長く使うことは、長くつくること。花ふきんは、無理のないものづくりが生んだロングライフデザイン

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「これからの時代、さらに重要になってくるであろう“ものをつくりすぎない、大切に使う”といった姿勢にもこれらは良い提案をしてくれている。丈夫なので長く使える、またくたくたになったら台拭きや雑巾に使用してください、と自ら謳っている。
その姿勢はこれからのものづくりに欠かせないように思う。」

花ふきんをお使いの皆さま、ご愛用いただきありがとうございます。
実はこの度、私たちの代表商品である花ふきんが、グッドデザイン・ロングライフデザイン賞を受賞しました。
上記のコメントは、審査員の方からいただいた受賞コメントの一部です。

ロングライフデザイン賞とは、長年にわたり人々に愛されスタンダードであり続ける力を持ったデザインを顕彰するもの。愛用してくださる皆さまとともに受賞した賞です。
そして、その裏にいる、つくり手の皆さんとともに受賞した賞でもあります。

受賞コメントを読んで、長く続くということは、ものづくりに無理がないことも大切だったのかもしれない、と改めて感じました。
何度もお話してきている花ふきんですが、今日は、もう一段深く、花ふきんの背景にあるものづくりの営みをお届けできたらと思います。

花ふきんを企画した中川みよ子さん、初期から花ふきんのものづくりに伴走し続けてきた田出睦子さんに話を聞いてみました。

左が中川みよ子さん。右が田出睦子さん。

理にかなったつくり方が生んだ、機能性

「花ふきんは、他のかや織ふきんと何が違うんですか?」
お店でよく聞かれる質問です。

左が花ふきん。右がかや織ふきん。サイズや厚みが違うことに加え、目の粗さも異なる為、最も吸水速乾性に優れています

他のかや織ふきんと異なるのは、
目の粗い“蚊帳”本来の組織で織られた生地が、大判サイズ2枚仕立てでつくられているところです。

生地の目が粗いことによる、吸水速乾性はもちろん、
一般的なふきんよりも大きい為、畳んで拭けば水気をよく吸い、2枚仕立てで薄いから、広げて乾かせばすぐに乾く。かや織の生地がもつ機能性を最大限活かしたプロダクトです。

この大判薄手の花ふきん、エアコンの普及により廃れつつあった“蚊帳”の機能を別の物に再生する発想から生まれたものですが、
実は、理にかなったものづくりの視点で生まれたデザインでもあります。

「58×58cmのサイズは、反物の幅をちょうど二つに折り畳んだサイズなんです。そうすると生地の無駄がないでしょう。素材に合わせてサイズが決まりました」(中川さん)

中川政七商店は元々、麻の問屋からはじまっている為、布とはお金そのもの。布を余らせる発想がなかったのだと言います。
言われてみれば、商品の企画担当から、「布の無駄が出ないようにこの形なんです」という言葉を、今でもよく聞くことに気が付きます。中川政七商店に根付く、無駄のないものづくりの思想は今なおずっと受け継がれているのです。

結果として、花ふきんは一般的なふきんよりも大判になり、食器拭きだけでなく、料理に使ったり、お弁当を包んだり、様々な使い方が生まれていきました。

更に、2枚仕立てと薄手なことにも理由があります。

「今とは規模が違いますから、当時、縫製は内職さんにつくってもらう体制でした。
生地を重ねる程、縫うのに工夫が必要になってくるんですよね。内職さんが持ってる普通のミシンで縫うには、あまり重ねすぎない方がよかったんです。
自分一人でつくるわけではないので、縫いやすい、つくりやすいということは、ものづくりする上で疎かにしてはいけない点でした」(中川さん)

結果として、速乾性は抜群。干している様子も、蚊帳本来の佇まいをそのままに、うっすらと透ける美しいものになりました。

素材との出会いが生んだ「残したいものづくり」

実はこの、うっすらと透ける佇まいこそが、かや織との出会いを生んだのだと言います。

「もう25年程前になります。今みたいに全国に店舗があるわけではなく、知名度ももちろんなく、ならまちでひっそりとお店を営んでいた頃でした。お客様に来ていただく為にどうするかと考え、様々な企画展を行っていました。

その中の一つとして、“じ・えんどー終わりを思うー”と題し、色んな作家さんに骨壺等の終わりの道具をつくってもらって企画展を行ったんですね。その際、幽玄な世界をつくりたくて、演出として吊ったのが、“蚊帳”との初めての出会いでした」(中川さん)

蚊帳との出会いである「じ・えんどー終わりを思うー」展のDM。

触ってみれば、やわらかくて肌触りがいい。吸水性もいい。エアコンの普及で蚊帳の需要が廃れ、身近にいる奈良のつくり手が困っていると言う。
この肌触りのよい美しい素材と、身近なつくり手の技を残したい。そんな想いで、機能性をそのままに、ふきんに再生するものづくりが始まりました。

「ふきんにすると言っても、ただ真っ白なものだと味気ないと思ったんです。台所や食卓に置いた時に彩りを添えるようなものにしたいと思い、花の色に見立てて染めました」(中川さん)

素材の本質を捉え、その知恵を学び、現代の暮らしに寄り添うようアップデートする。
中川政七商店のものづくりに根付く、温故知新の考え方は、この花ふきんから始まっていきました。

左が初期の花ふきん、右が今の花ふきんのパッケージ

25年以上続く中で、ふきんのものづくりには、失敗もたくさんあったと言います。

「失敗ばっかりしてますよ。つくり手の皆さんと、今度はあれやってみよう、これやってみようってつくっては、全然売れなかったり。この仕様では継続してつくり続けるのは大変だねって言って終わったり。環境によくないから、と終わったものもありました」(中川さん)

「でも花ふきんだけはずっと続いてるんですよね。パッケージは変わってるけど、最初につくったものが、サイズも厚みも目の粗さも色も、ずっと続いてますね。
なんでだろう、使ってくださる方がいるからだと思いますけど、つくり手の皆さんとも、入社して以来ずっと、私の社会人人生ずっと一緒にお仕事しているので、今回の受賞を報告できることが本当に嬉しいです」(田出さん)

一枚のふきんを支える、たくさんの手しごと

「失敗ばかり」という言葉の通り、一見シンプルなつくりですが、そのものづくりは一筋縄では行きません。

例えば「織り」の工程では、糸の張り具合が少しでも緩めば目が歪み、糸を張りすぎればすぐに切れてしまいます。職人さんは糸の素材や湿度、天候、機械の癖を見ながら、片時も休まず織機の間を行き来して、糸の具合を調整してまわります。

ふきんの質感や色味を決めるのが「染め・糊付け・幅出し」の工程。生地に熱を通すため工場内の温度が40℃にも達する過酷な環境の中、高度な技術に支えられて、ふんわりとした風合いや繊細な色合いが生み出されます。最後の重要工程「縫製」は、目の粗い生地を2枚重ねて縫うため、1枚1枚人の手でミシンがけをしています。

こうしてたくさんの人の手に支えられて、一枚のふきんが完成します。

中川政七商店にとって、ロングライフデザインとは

「狙ってつくれるものではないですけど、今年の春に発売したばっかりの番茶シリーズをロングライフデザインにしないといけないねって、チームで話してました。

これも奈良のつくり手4社さんとつくってるのですが、畑を何か所も一緒に回らせていただいて、お茶の植樹に参加させていただいたりとか、苗木いただいて会社で植えたりとか、
そんなふうに膝を突き合わせて、つくり手の皆さんと関わっていくと、跡を継ぐお子さん達にお会いする機会もあって。
この子たちが育って後を継ぐっていう時に、この商品を残したいなって、感じるんですよね」(田出さん)

花ふきんから受け継いだ“残したいものづくり”。最新のものづくりにも、そんな想いが脈々と受け継がれています。
30年後、一体どんな風に育っているのか。私も番茶シリーズのいちファンとして、ものづくりの輪に加わるようで、今からなんだか楽しみです。

こうして企画担当の話を聞いてみると、改めて、中川政七商店は関わる人みんなが幸せになることを目指して、ものづくりを行っているのだと実感します。
使う人に喜んでいただくことはもちろん、つくる人も含めて、関わる人全員が幸せになるように。

三方良しのものづくりだからこそ、ロングライフデザインになるのだと信じて。これからも、一つずつ、日本の素材技術風習に向き合って、私たちのものづくりを続けていきます。


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写真(インタビュー):中部里保
文:上田恵理子

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