日常にハレを取り入れる、手毬の宇宙

伝統的なお正月の遊びといえば、凧揚げ、コマ回しの他に、昔は女の子たちが手毬をつく姿もよく見かけられたそうです。「手毬」や「手毬唄」は新年の季語にもなっています。

ゴムまりが入ってきて以降は手毬は遊ぶ道具から観賞用に変化し、すっかり姿を見かける機会も減りましたが、今でも全国に15地域ほど、手毬の産地が存在しています。

「昔は全国に46種類くらいあったんです。ただ遊ぶだけ、見るだけでなく、いろいろな縁起を日常に気軽に取り入れられるアイテムでもあったんですよ」

そう教えてくれたのは東京・北千住にあるはれてまり工房代表の佐藤 裕佳さん。

全国の手毬文化を伝え残すために、ものづくりワークショップや手毬グッズの開発、手まりをモチーフに活かしたカフェやスイーツブランドを展開されています。

中川政七商店ではこの春、このはれてまり工房さんと共に「手毬のさくら根付」をつくりました。

小さなサイズに込められた、知られざる手毬の世界を、佐藤さんの案内で探訪します。

はれてまり工房代表の佐藤 裕佳さん

定義するのも難しい、自由な工芸

手毬の歴史は古く、中国から日本へと渡来したのは飛鳥・奈良朝時代のころ。平安朝時代以降は公家の遊びに用いられ、江戸に入るとお土産やお祝いの贈り物などに変化していきました。

明治時代に入るとゴムまりの普及により、糸を使った手まりは観賞用に。

「各地に手毬づくりは伝わっていて、特に雪国は、農業ができない冬の間につくる、貴重な収入源にもなっていたようです。私の出身地である秋田県由利本荘市にも『本荘ごてんまり』という伝統的な手毬が伝わっています」

この「本荘ごてんまり」を大学の卒業式の髪飾りに使ったことがきっかけで、各地にある手毬の魅力と存続の危機を知ったことが、現在の佐藤さんの活動のきっかけだったそうです。

各地で最も盛んにつくられていたのは、実は昭和の高度経済成長期。地域おこしや観光の手土産にと、全国に一斉に広まっていきました。その数、最盛期には記録に残るだけでも46種類。現存する15種類ほども、その姿は実に様々です。

「実は、手毬って研究されている先生でも定義が難しいと言うほど、素材やつくり方や模様も自由度が高いんです。糸を巻きつける芯も、もみ殻やヘチマの綿、発泡スチロールなど様々。暮らしの身近なものでつくってきたのでしょうね。

変わったものでは、滋賀県愛荘町の『びん細工手まり』。球体の瓶の中に手毬がぴったりと入っています。新潟の『栃尾てまり』は中身が独特で、蚕の繭の中に木の実を7つ入れて、手毬の芯に使うものが昔は主流だったそうです」

フリーハンドで生み出す模様

図案も決まったルールはあまりなく、つくり手次第。頭の中に描いた図案を、まち針で印を付けたりしながらフリーハンドで糸をかがっていきます。はれてまり工房さんでも、今回のようなアイテムの企画があるごとに新作が生まれているそう。見た目は伝統的な佇まいですが、デザインは常に進化を遂げています。

「それでも人気の柄というのは全国共通であって、一番スタンダードなのは菊。両面に菊があしらわれた二つ菊はよく見かけるんじゃないかなと思います」

「他にも縁起のいい麻の葉柄や菱がつながっている菱つなぎ、亀甲柄、それに、今回手がけた桜のモチーフもやはり人気ですね」

「桜柄はいろいろな地域でつくれられていて、糸の掛け方やデザインも様々です。今回は2面の桜にし、葉桜を思わせる黄緑色の『帯』をつけることで引き締めています」

「また絹糸を使用することで小さくても柄の繊細さがきちんと出て、職人の技術への敬意を表せたかなと思っています。どこかの糸一本の色や素材が違うだけで表情がぐんと変わるのが手毬の面白さです」

今回の根付のように小さいサイズは、ちょっとした糸の加減で柄のニュアンスが変わるので特に技術がいるそう。細やかな技が生きた、手のひらサイズの工芸品です。

日常にハレを取り入れる縁起ものとして

つくり方に決まったルールがないからこそ、伝わる姿も多様。ですが、その根っこには共通してひとつの意味が受け継がれています。

「ハレとケという言葉がありますが、ケがただただ続いていくと、ケが枯れて穢れ(ケガレ)になる。それを穏やかなケに戻すのがハレです。

手毬はそんなケに、さりげなくハレを取り入れるものだったのだと思います。まるい形は万事が丸く収まる、縁(円)をつくるといった意味につながりますし、弾むような人生を、という意味も込められます。地域によって、結婚などのハレの日に贈る文化も伝え残されてきました。

物質的に豊かな生活を送る今の時代の中では、こうした『もの』に託された思いや願いは少し気付きにくくなっているかもしれません。だからこそ、大切な人の幸せを願ってつくられ、贈られてきたものだと知ると、見る目や手にするときのワクワク感も変わるんじゃないでしょうか。

日常にハレを取り入れるアイテムとして身につけたり、誰かに贈ったりしてもらえたら嬉しいです」

万事が丸く納まり、縁が生まれて、人生が弾むように。一年の始まりに、こんなに心強い味方はないかもしれません。

<取材協力>
はれてまり工房
東京都足立区千住東2丁目5−14
http://haretemari.com/

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