京都の黒染め師が染める、夏に着たい「黒」

さまざまなアイテムに合わせやすく、季節を通して着やすい黒い服。
夏は少し重いかな、と思う反面、ちょっとよそ行きのおしゃれにも、法事などのフォーマルシーンにも寄り添ってくれる安心感も。カジュアルになりがちな夏のラインナップの中に一枚あると、なにかと重宝します。

全4種のラインナップ。左から、前開きワンピース、襟付きワンピース、スリットワンピース、ふんわり袖ワンピース

この夏、中川政七商店でも、ラインナップに一枚加えたい、お守りのような黒いワンピースを作りました。夏の強い日差しのもとで、纏う人の美しさを引き立てて、凛とした佇まいを叶えてくれる黒。そんな黒を引き出すために、黒専門に染める、京都の黒染め師とともに作りました。

黒染め専門?夏の日差しのもとで美しい黒?そんな話を聞けば、どんな風に作られるのか気になって仕方ありません。ものづくりを知ればもっと愛着が沸くはず。長い付き合いになりそうな一枚への愛着を求めて、作り手さんにお話を伺ってきました。

黒を極めた黒染め師とは

お話を伺ったのは、1870年創業の馬場染工業5代目・馬場麻紀さんです。そもそも黒専門の染め屋さんがあることを、この商品を通して知りました。

「1870年の創業当時は着物の時代やったから、黒専門で染めてる工場が120軒ほどありました。
今では考えられませんけども、昔はお嫁に行くときに喪服として黒紋付を持っていったんですよ。夏用と冬用は最低限必要でしたから、それだけでも需要がたくさんありました」

創業時に、地下約100メートルから業務用に汲み上げ始め、以来1度も枯れずに使用している「柳の水」

「京都のこのエリアは水が豊富だから、着物に関わってる染め屋さんがもともと多いんです。鉄分の多い水質は、黒を出すのにも適しています。ただ、今はもう黒染め専門でやっているとこは、うち含めて3軒だけです。」

工房の表に掲げられる「黒染」の文字。名は体を表すと言うように、一歩足を踏み入れるとモノトーンの世界が広がります

代々続く黒専門の染め屋。中でも馬場染工業さんは、麻紀さんのお父さんである先代の頃に、「黒を極めた」と言われていました。

「ある日父が、今までの黒はグレーに見える!黒っていうのはもっと黒やと思う!って言いだして。目指したのが、カラスの濡れ羽色でした。
染料屋さんと一緒にいろいろ試行錯誤をして、黒より黒い最高級の黒色を開発しはったんですよ。『秀明黒(しゅうめいぐろ)』と名付けた黒色はまさにカラスの濡れ羽色と呼ばれて、みんながびっくりするほどの出来栄えでした」

アイデアマンと呼ばれた4代目によって、「秀明黒の馬場染工」はその名を全国にとどろかせ、注文が殺到したと言います。

「私の代になってから、時代の流れで着物はレンタルが多くなってしまったんですよ。
黒紋付を買うっていう人が少なくなった中で、かたくなに着物だけでやってるのもどうやろうということで、その技法を洋服に転用していったんです。
染める物が違うだけでふつうにできると思われるかもしれませんが、着物と洋服では素材が異なるので、染料もまったく違うんです。
私はもともと洋裁の学校に進んで、テキスタイルデザインや生地について学んできたので、素材によって適した染めをさせていただいています」

黒染め師ならではの奥深い黒

企画初期の色サンプル。写真だと分かりづらいかもしれませんが、一口に黒と言ってもさまざまな色があります

「黒っていっても色んな黒があるんですよ。太陽光で見た時に映えるものと、蛍光灯で見た時に映えるものと。今回は、太陽光でよく見えるように仕上げています。

染め方と時間と温度でちょっとずつ変わってくるんですが、今回は奥深い色にしたいというリクエストがあったので、規格度外視で、2回染めてます。
1回90分、釜の中でくつくつ煮るんですが、まったく同じことを2回。その分深みが出てきます。夏に着るので、秀明黒のようにあんまり黒くなると重い。自然な黒でありながら、深みが出るように仕上げています」

黒染め師ならではの色持ちのよさ

黒い服は退色が気になるところですが、そこにも、黒染め師ならではの色持ちのよさがあると言います。

「ふつうだったら、生地が機械のロールを通っていく形で染めるのが主流だと思うんですが、うちは釜で焚き込むので、繊維の奥の方まで染料がはいっていくんですよ。
それがふつうの色染め屋さんとは違うところです。
生地ではなく、洋服になった状態のものを少量ずつ、時間をかけて丁寧に染めていきます」

また、馬場染工業さんでは、染め直しのサービスも行っています。

「新商品の染めよりも、染め直しの依頼の方が多いくらいです。
洋服は染める工程で形が崩れてしまうんですよ。裾の折り目が伸びてしまったり。でも私は洋裁をやっていて服の構造が分かるので、きれいにお直ししてお戻しできます。
染め直しするくらい大事なものを持ってきてくださるんで、喜んでいただけるように丁寧に染め替えています。
このワンピースも、まずは今回の黒の色を楽しんでいただいて、いつか染め直しを依頼していただいたら、さらに黒くしてお返しすることもできます。2段階お楽しみいただけますよ」

引き立てる「黒」をまとう魅力

「黒っていうのは、日本人、アジア人の顔が引き立つ色なんですよ。黒子って言ったりもするように、もともと黒は引き立てる色です。
服は黒子に徹してもらって、顔をいかにきれいに見せられるか、ブローチやアクセサリーをいかに引き立てる黒を出せるかっていうのを楽しんでいます。うちとこの黒は脇役やと思って、ファッションを楽しんでください。
私も、襟付きワンピース絶対買おうと思ってます」

麻紀さんが絶対買いたいと言っていた、襟付きワンピース

代々続いてきた工芸の技が活きた、黒染めのワンピース。染め直しを重ねながら、長い付き合いができそうな一枚です。


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