【職人さんに聞きました】夏の食卓におすすめの「津軽びいどろの豆皿」は、夏の短い青森生まれ。
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蒸し暑い日本の夏に、活躍するのがガラスのうつわです。たっぷりとそうめんを盛り付けた大鉢やキンキンに冷えたビールジョッキなど、思うだけで涼しげですね。
この夏、そんな暑い季節の食卓に涼を添える、小さなうつわが誕生しました。淡い色合いが美しい「津軽びいどろ」の豆皿です。
「津軽びいどろ」は、全国でも夏の短い東北・青森生まれのガラス工芸。四方を海に囲まれた地理条件が、本州最北端の地に美しいガラスをもたらしました。
「はじまりは漁師さんが使う『浮き玉』作りだったんです」
そう語るのは中川洋之さん。「津軽びいどろ」を手がける北洋硝子株式会社の工場長です。
もともと北洋硝子は青森近海でホタテの養殖が盛んになったのをきっかけに、設置網に取り付けるガラスの浮き玉をメインに作っていたガラスメーカー。
北洋硝子製は厚みが均等で水圧にも強く丈夫だと全国から注文が入るようになり、いつしか業界トップシェアに。その後浮き玉はガラスからプラスチックにとって代わり、メインアイテムは花瓶、食器にシフトしていきます。
「テーブルウェアになると色も多様になりますね。でもガラスの主要産地である東京や大阪から色付きのガラスを都度取り寄せるには遠く、手間がかかりすぎる。
それで色の調合も自分たちでやっていくようになりました。津軽びいどろのあの色も、そうやって生まれたんです」
手近な原料を使って新しい色ガラスの開発に取り組む日々。
そんなある日、1人の職人が美景で知られる砂浜「七里長浜」を散歩していて、ふと足元の砂に気がつきました。
「これを使ってガラスが作れないかな?」
ちょうど社内では、青森の自然を題材にした作品づくりのために色の開発が行われていた頃。試みに先ほどの砂を調合してみると、見事に透き通った美しい緑色のガラスが現れました。
のちに青森県の伝統工芸品に指定される「津軽びいどろ」誕生の瞬間です。
「砂って山から海にかけて色が薄くなっていくんです。前に山の砂をガラスに溶かしてみたら、茶色っぽい色になりました」
首都圏から離れていたからこそ、海に囲まれた土地だったからこそ生まれた美しい色ガラス。
そのチャレンジ精神が功を奏し、今では絶妙で多彩な色のバリエーションが、北洋硝子さんの強みです。ガラス工場としては珍しい、100色以上もの色を保有しています。
「今回ははじめに七里長浜の砂から生まれた色を再現した緑色と、青色が2色。一口に青といっても、色合いがまた違うでしょう」
▲「津軽びいどろ」のルーツともいえる、七里長浜の砂から生まれたグリーンの「七里長浜」、深みのある「瑠璃」、涼やかな「藍鼠」の3色
▲七里長浜の砂を配合した原料。これがあの美しい緑色になるとは、この時点では想像もつきません
▲こちらは瑠璃色の原料
▲藍鼠色の原料
美しい色合いを混じり気なく表現するには、調合だけでなく成形にも高度な技術を要します。
「こういう一色だけの色ガラスは、模様がないので小さな気泡でもあればすぐにわかってしまいます」
一点の曇りもない透き通った肌は洗練された技術の証。それを、熟練の職人でも難しいという小さな小さなサイズに仕立てて生まれたのが今回の豆皿です。
用いるのは、ガラスの種を落とした型を高速回転させ、遠心力によって成形する「スピン成形」という方法。つくられた豆皿には、形に微妙な揺らぎが出るのが特徴です。
工程の一部始終を見せていただきました。
▲調合ずみのガラス原料を高温の炉の中で溶かします
▲ガラスの種を落とします
▲型が高速回転!わずかな置き方で形の良し悪しが決まります
▲あっという間に冷え固まります。この色は・・・
▲深みのある「瑠璃」の色が現れました
「難易度は5のうち4ぐらいかな。でも『なんでも作ってみる』というのがうちのスタンスですから」と語る中川さんの表情は誇らしげです。
その幅広いガラスづくりにチャレンジできる環境に惹かれて、現場には若い職人さんの姿も多数。
食卓を涼しげに演出してくれる小さなガラスのうつわは、北の海に生まれ、現場の熱意に育まれて、今日も美しい淡い色合いをたたえています。
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