【暮らすように、本を読む】#13「おいしいおしゃべり」
自分を前に進めたいとき。ちょっと一息つきたいとき。冒険の世界へ出たいとき。新しいアイデアを閃きたいとき。暮らしのなかで出会うさまざまな気持ちを助ける存在として、本があります。
ふと手にした本が、自分の大きなきっかけになることもあれば、毎日のお守りになることもある。
長野県上田市に拠点を置き、オンラインでの本の買い取り・販売を中心に事業を展開する、「VALUE BOOKS(バリューブックス)」の北村有沙さんに、心地好い暮らしのお供になるような、本との出会いをお届けしてもらいます。
<お知らせ: 「本だった栞」をプレゼント>
ご紹介した書籍をVALUE BOOKSさんでご購入いただくと、同社がつくる「本だった栞」が同封されます。買い取れず、古紙になるはずだった本を再生してつくられた栞を、本と一緒にお楽しみください。詳細は、VALUE BOOKSさんのサイトをご覧ください。
思い出の真ん中に、とっておきの味
作家の阿川佐和子さんによる『おいしいおしゃべり』は、1990年代に連載していたエッセイをまとめたもの。和田誠さんのかわいいイラストが表紙の本書は、2000年に幻冬社から出版された文庫版です。家族と過ごした子ども時代の思い出から、アメリカでの滞在記まで、ふっと笑えるユーモアと共に語られます。阿川さんが40歳くらいの頃に書かれたであろう、60を超えるエピソードは、「そういえば思い出したんだけど」とでも言うように、軽やかにはじまります。
冒頭のエピソード「酒と反省の日々」では、「おいしい食べ物と親しい友とゆったりした時間」が揃って初めてお酒は魅力的になる、と語ります。お酒だけでなく、家族の食卓に並んだ「ニラブタ」や、旅先で出会った「小籠包」、夏休みの思い出「キュウリ胡椒」など、登場するごちそうはどれも、身近な人との何気ないやりとりと共に描かれます。軽快な語り口は、気の置けない女友達のおしゃべりを聞いているようで、時々、自分のおいしい記憶ともつながり、どこか懐かしい気分になるのです。
「『飛ぶ教室』と私」の中では、小学校の図書館でアルバイトをしていた時のエピソードが語られています。生徒からおすすめの本を聞かれるたび、答えていたのがケストナーの『飛ぶ教室』。男の子に交じって遊び、本もほとんど読まなかった子ども時代に偶然手に取り、ユーモアとその背後にあるあたたかさに魅了されたそう。「皆さんの子どもの頃を決して忘れないで」というケストナーからの言葉を、大人になっても大切にしている阿川さん。エッセイの中で描かれる家族との笑える思い出や、おいしいものと出会った時の素直な喜びは、子ども心を忘れない彼女の誓いの先にあるような気がします。
読者を楽しませたいというサービス精神は「あとがき」にも。「とにかく最後まで召し上がっていただいた皆様への感謝の念を込め、食後のデザートはいかがでしょう」と、唐突にはじまる白玉団子のレシピを紹介。心地よい文章で満たされた心は、ほんわかとした甘さの余韻に浸ることでしょう。
ご紹介した本
阿川 佐和子『おいしいおしゃべり』
本が気になった方は、ぜひこちらで:
VALUE BOOKSサイト『おいしいおしゃべり』
ご紹介した書籍をVALUE BOOKSさんでご購入いただくと、同社がつくる「本だった栞」が同封されます。買い取れず、古紙になるはずだった本を再生してつくられた栞を、本と一緒にお楽しみください。詳細は、VALUE BOOKSさんのサイトをご覧ください。
VALUE BOOKS
長野県上田市に拠点を構え、本の買取・販売を手がける書店。古紙になるはずだった本を活かした「本だったノート」の制作や、本の買取を通じて寄付を行える「チャリボン」など、本屋を軸としながらさまざまな活動を行っている。
https://www.valuebooks.jp
文:北村有沙
1992年、石川県生まれ。
ライフスタイル誌『nice things.』の編集者を経て、長野県上田市の本屋バリューブックスで働きながらライターとしても活動する。
暮らしや食、本に関する記事を執筆。趣味はお酒とラジオ。保護猫2匹と暮らしている。