わたしの一皿 うりずんの頃
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あたたかくなるころによく使いたくなるうつわがある。食べたい食材や料理からうつわを選ぶときもあれば、こんな風に気候やその日の天気なんかでうつわだけ先に決めることもある。みんげい おくむらの奥村です。
今日使いたいのは沖縄のガラスのうつわ。冬にガラスのうつわを使わないわけじゃないけれど、あたたかくなると手にとる数がとたんに増える。沖縄は、この時期「うりずん」という緑が濃くなる南国の春。強い太陽の光を受けて、キラキラするガラスのうつわを想像するとそれだけでワクワクしてしまう。
沖縄らしいガラス工芸と言えば、再生ガラス(リサイクルガラス)。なにかに使われたガラスを、もう一度とかして使う。たとえば、泡盛に使われる白・茶・緑などの一升ビンが、同じ色のコップや皿に。とかされたガラスがコップに変わるまではものの数分。リズミカルで見飽きない。この再生ガラスというのは世界各地にあるものだけど、戦後物資不足の中で米兵が飲んだコーラやセブンアップのビンを使ったり、と、沖縄にもずいぶん縁が深い。ちなみに、今日のうつわは奥原硝子製造所という老舗ガラス工房のもの。
個人的に特に好きで、沖縄らしいなと思うものは板ガラスから作られるこの青。窓ガラスなどに使われるもので、青いような、緑なような、やわらかい色合いがたまらない。春のやわらかな日ざしが当たるとまたこれが素朴に美しい。手を触れるとガラスにしては厚ぼったいのに驚くかもしれない。再生ガラスは強度が弱まるから、あえて少し厚い。慣れてしまうと、緊張感がなくてかえってよいもんなんです。
うつわの話はキリがないですね。そろそろ料理の話。この時期、近所の八百屋のくだもの売り場が冬にくらべてにぎやかになる。露地のビワの盛りは本当はもう少し先だけど早いものを見つけてしまって我慢ができなかった。
くだものを料理に取り入れるとなんとなく食卓が華やぐ。昔は酢豚のパイナップルぐらいだったが(これは得意ではない)、和食なら白和え、洋風ならサラダが定番。やってみるとあまり難しいことはなく、いろんなくだものが合う。今日のビワなんかは生ハムで巻いても良いですね。かんたんで。白ワインぐびり、ぐびり。
今日は、ある土地のイタリアンシェフに教えてもらった技。イタリアンは和食に通じる、素材重視な料理だそうで、良いくだものは良いオリーブオイルと塩があればそれだけでおいしいのだそう。それに季節の柑橘でも絞れば、さらに良し。
そのままでもおいしいビワを適当に切って、塩、オリーブオイル、最後に柑橘をぎゅっと。これだけなのになぜかしっかり「料理」な気分になるのです。不思議だなぁ。良質なオリーブオイルはぜひ用意してもらいたい。ぜんぜん違いますよ。
こんなことが果たして「技」かと言えば、教えてくれたシェフが赤面しそうですが、案外知らない人が多い。はい、僕もそうでした。
くだものを食べようと思うとやれ皮をむくのが面倒だ、とかなりがちなのですが、酒の肴をつくろうと思えば体が動く、すぐやれる。酒飲みの気持ちって不思議なもんですね。ということでこれはあたたかい日の夕方に、ちょいと乾いたのどを白ワインで潤すのにどうぞ。厚手の再生ガラスのうつわは酔っぱらって扱いが荒くなってもなかなか割れないのですよ。ふふふ。
奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。
みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com
文:奥村 忍
写真:山根 衣理