人間国宝がデザインした、暮らしに溶け込む「ござ」

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こんにちは。中川政七商店のバイヤーの細萱久美です。
連載「日本の暮らしの豆知識」の8月は旧暦で葉月のお話です。旧暦の名前の由来は諸説ある場合が多いようですが、葉月の由来もやはりいくつか説があります。

新暦では9月上旬から10月上旬の秋にあたるため、「葉が落ちる月」の説が有力と言われていますが、他には、稲の穂が張る「穂張り月 (ほはりづき) 」という説や、雁が初めて来る「初来月 (はつきづき) 」という説、南方からの台風が多く来る「南風月 (はえづき) 」という説など多数あります。

新暦の8月はと言えば、秋の気配はまだまだ先のこと。暑さのピーク時期ですね。最近の猛暑振りには辟易 (へきえき) もしますが、暑い夏ならではの楽しみやモチーフもたくさんあります。

海水浴、花火、盆踊りなどのお愉しみや、ビールや最近大流行のかき氷も暑いほど食べたくなります。

毎夏話題になり、注意喚起されるようになった熱中症も、外を歩いているとすぐにクラクラしてくるので、他人事ではありません。太陽の光の下を歩くと、暑さとは別に、疲れを感じることはありませんか?

日傘も無ければ相当の紫外線を浴びることになります。紫外線が肌に良くないことは知られていますが、細胞の働きに影響を与えることで免疫力が落ち、結果疲れを感じるそうです。目からも紫外線の影響は受けるので、夏の外出時はサングラスをかけるのはファッション以外の効果もあるのだそう。

夏の休日の外出後は、昼寝 (夕寝?) をすると、疲労回復にもなり気分がすっきりします。その際は、水分を取らないと逆効果なのでお忘れなく。

「三宅松三郎商店」の「花むしろ」

私は、リビングでは床座りタイプで、通年はウールラグを敷いていますが、夏はイ草で出来た「花むしろ」も利用します。イ草は触感がさらりとし、座っても寝転がっても気持ちがよいもの。夏の昼寝にも最適です。

愛用の花むしろは、岡山県倉敷の「三宅松三郎商店」のものです。書籍「日本の暮しの豆知識」でも紹介していますが、三宅さんの民芸運動の流れを汲んだ長年変わらぬ丁寧なもの作り、季節や日本文化を大切にした丁寧な暮らしには、尊敬と憧れを抱いています。

イ草栽培の盛んな岡山県南部では、さまざまなイ草製品が造られてきました。その中で、模様を織りこんだござを、花ござとか花むしろと呼びます。

「三宅松三郎商店」は、1912年の創業以来、花むしろなどのイ草製品を製造し続けて、現在三代目の三宅隆さんと操さんご夫婦お二人で、イ草の仕入から製品の販売まで切り盛りをされています。

人間国宝「芹沢銈介」がデザインした、モダンでカラフルな図案

この工房は、民芸運動の一翼をになった人間国宝の染色家、芹沢銈介 (せりざわ・けいすけ) 氏がデザイン図面に関わったことがあります。今でもその図案集が大切に保管されており、工房にお邪魔した際に貴重な資料を拝見することが出来ました。

芹沢銈介氏の図案集
芹沢銈介氏の図案集

赤、緑、黄色などカラフルなストライプや格子状にデザインされた図案や試作品は、今見てもモダンで欲しい!となるものばかりでした。

当時の織り機は現在とは違うこともあり、再現の難しいデザインも多いのですが、シンプルでシックな色使いの花むしろは、現代の生活にも取り入れやすいと思います。

織りは機械と言えど、手仕事の行程が思った以上に多いのです。イ草の選別、染め、織ったら10メートルほどの長い花むしろを天日干し。

そのあと、サイズにカットして縁処理や手縫いで縫い合わせなどを施します。製造工程を拝見すると、体力仕事でもあり根気も必要で、価格がとてもリーズナブルに思われます。

何度かお邪魔していますが、毎回奥様の操さんが、お抹茶と和菓子でおもてなししてくださいます。その茶器をはじめ、ご自宅のインテリアには花むしろをはじめとする民芸品や工芸品が多く、そのどれもが毎日の生活に使われ、暮らしにとけ込んでいるのを感じます。

花むしろも、夏のイメージが強いですが、サイズによって畳敷きや、テーブルランナー、コースターなどいたるところに年中使うそうです。手入れもサッと拭くだけ、巻いたら意外と嵩張らず出し入れも気軽です。

醍醐味はやはり寝っころがって、すべすべ気持ちの良いイ草の心地よさを感じること。香りも穏やかで、気持ちの良い夏のお昼寝に欠かせない、葉月の暮らしの道具です。

<掲載商品>
花むしろ各種 (三宅松三郎商店)

<関連書籍>
日本の暮しの豆知識

細萱久美 ほそがやくみ
東京出身。お茶の商社を経て、工芸の業界に。
お茶も工芸も、好きがきっかけです。
好きで言えば、旅先で地元のものづくり、
美味しい食事、美味しいパン屋、猫に出会えると幸せです。
断捨離をしつつ、買物もする今日この頃。
素敵な工芸を紹介したいと思います。

文:細萱久美
写真:木村正史

こちらは、2017年7月30日の記事を再編集して掲載いたしました。

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