墓石から現代アートまで。瀬戸内にしかない石の町をめぐる。

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「瀬戸内の海を思い出すような配合にしているんです」

そう語るのは庵治石を使ったガラス作品「Aji Glass」を手がける杉山利恵さん。

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庵治石を溶かして作るガラスは、牟礼町の採石場で見た白と黒の世界からは思いもよらない、淡い青色をしています。瀬戸内の海を思わせるガラスを杉山さんが見出したのは、実は香川から遠く離れた富山の地でした。

子どもの頃からものづくりが好きだった杉山さんは、大学卒業後インテリアショップに就職。販売の仕事をするほどに製作への思いが強まり、地元高松のガラス作家さんの作品に出会ったことがきっかけで丸亀の吹きガラス講座の門を叩きます。どんどんと湧いてくる創作意欲を発散するように、広告など表現ができる仕事に転職。それでもデジタルな表現に関わるほどアナログなものに惹かれるようになり、ついに東京の学校に1年、より設備などの揃った富山の学校に2年通い、ガラス作りに没頭します。Aji Glass誕生のきっかけはそんな富山での学生時代、自分の作風と向き合う時間の中で生まれたそうです。

「富山と香川では、気候も海も山も、全く様子が違うんです。富山は曇りの日が多くて、1日の中でも天気が移ろいやすい。山は切り立って、冬は厳しい寒さです。香川は晴れの日が多くて、山はなだらか、冬も温暖です。その頃から帰省のたびに、香川の風土がすっかり体に染み付いている自分を意識するようになりました。香川で生まれ育った私が作るグラスなら、その土地を思い浮かべることができるものにしたい、と思ったんです」

地元の誰もが知っていて県外の人に勧めたくなるようなもの、素材の段階から溶かし入れることができるもの、と考えた末に、たどりついたのが庵治石でした。

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「庵治石のことは、香川県民なら9割以上の人が知っていると思いますよ。ガラスはもともと鉱物ですし、石なら色がきれいに出るかも、という期待もありました」

その予感は的中します。学校で材料の配合に詳しい先生に頼んで試験をしてみたところ、「青っぽいガラスになるかもよ」とのコメントが。

「初めてグラスが完成した時は鳥肌がたちました。大好きな香川のイメージが、この青色だったんです。この色だったから、作品を作ってみようと思いました」

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ただ、懸念が一つ。まだ地元の人達の反応がわかりませんでした。答えを求めるように、杉山さんはAji Glassを香川県の県産品コンクールに出品。見事受賞を果たします。

「思った以上に地元の人に喜んでもらえたんです。『本当に瀬戸内の海の色やね』って」

受賞をきっかけに注文や取材依頼が増え、香川に戻って本格的に制作を始めることに。その前に、庵治石の産地をまわって、石材屋さん、地主さんや組合・商工会に、庵治石を材料に使うことの許可を求めに行ったそうです。

「はじめは心配でしたが、産地のみなさんもちょうど、庵治石を手頃な価格で買えるインテリアにも活かせないかと、模索していた時だったんですね。暖かくAji Glassのデビューを承諾してくれました。これなら、自分の独りよがりではない、産地と使う人をつなぐ役割をAji Glassが担うことができる。大好きな香川を、好きなことで伝えられる。この産地のみなさんの『いいよ!』が、全部の扉を開けてくれました」

お話を伺ったギャラリーは、高松市内の倉庫を改修した2階。1階が実際に瀬戸内ブルーの器達が生まれる工房になっています。実は杉山さんご自身も、Aji Glassが青くなる瞬間は見たことがないそうです。

工房の2階のギャラリー。
工房の2階のギャラリー。
これがガラスに溶け込ませる庵治石の粉末。
これがガラスに溶け込ませる庵治石の粉末。
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ほのかに青みを帯びているように見える
ほのかに青みを帯びているように見える

「原料を窯の中で1300度以上で溶解する際に、一晩かけて人知れず、ガラスとなり、青くなります。私もその瞬間は見ることができないんです。この青いグラスに、水を入れると本当にきれいで。いつか自分の器を使ったカフェを庵治の海の近くでやりたいと思うんです」

1200年続く産地の石材加工の技術を受け継ぎながら、庵治石の普及に力を入れる中村さん。大好きな香川の魅力を伝える素材を求めた末に、庵治石を見出した杉山さん。

二人がそれぞれに愛する石の街の景色は、初めて訪れた私にも、新鮮でワクワクするものでした。観光ガイドブックの定番旅とはまた違う、石をめぐる香川の旅。ぜひ一度訪れてみてはいかがでしょうか。

<取材協力>
有限会社中村節朗石材

さぬき庵治石硝子 Aji Glass


文・写真:尾島可奈子

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