暮らしを良くする家具づくり。カリモク家具が追求する、木の魅力と人の技の可能性
日本の工芸とともに、日本の心地好い暮らしをつくり続けていきたい。
中川政七商店は日々、そんな想いで全国のつくり手たちとのものづくりを進めています。
その中で今回、日本を代表する木製家具メーカー カリモク家具株式会社とともに、「座椅子」と「盆ちゃぶ台」という二つの家具を開発しました。
目指したのは、“床座”でくつろぐための家具。
畳文化がある日本ならではの、床だからこそ得られる安息のひとときに着目し、座椅子のある心地好い暮らしを提案します。
国産材の魅力を最大限に活かし、佇まいの良さや使い心地にもこだわり抜いた座椅子、そしてちゃぶ台はどんな風につくられたのか。
愛知県知多郡にある、カリモク家具の工場を訪ねました。
産地ではない場所だから生まれた「木を“使い込む”」文化
カリモク家具は1940年に愛知県刈谷市にて創業。以来80年以上にわたって日本の暮らしに寄り添った家具を提案し続けてきました。
木材の調達から資材管理、家具の生産から販売までを自社でおこなう日本有数の木製家具メーカーである同社ですが、その所在地が愛知県だと聞くと、少し意外に感じるかもしれません。
木製家具の産地というと、たとえば旭川や高山、福岡の大川などが思い浮かびます。いずれも周辺に良質な木材の産地があり、その資源を背景に木工産業が振興してきました。
さらに、高山であれば寺社仏閣、大川には造船といった木工が隆盛する理由も存在し、宮大工や船大工など専門の職人たちが育ったという背景があります。
「その反面、このあたりには木工のDNAと呼べるようなものが何もなかったんです」
そう話すのは、カリモク家具 取締役副社長の加藤 洋さん。加藤さんは、カリモク家具の創業者である祖父の正平氏から「自分たちはずぶの素人集団だ」という話をよく聞かされていたそうです。
その素人集団がどうすれば、熟練の職人たちに負けないクオリティの高い家具をつくれるのか。そう考えて、積極的に機械設備を取り入れたり、他産業のやり方を学んだりということを続けた結果、今のカリモク家具のスタイルが固まったのだとか。
同社で働く人たちは折に触れて「木を“使い込む”」という言葉を用います。木材を出来る限り無駄にせず、効率よく利用するという意味で、ここに同社のマインドがよく表れていると感じました。
「創業当時、木材は信州や東北から運んできていました。せっかく遠路はるばる運んできたものを、決して無駄にできない。
産地から遠い不利な立地だからこそ、そうした想いが強くなり、機械の導入や他産業のやり方も柔軟に取り入れるマインドに繋がったのかもしれません」(加藤さん)
資源の無い土地だからこそ生まれた、木を“使い込む”という考え方。木を“使い込む”ためにできることを模索し続け、どんな種類や形状、サイズの木材であっても工夫して使い切れる技術と経験を蓄積していく中で、カリモク家具純粋培養ともいえる職人集団が育っていきました。
人と機械が融合したものづくり
現在カリモク家具では、高度な機械技術と職人の技術を融合させる「ハイテク&ハイタッチ」という製造コンセプトを掲げてものづくりに取り組んでいます。
工場を見学すると、木材を研磨するロボットアーム、単純な直線ではなく有機的なデザインを加工できる機械、牛革の傷をチェックする電子ペンなど、家具作りの各工程に最新の機械設備が導入されていて圧倒されました。
「機械の方が効率がいい、あるいは安全である、というケースでは積極的に機械を活用しています。
それでも、あくまで主役は人の手。人の仕事を機械に置き換えるということではなく、むしろ人の手でなければできないことに人が集中できるように、機械が環境を整えているというイメージです」
そう加藤さんが話すように、それぞれの機械の前には必ず人がいて、その工程の仕上げを手でおこなっていることも印象的でした。
木は天然の素材であるがゆえに、ひとつひとつ硬さも密度も異なり、同じものは一つとしてありません。その個体差に対応するには熟練の職人の技術と経験が不可欠になってきます。
職人が職人であるために。人と機械の双方がアップデートする未来
「機械自体はお金を出せば買えるものですが、それを適切に使いこなす土壌ができていることが何より重要です。今の体制もまだまだ発展途上なので、改善できるところは日々磨き上げていきたいと思っています」
木材の特性に合わせた適切なセッティング、機械に取り付ける刃物の切れ味を保つ研ぎ作業など、機械を使うこと自体に関しても、職人の知見と経験が無ければはじまりません。
機械でできることは恐らく今後も進化していく中で、人と機械が融合したものづくりはどこまで続くのか。加藤さんは、それでも人の手にしか生み出し得ない価値は必ず残ると話します。
「素材として木を使って家具をつくる以上、人の技術でしか出せない丁寧さ、美意識、工芸的な価値、それらを製品に宿す余地は無限大にあると考えています。
むしろ職人が職人であるためには、そういった、人ならではの工程にもっと注力していくべきで、人も機械もどちらもアップデートしていくのが健全な未来なのかなと思っているところです」
木を知り、木を愛するカリモク家具と開発した床座のための家具
今回、中川政七商店が開発をお願いした「座椅子」や「盆ちゃぶ台」には、こうしたカリモク家具の精神や技術が詰まっています。
カリモク家具の“使い込む”という考えに私たちも共鳴し、いずれの製品も、通常は使いづらいと敬遠されがちな国産の広葉樹を採用。「座椅子」は楢材、「盆ちゃぶ台」は栗材をそれぞれ有効活用し、木の風合いが美しい製品になりました。
折りたたみ式の座椅子は、カリモク家具としても初めての挑戦でしたが、木材の使い方や構造にこれまでのノウハウを活かし、美しい佇まいと機能性・安全性を両立した、長く使っていただける家具に仕上がっています。
設計を担当した河合さんは、特に工夫した点や問題を解決した方法について、満足そうな表情で話してくれました。
「安全面を重視して、指を挟まないように設計時にリスクを低減しています。その次に強度面。単純に木材を厚くすれば強度は増しますが、せっかくの折りたたみ式で持ち運びを考えると重くなるのも避けたい。
そこで本当に必要な部分の強度だけを上げるような調整をしていきました」
「ちゃぶ台については、通常、天板に使用する金属の止め具を使用していません。そのため、反りをどのように少なくするのかが大きなポイントでした」
一枚板ではなく、細長い材を継ぎ合わせる「幅はぎ」という方法でつくられた天板。その幅はぎの向きや、木材の幅、厚み、樹種など組み合わせを変えて何度もテストして、反りの少ない方法にたどり着いたとのこと。
春夏秋冬で湿度が大きく変わる、木部品には厳しい日本の環境で安心して使っていただけるように、湿度80%、温度50℃という過酷な条件下でテストをおこない、品質を確認しています。
家具づくりで社会や暮らしが良くなるように
私たち中川政七商店が日本の工芸を元気にし、そして心地好い暮らしを届けようとしているように、カリモク家具は家具づくりを通じて快適な暮らしを届け、日本の森を元気にしようとしています。
荒廃した日本の森を蘇らせるため、国産材の活用に取り組んでいるのもその一環です。
「家具をつくり続けることで、世の中が良くなってほしい」
加藤さんはそう話します。
国産材の適切な利用で日本の森が蘇り、お気に入りの木製家具を手にした人たちの暮らしが明るくなる。小さな範囲からでも積み重ねていけば、少しずつ世の中が良くなっていくかもしれない。
今回、初めてカリモク家具とともにつくった「床座」のための「座椅子」と「盆ちゃぶ台」。この家具を手にしていただいた方たちの暮らしが心地好く、快適になることを願っています。
文:白石雄太
写真:西澤智子