300年続く、風鈴の透明
エリア
こんにちは。さんち編集部の尾島可奈子です。
きっぱりとした晒の白や漆塗りの深い赤のように、日用の道具の中には、その素材、製法だからこそ表せる美しい色があります。その色はどうやって生み出されるのか?なぜその色なのか?色から見えてくる物語を読み解きます。
300年続く、風鈴の透明
透明、という言葉は好意的に使われます。透き通るような白い肌、政治の透明性、クリアな声。そういえば色眼鏡でものを視るとか話を脚色する、のように「色」という言葉はどこか「ナチュラルなものに手を加えている」というニュアンスも持つようです。旗色鮮明、わかりやすいと話が早いこともありますが、無色透明、向こうが透けて見える様子には清々しい安心感を覚えます。
とはいえ、見えないだけでは空気と一緒で気付けないので、そこにあるものをあえて透明にすることで人は清涼感を感じるようです。思えば金魚すくいだってそこにあるのが見えているのに中々手が届かないからじれったく、夢中になるのかもしれませんね。と、ちょっと話が逸れましたがこれからの季節、暑いのはどうしたって避けられないからせめてもと「涼をとる」ために活躍するのが風鈴。それもガラスのものは向こうの景色が透けて見えてなんとも涼しげです。
風鈴の歴史は古く、発祥は古代中国。元は風鐸(ふうたく)と言い、家の四方に魔除けとして鐘を吊るしたり、竹林に吊り下げて風の向きやその音色で吉凶を占う風習があったそうです。仏教の伝来と共に日本に伝わり、お寺や家屋の厄除けとして用いられていたものが、次第に涼をとる夏の生活道具として定着しました。本来とても神聖なものだったんですね。はじめは吊鐘のように鋳物で作られていましたが、そのうちガラス製の風鈴が出始めたのは享保年間(1700年代)頃と言われます。長崎に伝わったガラスは、見せ物として大阪、京都、江戸を興行したそうです。
この江戸時代当時から江戸の地で作られてきた風鈴を「江戸風鈴」と名付け、その技術を受け継いで今もひとつ一つ手作りしているのが1915年創業の篠原風鈴本舗さん。型を使わず空中でガラス玉をふくらます宙吹き(ちゅうぶき)という製法で作られる風鈴は、あえて厚みが不均一に作られています。ガラスの薄いところ、厚いところを吹き分けることで、音に違いが出るのだそうです。
音で風を感じ、わざわざガラス越しにそこにある景色を切り取って涼を取る。ガラスの風鈴は、あらゆる色を取り込んでしまう透明の威力を最大限に生かした暮らしの道具と言えそうです。
<掲載商品>
江戸風鈴 透明(中川政七商店)
<取材協力>
有限会社 篠原風鈴本舗
東京都江戸川区南篠崎町4-22-5
03-3670-2512
http://www.edofurin.com/