【心地好い暮らしを訪ねて】#1 ひとともり・長坂純明さん、知子さん
年を重ねるごとに、家の中での過ごしかたをどう心地好いものにするか、が大きな関心事になってきました。誰かの家にお邪魔することで、暮らしが少しずつアップデートされているようにも。参考に取り入れてみては濾過され、我が家だけの暮らしが積み上がっていく。そんなことが楽しくて仕方ないな、と感じています。
そこでこの連載では、奈良に住む皆さんのご自宅にお邪魔しながら、その人ならではの心地好い暮らしをお届けします。
今回訪ねたのは、奈良に拠点をおき「建築・旅・健康」を軸とした3つの事業を展開する、「ひとともり」の長坂純明さんと知子さん。純明さんは、住宅やホテルなどの設計を通して美しい日常の提案を。知子さんは、ヴィ―ガンカフェ「生姜足湯休憩所」を運営しています。私生活ではどのように心地好い暮らしを実践されているのか、お聞きしました。
心地好い暮らしを積み重ねるヒントを見つけていきたいと思います。
すこやかな空間と健康的な食事で、こころと暮らしをととのえる
光や影、マテリアルが美しく好きなもので埋め尽くされている(純明さん)
僕は30年近く企業で設計の仕事をしていたんですね。大きな建物を設計していたので、効率重視のものづくり。やりがいはある反面、もう少し人が生き生きと暮らすための「生活のデザイン」をしたかった。その一つの体験の場として、12年前に家を建てました。そこから独自の暮らしやアイデンティティが出てきて、その延長で個人の仕事が始まっていった感覚です。
自宅を建てる時に考えたのは、何よりもまず小さい家にすること。この家は77㎡くらいで、家族との距離が近いんです。廊下がなくてリビングと各部屋が繋がっているので、どこにいても家族の気配を感じます。子ども達も部屋にこもらず、いつもリビングに出てきていました。娘は受験勉強もリビングでしていましたね。バリアフリーってあるじゃないですか。僕は1番のバリアは温度だと思っていて、部屋は暖かいけど廊下に出ると寒いから出たくないってあると思うんです。だから、できるだけ温度の差をなくすために廊下がない家を建てました。家には空調はひとつしかなくて、各部屋の上部の窓を開ければ空気が循環するようになっています。これが正解とも思わないけど、でも僕らの生活の真ん中には、家族との距離感が近いこの家があります。
仕事で提案していることにも通じていますが、暮らしをととのえるためには、やっぱり健康的な食事とすこやかな空間が大事。食事は妻(知子さん)任せですけど…すこやかな空間には、嫌なものが見えない環境づくりが大事だと思っています。
気持ちいい光が入っているなとか、梁にきれいにカンナがかけられてツヤっとしていたりとか….僕はそんなことが気になるんですよ。今日も掃除をしながら、杉の板が古くなってきたけど、でもやっぱいいよなって思ったりして。光や影、マテリアルが美しく、好きなもので埋め尽くされていることが心地好い。細部まで気が行き届いていて、そういうところから生活の豊かさを感じられる。じつは最近初めてアートを買ったのですが、アートを一つ飾ることによって、見える景色がまた少し美しいと感じるものになりました。12年前にこの家で過ごし始めてから、まだまだなんですけど、でもちょっとずつよくなっているような感覚はあります。
習慣があることで、自分のリズムがととのっていく(知子さん)
私は、ヴィーガンカフェ「生姜足湯休憩所」を運営しています。足湯の他、ドリンクやヴィーガンスイーツの提供、オーガニック食品の販売を行うカフェです。生姜足湯は体をととのえるお手当法の一つで、子どもが小さい頃はなにかとやる習慣でした。生活の中で実践していることが地続きで仕事になっているのは、夫と同じです。
健康を意識して食生活を変えていったのは、17年前。子どもの不調をきっかけにマクロビオティックを学びました。食事を変える中で少しずつ調子を崩すことが減っていきましたし、なにより気持ちの安定にも通じていると思います。人の体は食べたものでできていますよね。30代で食べたものが40代に、40代で食べたものが50代以降に出ると言われています。私達は50歳になる手前で独立したので、そこからもう1回人生が始まった感覚なんです。長く元気で楽しむために、食事でととのえることを大切にしています。食事の中でも1番大切にしているのは朝食。酵素玄米とお味噌汁、お漬物などの発酵食品を中心にいただきます。塩気のものをいただくことで、体のスイッチが入ります。これを食べちゃダメっていう制限があるわけではありませんが、マクロビオティックを学ぶ中で、調理法は色々と変えていきました。野菜の切り方や、食材を鍋に入れる順序を変える事で身体にもたらす作用が変わります。食べる順序も重要で、一口目はお味噌汁で胃を温めながら、ゆっくり体を起こしてあげます。発酵食の作り置きがあって毎朝同じように食べるだけなんですけど、それが心地好いんですよね。縛りがあるわけではなくととのっている感じ。
もともと春巻きを巻いたり餃子を包むような反復作業が好きで、この1年は寝る前に編み物もしています。編むことで気持ちが落ち着くんです。日々ストレスがたまるわけではないけど、寝る前に一日がリセットされるというか。朝食と夜の編み物と、習慣があることで、自分のリズムがととのっていくような気がします。習慣って言うと決まりのように思うかもしれませんが、そうじゃなく好きなことを選んでしている感覚で、自然と生活がととのっている気がします。
ひとともり 長坂純明、長坂知子
奈良に拠点をおく建築設計事務所。住宅や集合住宅、ホテル、事務所、店舗などの設計を通して日常を豊かにする様々な提案を行う。また、同敷地内では奈良町屋を宿泊施設に改修し、暮らすように泊まる一組限定の宿「宿一灯」や、ヴィーガンカフェ「生姜足湯休憩所」も展開している。
https://hitotomori.net/
奈良に遊びにいらした際は、お二人が運営する下記の施設にもぜひお立ち寄りください。
<生姜足湯休憩所>
https://hitotomori.net/footbath/
<宿一灯>
https://hitotomori.net/hotels/
文:上田恵理子
写真:奥山晴日