海外のつくり手も元気にする。台湾発「KŌGA – 許家陶器品」デビューの道のり

タグ

2021年9月、中川政七商店の工芸再生支援を経て新たなブランドが日本でデビューします。

名前は許家陶器品(KOGA tableware)。

つくり手は、台湾で100年近く続く陶磁器メーカーです。

今回は、「日本の工芸を元気にする!」をビジョンに掲げる中川政七商店が、初めて海外のつくり手を元気にするために取り組んだ、台湾の工芸再生支援のお話です。

工芸の衰退は、世界共通の問題


きっかけは3年前に届いた、1通のメールからでした。

「この国の工芸の復興を目指したい。力を貸してもらえませんか?」

送り主は企業支援などを行っている台湾デザイン研究院(TDRI)。ちょうど中川政七商店の社内では、社長が十三代 中川政七から十四代 千石あやに交代したばかりの頃です。

「社長交代の節目に、改めて私たちが海外でできることがあるのか、あるとしたらどんなかたちなのか。まさに可能性を検討しようとしていたタイミングでした」

2019年、プロジェクト始動時の記者会見で話す十四代の様子

そう振り返る十四代が当時、社内で話し合っていたのは4つのことです。

  • 工芸が失われつつあるのは日本に限らず、世界共通。そこに対して私たちが何かできることは無いか?
  • 日本の工芸の衰退は、戦後先進国から持ち込まれた大量生産大量消費のものづくりの影響も大きい。自分たちが海外で取り組みをする時、そうなってはいけない。
  • 日本の工芸の輸出ではなく、その土地らしさを活かしたものづくりのノウハウを伝えることなら、私たちが取り組む意味があるのでは。
  • 中川政七商店が扱うのは暮らしの道具。生活様式が似ている国なら、これまで積み上げてきたブランディングの手法が生きるかもしれない。

これまで中川政七商店では、自社の経営再建やブランディングの経験を活かし、全国60社のつくり手の工芸再生支援を行ってきました。「ものを売るという視点ではなくブランドをつくる」。このノウハウなら、海外のものづくり復興にも役立つかもしれない。そう海外との関わりを検討する中で飛び込んできた、台湾からの工芸再生支援依頼でした。

「国を超えて協業してほしいと言われるのはありがたいことだと感じましたし、直感的にお受けすべきだと思いました。ただ十三代会長からは当初『先に国内でやるべきことがあるのでは』と問われ、ずいぶん悩みました」

そんな時に「絶対にやるべき」と声をかけたのが、後に台湾工芸再生支援でタッグを組むことになる、method代表の山田遊さん。バイイングからショップや地域イベントの監修まで幅広く手掛け、中川政七商店のよきアドバイザーでもあります。

「白か黒かでなく、やり方を考えればいい。必要なら手伝うよ」

その言葉に力を得て、また会長からも最後には「やるからには絶対に結果を残さないといけないよ」と背中を押され、十四代と社内で結成された工芸再生支援チームは台湾へ向かいました。

初めての海外工芸再生支援先は、陶磁器メーカーのご夫婦

佳鼎の四代目、許世鋼氏

TDRIからのオファーは、日本のケースと同じく地域の中小規模の企業への経営コンサルティングとブランディング指導。手をあげた数十社から支援先に決定したのが、鶯歌(イングー)という土地の陶磁器メーカー「佳鼎(ジャーディン)」です。

実際に現地での工芸再生支援を担当した島田智子は、最初の印象をこう話します。

「鶯歌は台湾陶磁器の代表的な産地で、日本で言えば有田のような、観光もさかんな土地です。佳鼎はそこで100年近く続く歴史あるつくり手ですが、最終候補数社の視察に伺った時、お店の前では観光客向けに、仕入れた日本の焼き物の企画展が行われていました。

自社ですでにたくさんの商品も出されていましたが、売り上げの主力となるブランドが無い。ちょうど、私たちが最初に工芸再生支援を行った波佐見焼メーカー「マルヒロ」の初期の頃のように、ブランドの整理がされていない状態でした。

旧工場を観光地化。二階は歴史資料館のようになっている

それでも二階にあがると窯元の歴史資料館のようになっていて、語れる魅力が眠っていそうでした。日本で学んで現地で素材を集めて再現したという独自の釉薬も美しかった。整理すれば、台湾を代表するようなうつわのブランドが生まれるかもしれない、と感じました。

窯元独自の釉薬で開発した丹青碗。祖業である瓦工場から、日用食器へと転換するきっかけとなった商品

何より、佳鼎の経営を担う許さんご夫婦がとても勉強熱心で、これにかけるという強い意気込みを感じたんです」

こうして支援先が決定。経営面を中川政七商店のチームが、プロダクトの開発を山田遊さん率いるmethodのチームが引き受けることに。いよいよ台湾での工芸再生支援が本格化していきました。

似ているものづくり事情、異なる食卓事情

現地でのMTG風景(2019年)。窯元の歴史を掘り下げながら、ブランドを組み立てていった

「実際に始まってみると、日本も台湾も、国に関係なく『工芸あるある』、つまり中小規模のつくり手が抱える課題は同じでした。帳簿に材料費が載っていたりいなかったりと利益計算が曖昧だったり、複数ある自社ブランドの住み分けができていなかったり。

解決すべき課題が日本のつくり手と共通だったので、経営のフェーズは日本と同じプロセスをそのまま生かして進めることができました」

一方で明らかになったのが、台湾と日本の食卓文化の違いです。

実は台湾は屋台などの外食文化が根強く、日本のように毎食自炊する人は少数派です。そのため自宅に揃えている食器の数も少なく、キッチンが無いマンションも珍しくないそう。

「それでも、少ないながらも自炊する人たちはどううつわを選んでいるのか。TDRIのスタッフさんを通じて、台湾で自炊する人の食器棚を撮ってきてもらったりしながら、台湾の食卓事情をリサーチしました」

実際に撮影してきていただいた写真の一部

一方で許さんご夫妻には、4代続く窯元の歴史を調べてもらい、メーカーとしてのらしさを掘り下げていきました。こうして、山田遊さん率いるmethodの伴走のもと生まれたのが、台湾発の陶磁器ブランド「KŌGA – 許家陶器品」(翻訳すると「許さんの家のテーブルウェア」)。そのデビューを飾ったのが、根強い外食文化を逆手にとった「台湾の食卓で使えるきほんの一式」です。

「台湾の食卓で使えるきほんの一式」

50近いご家庭のキッチンの風景から、「台湾の人が初めて自分のためにうつわを揃えるなら、この一式を」という提案が導き出されました。

例えば、おかずを盛り付けるうつわの深さは4cm以上。お粥や煮物など汁物の多い台湾の食文化に対応します。

出来立ての熱々をいただく食事も多いため、持ちやすいように底部分には高台を設けました。

そして、どのうつわも台湾では一家に一台あるという保温・炊飯道具「万能電気釜」に必ず入るサイズに。

うつわの色は、窯の炎の色や、代々生み出されてきた佳鼎独自の釉薬の色、鶯歌の風景をイメージした色など、許さんの窯元らしさの出る4色に。

組み合わせれば、食卓がカラフルに彩られます。

海外の工芸再生支援を通じて見えたもの

ブランドのデビューはまず昨年の12月に台湾で記者発表され、年明けの2021年1月に台湾国内で販売のためのクラウドファンディングを実施。目標の10倍を超える額を達成することができました。

「もちろん日本のこれまでの事例と同じで、ブランドをつくって終わりではありません。あとはどうやって人の手に届けていくか。ここからがスタートです。

それでも、クラウドファンディングは台湾の人たちにどう受け止められるかのひとつの試金石でした。やはり食器に興味がないのではないかと、はじめは心配でしたが、早々に目標額を達成して手応えを感じました。

私たちがこれまで大事にしてきた、土地の風土や技術を生かしたものづくりのあり方が、台湾の人たちにも届いたのだなと」

また、今回のプロジェクトを後押しし、プロダクトの開発支援を担当したmethodの山田遊さんはプロジェクトの道のりと意義をこう振り返ります。

「このプロジェクトが始まる際、台湾でも若い世代を中心に、日々の食事と、その際に用いる器や道具も大事に選びたい、という気運が少しずつ盛り上がりつつあるように感じていました。

ちょうどプロジェクトの道半ばで、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、全てオンラインで進めざるを得ませんでしたが、台湾の食生活を考慮しながら、台湾で作られた新しい食器で、日常の食卓を彩り、食事を楽しむ、という意義は、より強くなったように思います。」

「KŌGA – 許家陶器品」は2021年9月22日に日本でもブランドデビューを迎えます。日本の使い手にとっては、また新たなうつわとの出会いです。

国に関係なく、土地の風土や技術が生きた工芸はきっと面白い。台湾、日本、どちらの使い手にとっても、「KŌGA – 許家陶器品」が暮らしと工芸を楽しむきっかけとなりますように。

<掲載商品>
「KŌGA – 許家陶器品」

文:尾島可奈子

関連商品

関連の特集

あなたにおすすめの商品

あなたにおすすめの読みもの