【イベントレポート】「職人さんを囲む食事会」~越前和紙「YURAGU」長田泉さん~
日本の各地で作られ続けている工芸の品々。
それらのものづくりを担う職人さんたちは、日頃どんなことを考えているのでしょうか。
実際に各工芸の現場を訪れて話をすると、そのこだわりに驚かされたり、新しい視点に気付かされたり、刺激を受けることがたくさんあります。
どのようにして技術を磨いてきたのか。風土や素材に対する想い。作り手から見た産地や工芸の特徴。なぜ職人を志したのか。
なるほど!と感動することもあれば、親近感を覚えるような場面もあり、気付けばそれまで以上に工芸や職人さんを好きになっている。そんな素敵な経験を、中川政七商店や「さんち商店街」のお客様にもぜひシェアしていきたい。その第一歩として、「職人さんを囲む食事会」イベントを開催しました。
■「職人さんを囲む食事会」~越前和紙「YURAGU」長田泉さん~
記念すべき一回目のゲストは、さんち商店街でも人気を博している越前和紙のアクセサリーブランド「YURAGU」を手がける長田泉さん。和紙の一大産地、福井県越前市で手漉き和紙づくりを続ける長田製紙所の5代目です。
会の前半は長田さんのトークセッション。越前和紙の歴史や特徴、長田製紙所やご自身の仕事のこと、YURAGU開発の経緯など、さまざまな内容を語っていただきました。
「この中で紙漉きを体験したことがある方はいらっしゃいますか?」
この問いかけに半数近くの手が上がるほど、和紙や工芸への関心が高い方々が集まった今回のイベント。
紙漉きの具体的な工程の話や、楮(こうぞ)・トロロアオイといった原料の話など、一般的には少しマニアックすぎるかも、といった内容にも、皆さん興味津々です。
和紙と聞くと、一般的には便箋だったり書道の半紙だったり、手元で使う小さなものをイメージするかもしれませんが、長田製紙所が得意とするのは部屋を仕切る襖(ふすま)に使用する襖紙。
最大で2×3mという非常に大きなサイズの紙を漉いているという説明に、和紙好きの方々も驚きを隠せません。
「とても大きな紙なので、基本的に二人で漉いています」
そう話しながら、実際の写真や動画を交えて説明する長田さん。
ミリ単位の厚みを調整しながら均一に和紙を仕上げていくために、決まったマニュアルなどは存在せず、経験からくる「勘」が必要とのこと。その途方もない繊細さに会場からはため息が漏れていました。
■愛用品の物語を、作り手から聞く体験
その後もトークセッションは続き、和紙好きの皆さんに囲まれて、長田さんの話ぶりも徐々に熱を帯びていきます。
「和紙作りには、紙を漉いている場面以外にも本当にたくさんの工程があるんです!
原料を釜で煮て、ゴミを取って、繊維をほぐして、細かくして。色を付ける場合は染色もします。模様の付け方も様々で………
もっと詳しく喋ってもいいですか?(笑)」
和紙を愛するあまり、話がとめどなく溢れてくる長田さん。とにかく和紙が好きで、その素晴らしさをもっともっと伝えて、広めていきたい、という気持ちが伝わってきます。
長田さんの熱に打たれて会場も盛り上がる中、2023年に立ち上げたアクセサリーブランド「YURAGU」の話題へ。
「無地の襖紙だけを作っていたところから、曾祖父が柄ものを始め、祖母はバッグや雑貨づくりに挑戦し、父も新たな和紙作りを研究してきました。
『誰も作っていない紙をどんどんやろう!』という社風なんですよね。
そんな中で私自身、もっと気軽に和紙を使ってもらいたくて始めたのが『YURAGU』です。余剰の紙や原料を活用したい想いもありました。
砂や珈琲を練り込んだ紙を使ってみたり、色々な挑戦をしながら、凄く楽しんで作っています」
実際にYURAGUを愛用中の参加者も多く、深くうなづきながら話に聞き入っている様子が印象的でした。作り手からものづくりの背景の話を聞くことでより一層愛着が湧く、そんな体験になっていたように思います。
途中、長田さんが持参した新色や新商品の回覧もあり、「かわいい!」「素敵!!」といった声があちこちから聞こえてきました。
■好きなもので、作り手と使い手が繋がる場
トークセッションの後は質疑と懇談の時間。
和やかな雰囲気で会が進行する中で緊張もほぐれたのか、本当にたくさんの質問が投げかけられていました。
「和紙の需要について」
「海外で作られる紙との違い」
「家業を継ごうと決めたタイミング」
「世界に和紙を売っていく可能性」
「和紙の耐久性について」
専門的な質問も多く、その一つひとつにしっかりと答えていく長田さん。
質問も止まらなければ、それに答える長田さんも止まりません。
気付けばあっという間に予定の時間となり、名残を惜しみつつ閉会となりました。
作り手の想いを直接聞くことで、工芸やものづくりを更に好きになる。そんな特別な体験を届けたくて開催した今回のイベント。
その一方で、使い手に想いをぶつけることで、作り手側のモチベーションや自信が高まる機会にもなり得る。和紙という“好きなもの”で繋がった空間だからこそ、作り手・使い手、双方でポジティブな影響を与え合うことができる。そんな可能性を強く感じたイベントとなりました。
今後もさまざまな作り手さんと共に、プログラムなど工夫をしながら継続的に実施していければと考えています。
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