【暮らすように、本を読む】#09「ゆうべの食卓」
自分を前に進めたいとき。ちょっと一息つきたいとき。冒険の世界へ出たいとき。新しいアイデアを閃きたいとき。暮らしのなかで出会うさまざまな気持ちを助ける存在として、本があります。
ふと手にした本が、自分の大きなきっかけになることもあれば、毎日のお守りになることもある。
長野県上田市に拠点を置き、オンラインでの本の買い取り・販売を中心に事業を展開する、「VALUE BOOKS(バリューブックス)」の北村有沙さんに、心地好い暮らしのお供になるような、本との出会いをお届けしてもらいます。
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先着50冊限定!ご紹介した書籍をVALUE BOOKSさんでご購入いただくと、同社がつくる「本だった栞」が同封されます。買い取れず、古紙になるはずだった本を再生してつくられた栞を、本と一緒にお楽しみください。詳細は、VALUE BOOKSさんのサイトをご覧ください。
人生の断片を語る、11の食卓の記憶
ひとり暮らしを始めてから、スーパーで買う旬の野菜のおいしさや、深夜まで開くチェーン店のありがたさを実感した。お酒が飲めるようになってからは、ひとりで食べる自由さと、大切な人と食べるたのしさを知った。子どもの頃の記憶をたどる時、学生時代の思い出を語る時、未来の約束をする時、思えばいつも中心には「食卓」があります。
料理雑誌『オレンジページ』にて連載された、作家・角田光代さんによる短編小説『ゆうべの食卓』。年齢も家族構成もさまざまな登場人物たちによる、11の食卓に登場するのは、珍しいごちそうではなく、慣れ親しんだ料理ばかり。
元夫のひとり住まいの家で食べる手作りカレー
小学5年生女子ふたりのスイミング帰りの買い食い
こたつの上で作るひとり用ホットプレートの手抜きごはん
実家を売却することになった兄弟のささやかな宴会
著者によると登場する料理は、掲載時の雑誌の特集にあわせて決めていったそう。フライパンや鍋のままテーブルに出す「卓ドンごはん」や、週末に作り置ける「手作りミールキット」、ふたりで楽しむ「ちいさなおせち」、炊飯器でつくる「失敗知らずのスイーツ」など、特集の内容を想像しながら読み進めるのも本書のたのしみ方のひとつです。
連載がはじまった2020年6月は、パンデミックがはじまって間もない頃。現実世界とリンクするように、物語のなかでも、コロナ禍によって変化する生活を強いられる登場人物たちがいて、私たちと同じように家ごはんのたのしみ方や、手抜き料理のコツを覚えていきます。連載をリアルタイムで追っていた読者にとって、不安を乗り越えていく等身大の姿に、励まされた人も少なくなかったのでは。
「充足のすきま」は、なかでもお気に入りの短編です。主人公がはじめて入るバルが、“アタリ”だった時、気になる人の顔を浮かべるシーンがある。「あたらしい服を買いたくなったら恋の予感だったのは、二十代までなのかも。おいしいと言い合いたいと思ったら恋、と、三十代の今、上書きすべきか」。わたしなら迷わず上書きを選ぶよ、と心のなかでワインを掲げた。
ご紹介した本
・角田光代『ゆうべの食卓』
本が気になった方は、ぜひこちらで:
VALUE BOOKSサイト『ゆうべの食卓』
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VALUE BOOKS
長野県上田市に拠点を構え、本の買取・販売を手がける書店。古紙になるはずだった本を活かした「本だったノート」の制作や、本の買取を通じて寄付を行える「チャリボン」など、本屋を軸としながらさまざまな活動を行っている。
https://www.valuebooks.jp/
文:北村有沙
1992年、石川県生まれ。
ライフスタイル誌『nice things.』の編集者を経て、長野県上田市の本屋バリューブックスで働きながらライターとしても活動する。
暮らしや食、本に関する記事を執筆。趣味はお酒とラジオ。保護猫2匹と暮らしている。
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