【デザイナーに聞きました】人と人をつなげる、お茶の時間を彩る道具

お茶を愉しむ。

そこに必要なものはなんなのだろう。そもそも、お茶を愉しむってどんな状態なのだろう。

そんなところから改めて考えた末に誕生した、お茶の時間を彩る道具たち。

個性豊かな9種の湯呑に、自然素材の持ち手が目を引く土瓶。それぞれどんな思考や苦労、工夫を経て生まれたのか、担当デザイナーに話を聞きました。

商品開発の話し合い。その場をつないだのも“お茶”

「世の中にお茶の道具はたくさんあるわけで、そこに新しいアイテムを出す意味はなんなのか。私たちは何を伝えたいのか。どんな景色を作りたいのか。

そういった本質的な部分について、プロジェクトのメンバー間で話し合いを重ねてきました」

今回、湯呑を担当した奈部さんは、そう振り返ります。

湯呑を担当した奈部さん

工芸でお茶を愉しむ。そのこと以外は本当になにも決まっていない状態から、皆で考えを巡らせ続けた日々。

その話し合いの場をつないでくれたのも、お茶でした。

「打ち合わせで集まる度に必ずお茶を淹れて、皆で注ぎ合っていました。

たっぷりと淹れた番茶をウォーマーで温めながら、少なくなった人にはまた注いで。

時には自分たちで茶葉を煎ってみたり。

そんな風に過ごすうちに、作りたいのはまさにこの『お茶が人と人とをつないでくれている状態かもしれない』という所に行きついたんです」

時に2時間、3時間を超える長丁場の打ち合わせでも、お茶がその場にあることで、いつもよりおおらかな気持ちで、安心して過ごせている。その感覚に気付き、メンバーとも共感し合えたと言います。

打ち合わせの場には、中川政七商店の番茶を作ってくれている健一自然農園の伊川健一さんも参加。直接お茶の作り手の想いを聞けたこと、また実際の茶畑の風景や香りを体感したことも、今回の商品作りの大きなヒントになったのだそう。

健一自然農園の伊川健一さん

「健一さんの茶畑で実際にお茶作りを体験して、会話を交わして、お茶について一緒に考えました。

茶畑の風景、茶葉の香り、お茶作りの工程。そんな、お茶が私たちの暮らしに届く手前のさまざまな段階を体感して。作り手の想いに触れて。

お茶は『自然と人』、そして『人と人』が関わり合うことで生まれていることを知り、より一層、お茶を介して人と人が安らげる時間を作りたいという気持ちが強くなったんです」(奈部さん)

自然素材の持ち手が目を引く「萬古焼の直火土瓶」

お茶を愉しむといった時に、道具をスタイリッシュに洗練させていく方向性もあれば、お茶を美味しく味わうことに特化する方向性もあります。

今回はそのどちらでもなく、お茶を皆で飲みながら過ごす安らかな時間、それを助けてくれる道具を作ろう、ということが決まりました。

萬古焼の直火土瓶(藤蔓青織部)

「実際に心地よく過ごせた経験から、お茶の時間をできるだけ長く愉しみたいという想いがあって、土瓶はたっぷり大容量のものをデザインしました。

おおよそ1リットルほど入りますが、薄く成形していることもあって、見た目はさほど大きく感じません。

直火で使える耐熱仕様と、工芸的なゆらぎや表情を出す部分を両立させるため、試行錯誤を繰り返しました」

と、「萬古焼の直火土瓶」を担当したデザイナーの大久保さんは話します。

土瓶を担当した大久保さん

「耐熱性を持たせるためにペタライトという鉱石を原料に混ぜている関係で、そのままだと表情が少しマットで均一なものになってしまいます。ペタライトと釉薬の割合などを何度も調整して、光沢感や貫入の具合などが出るように仕上げました」

この土瓶で特に目を引くのが、自然素材を用いた持ち手の部分。白釉のものは藤(とう)、青織部は藤蔓(ふじつる)という植物でそれぞれ持ち手が作られています。

持ちやすさ、注ぎやすさ、本体とのバランスなどを考えて、持ち手の形状は決まっている

「今、こうした自然素材の持ち手を作れる方が国内にはほとんどいらっしゃらなくて、危機的な状態です。

藤(とう)の持ち手に関しては、技術が途絶えることを危惧して自ら学ばれて習得した出雲の作家さんがいらっしゃって、その方にご相談しました。

藤蔓についても、編める方がどんどん少なくなっています。今回は湯呑をお願いしている窯元の代表の方が『編めるよ』ということで、奇跡的にお願いすることができました。本当に偶然というか、湯呑など幅広く商品開発をしていたからこそ出会えたのかなと。

作り手の不足で諦めそうにもなりましたが、持ち手にこだわったおかげで、工芸の豊かさがうまく表現できたのかなと思っています」

白い釉薬の土瓶には、藤(とう)の持ち手がつけられた
同時に発売される「南部鉄器の土瓶ウォーマー」を使えば、あたためたお茶を適温で長く楽しめる。どの角度からもキャンドルの火が眺められる設計

9つの窯で焼かれた個性豊かな湯呑

奈部さんがデザインした湯呑は、9種類すべて質感も形状もサイズも異なる個性豊かなラインアップとなっています。

「おおらかな気持ちでお茶を愉しむ時間。その空気感を実現するために何が必要かと考えて、こうなりました。

通常、家でお茶を飲むセットみたいなものって、人数分の湯呑がお揃いになっていると思うんですが、それだと少しかしこまってしまうというか。

それよりも、形も色もばらばらな中から、それぞれ好きなものを選んでいただきたい。色んな素材感の、手で作られたものがたくさんある。そんな食卓も楽しいですよね」(奈部さん)

何度もサイズや形状を調整しつつ、9種類の湯呑をデザインしていった

今回、9つの湯呑はすべて別々の窯元で焼かれています。それぞれの個性が際立つ様々な技法を用いて作られました。

「それぞれの窯元さんに、大まかなサイズと形状をお伝えして、なるべくイメージが被らないように9種類の詳細を詰めていきました。

中でも『ころ湯呑』という少し小ぶりなものを多く揃えています。それは、お茶をてのひらで包み込むように味わってもらいたかったのと、一杯目二杯目と繰り返し注ぎながら味わう時間も楽しんでもらいたいからです。逆に、『ふくら湯呑』という大きめサイズのものはたっぷり入ります。

敢えてでこぼこした形状にしてみたり、釉薬の掛け方を工夫して変わった質感にしてみたり、遊び心のあるラインアップになっているので、お気に入りのものを選んでいただければ嬉しいです」

小ぶりなサイズの「ころ湯呑(瀬戸焼)」。手で包み込むように持った時、敢えてでこぼこした形状が面白い

お茶を注ぎ合う行為は信頼の証

実際に長い時間を過ごす中でたどり着いた、お茶がつないでくれる時間の愉しみ。そのおおらかで楽しい時間を味わうために、今回の商品たちは生まれました。

「飲み物を注ぎ合うって、心から安心していないとできないことなのかなと思っています。

なので、信頼を作る場所にお茶はぴったり。

家族や友人と集まった時、土瓶と湯呑でお茶会を開くと、きっと楽しいし、癖になる。ぜひ多くの方に試してみてもらいたいです」(奈部さん)

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文:白石雄太

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