそうでした。

余談ですが、僕が空港ビルに入社して間もないころ、同僚が使っていたコーヒーカップを見てびっくりしました。母が作ったコーヒーカップだったからです。当たり前ですが、一目見てすぐにわかりました。それをきっかけにその同僚と仲良くなり、「函と館」の企画に繋がっていきました。

佐藤さんの同僚の方が使われていたものとは違いますが、留利子さん作のコーヒーカップ
佐藤さんの同僚の方が使われていたものとは違いますが、留利子さん作のコーヒーカップ

そのコーヒーカップには、作家の個性が出ていたので、一目見て母が作ったものだとわかりましたが、「五稜郭(陶器製)鍋敷き」を見ても母が作ったものだとは誰もわかりません。

正直、母に作ってもらったことで、陶芸作家としてのブランドを下げてしまったのかもしれません。でも、親子のコニュニケーションはだいぶ増えました。

「函と館」にとっては、素晴らしい土産ものができたと心から思っています。次の僕の仕事は、母の陶芸作家としてのブランディングですかね。

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拓郎さん、開発秘話のさらに秘話をこっそり(?!)教えていただいてありがとうございました。大人になってみると、両親や兄弟、身近な人に本心を伝えるのはなかなか勇気がいるものですよね…。
私は、お2人を取材させていただいて感じたことがあります。留利子さんは、単純に息子だからという理由だけで拓郎さんに協力をしたのではなく、函館の文化や街の魅力を発信すべく邁進される1人のプロの姿に気持ちが動かされたのでは…。陶芸のプロである留利子さんも、誇らしい気持ちでいらっしゃると思います!「語りたくなるストーリーのあるお土産」として、商品開発は大成功でしたね。
いつか、留利子さんのブランディングを進める際は、ぜひさんちで取り上げさせてください!

函館バウハウス工房・山の手スタジオBAU
函館市山の手2-49-21
0138-55-4806

文:山口綾子
写真:菅井俊之

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