冬の部屋着に。まるでお布団のように、軽くて暖かいちゃんちゃんこベスト

おうち時間が増えたいま、毎日を 心地好く過ごせる服を選びたいもの。これからの寒い日を快適に過ごすために着たいのが、ぽかぽかと暖かいはんてんです。
はんてんは、日本で古くから愛用されてきた防寒具。子どものときに着ていた方も多いのではないでしょうか。(ちなみに袖のあるものがはんてん、袖のないものがちゃんちゃんこと呼ばれています。)

この冬、そんな日本の冬の定番着から着想を得た「ちゃんちゃんこベスト」をつくりました。はんてんよりもコンパクトだけど、しっかりと暖かく、どんな服装でも羽織れて、ふんわり軽くて動きやすい。ちょっとした外出も、そのまま行けるものを目指しました。

少し肌寒いけど歩いている内に暖かくなるしコートを着るほどでもない。近所へのちょっとしたお買い物などにもさっと羽織って出かけられるデザインに。

はんてんの産地、福岡県筑後市へ。職人さんに聞いてみました。

現在、国内のはんてん製造シェア1位を誇るのが、福岡県筑後市 。筑後市では、綿入れはんてんと呼ばれ、昭和40年頃から製造が盛んになり、現在は全国シェア90%を超えるまでに成長しました。

今回はそんな筑後市 で、はんてん製造を手がける「光延織物」にちゃんちゃんこベストづくりを依頼。筑後地方を中心に伝わる久留米織の技術を受け継ぎながら、糸選びから生地織り、デザイン、縫製まで一貫生産体制にこだわってものづくりをされています。

「はんてんは、江戸時代の頃から庶民の間で寒い時期の農作業や家事、漁に出る時に重宝され、もともとは各地でつくられていました。それがどうして暖かい地域で発展したの?とよく言われますが、綿入れはんてんは、ものすごく寒いところでは着ない。ほどほどの寒さがよかったんじゃないでしょうか」と、代表の光延俊郎さんは言います。

筑後地域は、久留米絣や久留米織 の産地で織物業が発展する下地が整っていたため、はんてんが大量生産でき、価格が抑えられたことも関係しているそうです。

「他にも生産が盛んな地域はありましたが、筑後が生き残れたのは、暖かくて着心地がよかったからじゃないかと思います 」

そうして長年発展してきた中で見つけた、綿入れの黄金比があると言います。

まるでお布団、とも言われる心地好さの理由

「日本の冬と言えば、みかんとこたつと綿入れはんてん。暖かくて、着心地がいい。ふわーっと軽くて肩が凝らないから、リラックスできます」

はんてんは、表地と裏地の間に綿(わた)を入れてとじたもの。光延織物では、綿70%にポリエステル30% と、はんてんに適した比率の綿を入れています。綿屋さん と、暖かさや重さも踏まえて編み出した黄金比率とのこと。綿100%のほうが良さそうなイメージでしたが、ポリエステルを入れることで、綿の形状を保つことができ、暖かさをキープする事ができます。

「はんてんは、静電気が起きにくいので、乾燥するとバチッと来る方にもおすすめです。布団にかけて寝ると、夜にお手洗いに行くときや、朝起きたときも冷えを感じません」と娘の浩子さん。はんてんを愛用されていて、いつも本当に暖かいとしみじみ感じられているそうです。

浩子さんに、製造工程を案内していただきながら、お話を伺いました。

一つひとつ手作業でしかつくれないもの。

ちゃんちゃんこベストは、職人の手によって一つひとつ丁寧に仕立てられています。生地のすみずみまで綿を入れたり、綿が出たりずれたりしないように生地をとじていく作業は、熟練の技術と細かい気配りが必要で機械ではつくることはできません。さらに、従来のはんてんと違うことも多く、新しい挑戦だったそうです。

まずは裁断した生地を縫い合わせていきます。

表地の背中の部分は、綿どめのためにわざと半分に切ったものをつなぎ合わせています。表地は、あったかもんぺパンツと同じ暖かみのある起毛生地。触り心地は抜群ですが、柔らかく伸びるので、扱いが難しかったと言います。

2人一組で綿を入れていきます。まず、裏地を表にした生地の上一面に綿を広げます。

生地に合わせて綿をちぎったら、綿を包むようにして生地を表に返します。

声を掛け合わなくても阿吽の呼吸で、あっという間に完了。

巧みな手さばきで、綿を入れていく様子を撮影してきました。
日本の定番着を手掛ける伝統の職人技を、ぜひご覧ください。


「はんてんよりも薄くコンパクトにしたいというご依頼でしたので、綿を裂くなど、できるだけ平たく薄くなるように工夫しました。ただ薄くし過ぎると、端の綿が足りなくなってしまうので慎重さが求められます。外からは見えませんが、衿や裾のすみずみまでしっかりと綿を入れています」

また、薄くコンパクトに仕上げながらも、腰のあたりに綿を二重に入れているので暖かさを感じていただけます。

綿が全体に均一に入っているように調整するのは、とじ職人の役目。
綿の入り具合を見ながら全体が均一に、ふっくらと仕上がるように調節しながら、一針一針丁寧にとじていきます。

「これまで何十年もはんてんに厚みがでるようにつくってきたので、何気なくいつも通りに綿を足してしまうことも。慣れない作業は、難しかったです」

とじの工程で驚いたのが、縫い目が表に出ないように縫いしろ(左手に持っている部分)に縫いつけていること。内側にあって見えないのにどうやって縫うの?と聞くと、「手の感覚で縫ってるよ」と職人さん。まさに熟練の職人技です。

衿には綿を平らになるように入れて、縫い目が見えないようにくけ縫いします。
2つ前の写真と縫い方が違うのが分かるでしょうか。
手縫いというだけでも驚きなのに、同じ場所を2回縫っているのです。
1回目は綿をとじるために。2回目は衿をつくるために。初回のサンプルでは、衿がないタイプをつくってもらいましたが、衿はとじ糸を隠す役割もあるため残すことに。

綿とじが終わったら、縫い目が粗くなっていないかなどすみずみまでチェックして、ようやく完成です。わずかなほつれも見逃さない厳しい検品基準は、初めての職人さんには驚かれることも。一つひとつの工程を丁寧に、最後まで気を抜かず行うことで、体を優しく包み込んでくれる一着ができあがります。

昔はどの家庭でもつくられていた寒い季節の必需品。見ただけでは気づかない、熟練の技と時間がかかっています。俊郎さんは、他の上着を着るたびに、改めてはんてんの暖かさを実感されるそう。昔から変わらない暖かさと着心地の良さ。この冬、手放せない存在になりそうです。

<取材協力>
光延織物
福岡県筑後市大字高江612
https://www.mitunobu.com/

<掲載商品>
ちゃんちゃんこベスト

文:眞茅江里

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