「凛と、装う」。私のお守りになる、自分らしいセミフォーマル服【デザイナーインタビュー】

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年を重ねるなかで、少しずつ自分に起きる変化。食べものや本の好みが変わったり、肌や髪に若いころとは違うケアが必要になったり、生き方の優先順位を見つめ直したり。似合う服や着たい服もいつの間にかあの頃とは違ってきて、そんな変化を楽しみながらも、何を着ればいいのか迷うことも多くあります。

特別なシーンで着用する服はことさら。身体のラインをきれいに見せてくれるシルエット、背筋がぴんと伸びる上質なものづくり、動きやすく肌触りの良い着心地、そして、装う自分の姿に自分らしさがあること。大切なハレの日こそ我慢せず、いつもの自分のまま笑えるような、けれどいつもよりちょっとだけ自信が持てるような、とっておきの洋服を身に着けたいなと思うのです。

そんな方々に届けたいと、中川政七商店は「日本各地の技術やものづくり」と「自分らしさ」にこだわって、セミフォーマル服シリーズを作り続けてきました。今回はそのなかでも今年新しく登場した、「リネンキュプラの波皺(なみしぼ)」シリーズをご紹介します。



大人の女性に似合う、上質な一着を作りたい

「年を重ねた今の自分に合うもので、無難すぎなくて、でもちゃんと、きちんとしているセミフォーマル服が着たいなってずっと考えていました」

そう話すのは、今回のシリーズを担当したデザイナーの杉浦。4歳の子を持つ母でもあり、自身もオケージョン利用できるハレの日の服を検討していたと言います。

「30代頃までは結婚式にお呼ばれすることが多かったんですけど、40代に入った今はほとんどなくなって。ドレスの出番が減った代わりに、今は子どもの卒園式、入学式を控えています。若いお母さんたちが周りに多いなか、何を着るかってすごく迷うんですよね。『どういう装いをしようかな』『20代に着ていたような服を着るのはどうなのかな』『どんな服ならハレの日にふさわしくて、でも自分らしいのかな』って、悩んだりして」

せっかくのハレの日に、自信を持って着られる服がクローゼットに一着あったら‥‥。そんな思いから、「年を重ねた大人の女性にも似合うセミフォーマル服を作りたい」と考えた杉浦が訪れたのは、山梨県の富士吉田市でした。

ここは富士山の山麓に広がる織物の一大産地。遡ること平安時代から、絹織物をはじめ高級裏地の産地として歴史が深い場所です。

撮影:渡邊竜康(渡邊織物)

「前提として中川政七商店のセミフォーマル服は、日本各地の技術やものづくりを纏えることをとても大切にしています。もともと展開している尾州ウールシリーズは、世界三大毛織物産地に数えられる尾州の生地を使った、ベーシックでシンプルなデザインのもの。重ね襞シリーズは装飾を折り目で表現する日本ならではのデザインで、華やかな見た目が特長です。それで次は、上質感があって大人っぽいシリーズを作りたくて、上質な素材といえばと富士吉田の布へ至りました」

産地のなかから手を取ったのは、天然素材を原料とする繊維・キュプラを使い、高級裏地を作り続けてきた渡邊織物さん。織物事業者が軒を連ねる同地において、そのご縁はもう、ひとめぼれに近かったようです。

「富士吉田に降り立ったら、富士山が空の半分くらいまでドーンって鎮座していて。それに感激したんです。『ああ、この街では風景のなかに富士山が当たり前にあって、富士山の豊かな湧き水で染織文化が育まれてきたんだろうな』って思いました。中川政七商店は工芸を『風土と人がつくるもの』と定義していますが、その景色を目にしてそれがすごくしっくりきたんですよね」

撮影:渡邊竜康(渡邊織物)

「いくつか織物屋さんを回って、最終的に渡邊織物さんにお願いしようと思ったのは、”風景みたいな布”にグッときたから。家業としてキュプラを使った裏地を長く作られてきた事業者さんで、3代目である渡邊竜康さんが入社してからは、テキスタイルブランドのWatanabe Textileも立ち上げられました。そこでは、経(たて)糸はキュプラだけど、緯(よこ)糸にはリネンや綿などのいろんな素材を使った、新しい生地や商品を作ることに挑戦されています。

伺ったときに布地のかけらをたくさん見せていただいて、すごく心を惹かれて。工房には渡邊織物さんの布地で作られたクッションなどが並んでいて、そこに、プロの写真家という顔も持つ渡邊さんが撮った風景写真が飾ってあるんです。富士山や富士吉田の景色を切り取った写真と、その布たちが自然に溶けあっていて、本当に感動しました。

セミフォーマル服は特別な日に着る服ですよね。だから、ものづくりの良さがちゃんと伝わるような、その土地で作られている息遣いが感じられるようなものにしたいと思っていたので、ああ、こちらにお願いしたいなって」

渡邊織物さんの工房内。撮影:渡邊竜康(渡邊織物)
こちらが渡邊竜康さん。丁寧に織りを確認する

布の素材感が、纏う人の美しさを引き立てる

渡邊織物さんが織りあげる様々な風合いの布から今回採用したのは、経糸に細いキュプラ、緯糸にリネンと綿の糸を使った二重織の布。端正に織られていながら、各素材の縮率の違いによって、布の表面にはなみなみとした揺らぎがあります。その表情から今回のシリーズには「波皺」と名をつけました。

リネンのマットな艶感の隙間から、キュプラの繊細な光沢がのぞく様子は、さながら水面(みなも)にゆらゆらと光が跳ねるよう。自然の景色を写したような布が、纏う人の美しさを引き立てます。

「こだわったのは、この生地を纏うことでその方が凛とできるように、布そのものの素材感や美しさをどれだけ引き出せるかですね。だから妙にデザインを盛るんじゃなくて、着た時にすとんと落ちるシルエットにして、生地の良さを活かしてきれいに着こなせる形にしました。

ワンピースやジャケットの中頃に入ったツートンの切り替えでは、二枚の布を縫製するのではなく、織る段階で糸の色を切り替えることで、切り替え部分の不要な皺を避けたり、縫い目が肌にあたらないのでストレスなく着られたりすることも実現しています。

また、纏ったときに身体のどの部分に切り替えがくるのか、その位置にもこだわっていて。丁寧に縫製を重ねています」

ピッチ(織る際に色を切り替える間隔)を変えることで、一枚の布をツートンに織りあげている

その少し揺れる直線もまた、富士山の裾の尾や、地平線・水平線が描かれているようにも感じます。

もちろん着やすさにも工夫を。

動きやすいよう身幅にゆとりを持たせている他、生地に入った波皺のおかげで、少し皺が入っても気になりません。体のラインを拾わず全体をすっきりと見せてくれるシルエットは、大切な服を長く着たいなかで、体型の変化を気にせず迎えられます。

特別な服でも気を遣わず安心して着られるなんて、心強い限りです。

5年後の自分が着るのも、楽しみになる服

「自分自身も、年齢を重ねて持ちたいと思う服に変化がありました。一回着たら終わりじゃなくて、シンプルではやりすたりのない、上質で長く着れるものを大切に着たいなと思う気持ちが強くなったんです。

そういう服って、持っていると自分の安心感とか自信になるというか。『これがあれば、いざというときや特別な日が来ても大丈夫』って気持ちです。

今回のシリーズが皆さんにとって、今も素敵に着られるし、さらに年を重ねたとき、5年後の自分が着るのも楽しみな服になればいいなって思います」

大人の美しさを引き立てる気のきいたデザインと、日本の技術が織りなす上質な生地。シンプルながら愛着をもって長く着られる服があれば、ハレの日がもっと楽しみになりそうです。

お子さんの卒入園式やご自身の同窓会、素敵なレストランでのお食事会など、特別な日に。背筋を伸ばして凛と装える、ハレの日のお守りのような頼もしい一着となりますように。

文:谷尻純子

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