あの花火大会の打ち上げ花火は、こうやって作られている

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7月も後半、この時期の楽しみのひとつといえば、花火大会です!来週7月28日には、江戸から続く国内最大級の花火大会、隅田川花火大会が東京で行われます。

夜空に打ち上がる光の大輪はとても美しくロマンチックですが、一体どうやって作られているのでしょうか。

昨年の隅田川花火大会のコンクールで、見事3位を飾った花火作りの老舗、山梨県の「齊木煙火本店 (さいきえんかほんてん) 」を、さんちでは大会の少し前に取材していました。

歴史ある甲州花火 老舗工場の現場へ

山梨県の甲州花火は一説には武田信玄時代の「のろし」が起源とも言われ、江戸時代に現代の花火の技術のベースとなる形が確立されたと言われています。手持ち花火を経て、元禄・享保の時代から盛んに打ち上げられるようになりました。

その昔ながらの技術をベースに、改良を重ねながら今も手作業で花火作りを続けているのが「齊木煙火本店」です。

四代目社長 齊木克司(さいき・かつし)さんにご案内いただきながら、花火作りの工程を教えていただきました。

「齊木煙火本店」 四代目 齊木克司さん

事務所に着くとすぐに齊木さんの車で山の中へ。

花火には多くの火薬が使われています。そのため、住宅が建てられた地域から一定以上の距離を保った場所でのみ製造が許されているのです。「花火作りは安全が第一」は、取材中に何度も耳にした言葉でした。

各工程の作業室では、人数や重量が決められていて、厳密に安全対策がとられていました

発色を左右するもの

花火は厚紙で何重にも巻かれた球状の玉の中に火薬が込められてできています。

発色を左右するのは、金属粉の組み合わせ。火薬には、玉を爆発させる「割薬(わりやく)」と、割薬の外側を囲んで様々な色に発色する「星(ほし)」と呼ばれる2種類のものがあります。同じ赤色でもどういった配合で作られているかによって色味が異なります。

思い描く花火のデザインに合わせて、社長の斎木さんと熟練の職人さんとで相談しながら配合を決めていきますが、花火は実際に火をつけて打ち上げてみないと結果がわからないもの。配合を決めるには知識と経験が不可欠です。

原料である酸化剤や炎色剤、可燃剤などを混ぜ合わせます
混ぜ合わせた原料をふるいにかけて整えます

長い時間をかけて育てられる「星」

続いて、配合された原料を固めて火薬を作ります。様々な色に発色する「星」作りは花火の要です。

主に直径2ミリメートル程の粒状粘土を芯にして、回転する釜の中で少しずつ火薬の玉を太らせていきます。

釜の中で少しずつ星を大きくしていく「星掛け(ほしかけ)」

1日に直径約0.5ミリメートル程大きくして乾燥、の繰り返し。

しっかり乾かさないとカビが生えてしまったり、割れが生じて、打ち上げた際に美しく発色しないのだそう。天候によっては乾燥させるのが難しい日もあり、長い時間がかかります。

この作業を毎日繰り返すことで星を少しずつ大きくしていきます。なんと根気のいる作業でしょうか。

星のサイズを図るための道具
星の色は配合された薬剤によって異なりますが、最後は火着きを良くするための黒色火薬で仕上げます。そのため、完成したものは全て黒色になっています(左端が完成した星です)

星は1粒の直径20ミリメートル位になったものを使うので、この作業だけで最低でも2~3カ月はかかります。

長い時間をかけて成長させるので、星を大きくすることを、子育てと同じように「育てる」と表現するのだそうです。

回転する釜の中を真剣に覗き込みながら火薬を加え、星の仕上がり具合を確認している職人さんはまさに子どもの成長を支える親のようでした。

密度やバランス、紙質にもこだわって行う「玉詰め」

厚紙をプレスして作った玉皮に、星を並べ真中に割薬を詰めて合わせます。これを玉詰めといい、丸く美しい形の花火を打ち上げるためには、玉の中のバランスが重要なのだそう。

均一に火薬を並べること、飛ばしたい力に合わせた割薬を詰めること、間に挟む和紙の厚みにもこだわります。圧力のかかり具合でも花火の開き方が異なるためです。

紙は先代が探し求めてたどり着いた薄い古紙などを使っているそう。ほんの少しの厚みの差や紙の強さが花火の仕上がりに影響する、本当に繊細な世界です。

星をバランスよく並べていきます。均整のとれた星が並ぶ姿はそれだけで美しかったです
それぞれの層が玉の中心となるように位置を合わせます
しっかりと合わせたら、余分な紙をカットします
ろくろを回しながら棒で叩き、全体の詰まり具合が均等になるように仕上げていきます
長い工程を経て、やっと「玉詰め」が終わります

さらに複雑な玉詰めの技術があります。日本が誇る、色彩豊かな花火の作り方、独自の技術が集結した「多重芯(たじゅうしん)」。花火の中心にいくつもの色の層を浮かびあがらせる技術です。

多重芯と呼ばれる玉詰めの様子
小さい芯を作って次の大きさの中心に入れます
繰り返し火薬を詰めながら次の層を作っていきます

小さい芯を作って次の大きさの中心に入れることを繰り返し、三重芯、四重芯といった多重芯が作り上げられます。

最初の1玉を作るだけでも大変な作業ですが、それを何度も繰り返していく多重芯。1玉詰めるのに1日半以上かかる大仕事です。

単色の花火も美しいですが、カラフルな色が混ざり合う華やかな花火を眺められるのは日本の花火大会ならではだそう。打ち上がるまでに、こんなにも手間がかかっていたのですね。

花火を丸く大きく開かせるために重要な「玉貼り(たまばり)」

こうして火薬が詰め終わった玉は最後の仕上げを迎えます。クラフト紙を何重にも上貼りしていく「玉貼り」という工程。

花火が丸く大きく開くかどうかは、爆発の力と圧力が鍵となります。玉を抑え込む圧力を決めるこの玉貼りでは、クラフト紙の厚みや貼り具合が重要になるそうです。

微細な圧力の差を考慮して作られた自社製の糊を使って、貼っては乾かす作業を何度も繰り返します。こちらも時間がかる作業。

尺玉と呼ばれる直径30センチメール以上の玉が貼りあがるには、およそ2週間もかかるのだそう。

糊のついたクラフト紙を貼っていく工程も人の手で行います
こちらは大玉の玉貼り
太陽の下で乾燥させます

長い工程を経て夜空に花開く大輪

「花火は、星、詰め、貼りの3つのバランスで大きな花が開きます。それぞれの職人が次にバトンを繋いでいくことで美しい花火が空に上がるのです」

打ち上がるまで実際の仕上がりが見えない中で計算とイマジネーションで配合を決め、何ヶ月もかけて星を作り、丁寧に詰めてさらに数週間かけて仕上げていく。

一瞬のきらめきが生まれるまでに、職人さんのこれほどの手間ひまと長い歳月がかけられていることに、本当に驚きました。若手の職人さんに厳しく指示をされている姿も印象的でした。

「齊木煙火本店」の代表作「聖礼花(せいれいか)」。淡いパステルカラーの色合いが特徴です

この花火は、「齊木煙火本店」オリジナルで数々の賞を受賞している作品「聖礼花(せいれいか)」。

「コンセプトは『幸せを運ぶ』。愛情を示すピンク、清らかさを表現する水色、幸せを表すレモンの3色を組み合わせた花火です」と齊木さん。

この淡い色合いを出すのには火薬の配合で多くの工夫が必要なのだそうです。

日本の花火は世界一と言われますが、現代においてもまだまだ進化を遂げています。今年の夏はどんな花火が見られるでしょうか。

長い工程を知った上で眺める花火はさらに味わい深いものに感じられるような気がします。

各地で行われる花火大会、とても楽しみですね。

<取材協力>

株式会社 齊木煙火本店

http://www.saikienkahonten.co.jp/

花火写真:金武 武

文・写真 :小俣荘子 (一部写真 齊木煙火本店提供)

*2017年7月公開の記事を再編集して掲載しました。浴衣を着て花火大会、出かけたいなぁ。

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