わたしの一皿 ひとつかみの緑のつぶ

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すーっとする食材。梅雨のなんとなくぼんやりした気分がスカッと晴れるような。この刺激、毎年うれしいもんです。今月は「実山椒」の話。みんげい おくむらの奥村です。

みどりのつぶつぶ。料理に独特のさわやかさと奥行きを出すこの季節のたまらない食材です。手間がかかるけど、下ごしらえをして冷凍しておけば長持ち。6月は梅の仕事、そしてこの実山椒の仕事のタイミング。めんどうな下ごしらえに追われる同士のみなさん、出来たあとのことを思い浮かべて共にがんばりましょう。食べるだけのみなさん、この一粒、結構手間が掛かっているのですよ。感謝の気持ちで、どうぞ。

さてこのつぶつぶ、何に使うのかって?僕は煮付けるものに使います。醤油と砂糖のこってりしたものにこの実山椒を入れると、フワッと爽やかな香りが立ち、良いんです。鰯の梅煮が大好きだけどたまに梅を実山椒に変えてあげるとこれが‥‥。たまらんのです。佃煮や塩漬けにしておけばいつでもおにぎりに使えて、それもまたたまらんですね。

今日合わせるのは、夏に向かうこの時期からおいしい穴子。こってりとした濃いめの煮穴子に実山椒で清涼感を、というわけです。

実山椒の下ごしらえの話をしましたが、穴子というやつも実は下ごしらえが大切。表面がヌメヌメとしていて、これを丁寧に取り除かないと臭みが出る。皮目に熱湯をかけたら、包丁の刃を使って素早く、丁寧に。

煮穴子ですが、箸で持てないぐらいやわらかくとろっとろに煮るか、ある程度食感を残すか。これは料理する人に許された贅沢な選択。穴子丼にするならとろっとろも良い。今日はそのまま食べたいので、箸で穴子のぷりっとした身質を感じられるくらいに。

料理のイメージができたら、そろそろうつわ選びです。今日のうつわは磁器。日本の磁器の名産地である愛媛県の砥部焼(とべやき)。梅山窯の大皿です。うどん屋なんかでよくみる白地に青の染付けの丼。思い出しませんか。多くは砥部焼です。磁器なんですが、ぼってりと厚めで存在感がある。どこかのんびりしたうつわ。

白がベースなので、どんな料理にも合わせやすい。そして色んな産地の陶器とも組み合わせやすい。なかなか優等生なうつわだと思います。

料理をそろそろ仕上げましょう。穴子が好みの食感に近づいてきた頃、いよいよ実山椒をドバっと投入。えいやっ。ふわっと香気。ああ、ワクワクする。ぐらぐらと煮立つ煮汁を吸って、緑色がやや鈍い色に。

頃合いをみて、穴子を取り出し (身がくずれないように注意して) 、煮汁を煮詰める。いわゆる「ツメ」作り。実山椒を使わない普通の煮穴子であれば、ここで煮汁にバルサミコ酢を加えて煮詰めると、とたんにイタリアン煮穴子に変身。これまた美味しいのですよ。和の煮穴子なら定番のお伴はきゅうりだけど、伊の煮穴子ならばルッコラを用意して。

ツメはさらさらがとろとろになったら仕上がりです。穴子はそのままの大きさでも、食べやすい大きさに切ったものにでも、このツメをかけて出来上がり。冷めてなお優等生なのが煮穴子の素敵なところ。

今日は半身をそのまま盛りつけ。大皿に映えますね。ツメをたっぷりまとわせて、酒を飲むならちびちびと。ご飯に乗せるならおおぶりに。箸で切れます、ご自由にお好みの大きさでどうぞ。甘いタレにふっくら穴子、そして鼻をくすぐる山椒の香り。あっという間に食べちゃいます。最後にもう一つ。穴子をすっかり食べ終えたら、皿に残った山椒をひとつ箸でつまんで口元へ。噛めば再び初夏の幸せの香りがやってきます。夏がもうすぐやってくるな。

奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。

みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com

文:奥村 忍
写真:山根 衣理

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