和傘CASAが仕掛けた、日本一の和傘産地の逆襲。
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長良川てしごと町家CASAを訪ねて
「日本一の和傘産地の逆襲!築100年の町家を伝統工芸体験拠点『CASA』にしたい!」
そんな目標をかかげ、わずか1ヶ月で目標額の150%にあたる300万円のクラウドファンディングに成功。
2018年5月にオープンしたのが、岐阜和傘専門店「和傘CASA」です。
築100年の町家を改装した店内には常時、蛇の目傘、番傘、日傘と60本近くが揃い、実際に手にとってその手触りや柄の美しさを確かめることができます。
お店があるのは岐阜城のお膝元、風情ある町なみが残る岐阜市川原町。
鵜飼で有名な長良川がすぐ近くを流れます。
実は岐阜は日本の和傘の7割近くを作る日本一の和傘産地。
しかしCASAが誕生するまで、岐阜県内に和傘を扱うお店は一軒もありませんでした。
「ピーク時は600軒あった問屋さんも今ではわずかに3軒です。
それに問屋さんはあくまでも卸すのがメイン。一般の人が欲しいと思っても、目にすることすらかなわない状況でした」
そう振り返るのはCASA立ち上げ当初からお店を見守ってきた店長の河口郁美さん。
「始めるときには、売れないよと老舗の問屋さんから言われましたね。
でも、岐阜の人ですら和傘の存在を知らないということに危機感を覚えたんです」
今日はそんなピンチから始まった、「和傘産地の逆襲」のお話です。
はじまりは「おんぱく」から
「もともと地域にある文化が、外から見ると面白くて貴重である、ということは地元にいるとなかなか気付きにくいんですよね。
そういう見出されていない魅力を一堂に集めて発信するために、10年ほど前から『おんぱく』をやり出したのが私たちの原点です」
温泉泊覧会、通称「おんぱく」はもともと2001年に別府で始まった取り組みで、今や全国に展開される地域活性の手法。
中でも「長良川おんぱく」は、流域ならではの体験・アクティビティが100以上開催され、全国の開催地の中でも最大規模を誇るそうです。
事業の切り盛りにあたり、「長良川おんぱく」事務局を軸に長良川流域の持続可能な地域づくりを支援する、NPO法人ORGANが設立。
これが、のちの和傘CASAを運営する母体になっていきます。
「イベントは毎年秋に開催していたんですが、そうすると季節的にお見せできない魅力もありました。
おんぱくで体験を提供されている漁師さんや猟師さん、農家さんなどの魅力を伝えて、いつでも商品が購入できるようにしたいと、はじめにオンラインショップを立ち上げました。
そこから、今度は町なかにも、職人さんたちの商品をいつでも手に取れる場所が欲しいねと話すようになりました」
こうして長良川流域で作られたものだけを扱うセレクトショップ「長良川デパート 湊町店」が2016年6月にオープン。
この時お店で扱っていた工芸品が、岐阜名産である提灯と和傘でした。
岐阜和傘につのる危機感と、新たな出会い
取り扱う品物の中でも河口さんたちが気にかかっていたのが、和傘。
日本一の産地であるのに、地元の人でも詳しく知らない。作り手も問屋さんも減っている。一般の人が興味があっても、買うお店がない。
危機感がつのる中、一人の職人さんとの出会いがありました。
税理士事務所職員から和傘職人へ異色の転職を果たし、修行中だった河合幹子(かわい みきこ)さんです。
「着るものが和服から洋服に変わって、今では和傘をさす人をほとんど見かけないですよね。
でも河合さんの作る傘を見たときに、とてもポップだなと思ったんです。和傘イコール和服、ではなくて、洋服にも合いそうだなって」
たとえ現状は厳しくても、手を止めずに仕事を続けてきた職人さんや問屋さんがいる。そこに続こうとする若手の職人さんもいる。
伝えることが、やるべきことだ。
そう決心し、見事にクラウドファンディングを実らせて、岐阜県内で唯一の和傘専門店CASAが2018年の春にオープンしました。
CASAで扱う和傘の中には、同時期に独り立ちした河合さんのブランド「仐日和 (かさびより)」の傘も。
中でも桜の花びらをかたどった傘が美しいとSNSで注目を集め、河合さんとその傘を扱うCASAの取り組みは、一躍脚光を浴びることとなりました。
「河合さんの傘は、CASAでしか買えないんですよ。お店のオープンと彼女の独立が重なって、岐阜和傘ブランドを一緒に育ててきたような気持ちですね」
他にも店内では市内の問屋さんや、独立して自分のブランドを持つ職人さんの和傘などを幅広く扱います。
「CASAを立ち上げたことで、初めて横のつながりができたように思います。
長良川デパートだけだった時は、お客さんも岐阜に和傘があることを知らずに、一目惚れして買う方がほとんどだったんです。
それが専門店ができたことで、和傘が欲しいと思う人に直接、岐阜和傘の存在が届くようになった。
CASAのことを知った人がお店に足を運んでくれて、こんなに和傘を欲しいと思う人がいたんだと、私たちも気づくことができたんです。
これでようやく、みんなで岐阜和傘を残していこうという気運が高まってきたように思います。ここまで繋いできてくれた職人さんや問屋さんには、感謝しかないですね」
最近では和傘づくりに欠かせない、骨やろくろの部品職人をサポートするクラウドファンディングにも成功し、今まさに育成事業を始めているところだそう。
「和傘って何万円というお買い物で、お客さんも気に入ったものをよくよく選んで、惚れ込んで買うものかなと思います。
だからふらっとお店にきてくれた人が、すぐその場で買わなくっても構わないんです。お店を通して、和傘をいつか欲しいなと思う人を増やすのが、私たちのミッションです」
「岐阜に美しい和傘あり」を声を大にして伝える拠点を得て、日本一の和傘産地の逆襲はこれからが本番です。
<取材協力>
和傘CASA
https://wagasacasa.thebase.in/
岐阜県岐阜市湊町29番地