【旬のひと皿】なすの梅煮

みずみずしい旬を、食卓へ。

この連載「旬のひと皿」では、奈良で創作料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。



8月も終わりに近づくと、季節のなかで一番好きな秋が近づいてきてワクワクします。ただ、奈良は盆地でまだまだ暑い。気持ちを秋にしてしまうと「切り替えが早かった‥‥」と悔やみながら秋風を待ちわびることになるので、片足はまだ夏、片足は秋ぐらいの気持ちで日々過ごしています。近くの園庭から聞こえる運動会の練習の声を聞いたり、夏の暑さに疲れたもみじに水やりしたりしながら、少しづつ日の暮れるのが早くなることを感じる日々です。

小さな飲食店を営むなかで、毎日さまざまな方にお越しいただいて、お話しをする機会があります。お仕事の話や最近あったこと、故郷のことや、趣味のこと。初めての日本に目をキラキラさせて来てくださる方も。自分の人生だけではとても体験できないお話を伺えるので、頭のなかで自分も同じ体験をした気分になり、色んな人生を楽しませてもらっています。年齢も、好みや状況も違う幅広い方々に、「美味しい」と思っていただける料理とはなんだろう?と考えています。

先日、とても忙しくお仕事をされながらも、季節を逃すことなく暮らしも料理も大切にされている素敵な方と、お話しする機会がありました。そのなかで教えていただいたことの一つが、お婆さまがよく作っていらっしゃった、なすの煮物について。出汁を使わず、水に煮干しを入れるだけでいい、いつでも気軽に作れる嬉しいレシピです。お婆さまとのやりとりや情景を思い浮かべただけで、気持ちが温かくなり、分量を細かく伺ったわけではないのですが、すぐに私も自分なりに作ってみました。同じ味の再現は当然できていないものの、派手な食材を使わずとも、こんなに慈味深く優しい一品ができるのだと感激しました。

料理のレシピは、今ではすぐに検索できてとても便利です。一方、便利ではないけれど、記憶をたどって作る、思い出のレシピも増えたら嬉しい。そして食べた人も、懐かしい過去の記憶や、温かい食卓の風景を思い出せる。そんな料理が作れたら、いろんな方に「美味しい」と思ってもらえるのかな。

時代を超えてたくさんの人が美味しいと思える料理を、身近にある食材で、いつか作れるようになりたいなと思います。

さて今回作るひと皿は、そんなエピソードから生まれた、なすの煮物です。合わせたのは梅干し。昆布やごぼうを煮るときにも、梅干しを入れると柔らかくなる、隠れた煮物の名わき役です。私自身も「〇〇の梅煮」が好きで、よく作ります。暑さの残る時期のレシピということもあり、さっぱり食べられるよう、なすの煮物にも梅干しを入れて炊きました。

食べるときは梅干しもほぐして、なすと一緒に食べるといいです。作り置きもできるので、冷蔵庫にこのなすがあれば安心。心強く、温かい気持ちになれるのです。

<なすの梅煮>

材料(2人分):

なす…3本
梅干し…2個
生姜…1かけ
煮干し…数匹
砂糖…大さじ1
みりん…大さじ1
醤油…大さじ1~2(お好みで)
水…200~250ml程度

つくり方:

なすを洗い、ヘタを取って半分に切る。皮へななめに切り込みを入れ、しばらく水につけてあくを抜く。生姜は皮をむき薄くスライスしておく。鍋になすを入れ、全体が浸る程度の水を入れたら火をつける。梅干しと生姜、煮干し、砂糖、みりんを入れて好みの甘さになるよう調整し、醤油を回しかけて煮る。

途中おたまで煮汁をなすにかけて味を染み込ませる。なすが重なる部分は火が通りにくいので、場所を動かしながらコトコト煮詰めていく。煮汁がなくなりそうになったら火を止めて、冷めたら梅干しと一緒に盛り付ける。

アレンジ編:<なすの梅煮ときのこのソテー>

フライパンを熱し、サラダ油を入れて、食べやすい大きさに切ったきのこ(お好みのもの。今回はしいたけとエリンギを使用)を炒める。軽く焼き色がついたら塩をひとつまみ入れて、もう一度サッと炒める。しっかり焼き色がついたらフライパンの火をとめて、なすの梅煮の煮汁を大さじ1杯入れ、きのことからませる。なすの梅煮と一緒にお皿に盛り付け、刻んだねぎを上から振って完成。

【ひとこと】
残った煮汁も使いたいと、食べ応えのあるひと皿にアレンジしました。きのこのソテーは、煮汁を使えば味付けも簡単。ご家庭にあるお好きなきのこで、気軽に作ってみてください。

うつわ紹介

・基本のひと皿:BARBAR いろは 中鉢(丸文)

・アレンジのひと皿:信楽焼の魚皿(飴)

写真:奥山晴日


料理・執筆

だんだん店主・新田奈々

島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。  
野に咲く花を生けられるようになりたいと大和末生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。

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