150年続く伝統の和凧を後世へ。名古屋 凧茂本店の凧作り

家の中を、自分の好きなもので飾る。

何かが便利になったり、家事の助けになったりするわけではないけれど、そうすることで不思議と気分が上がり、活力が湧いてくる。

それは、日々を心地よく暮らしていくためにとても大切なことだと感じます。

古くから人々は、季節の行事ごとに飾りもので部屋を設えたり、祈りを込めた縁起物を取り入れたりして、家の中を「しつらい」ながら暮らしてきました。 この美しい「しつらい」、飾りものの文化を未来へつないでいくためになにができるだろうか。そう考え、通年で家に飾れるオブジェのような工芸を模索して生まれたのが、こけしや和凧といった縁起物をモチーフとしたインテリア、「鳥こけし」と「飾り凧」です。

今回、「飾り凧」を組み上げてくれたのは、江戸末期創業の老舗、名古屋の「凧茂(たこも)本店」。

150年続く同店の凧作りについて、山田直樹さんに話を聞きました。

家業に戻り10年。一人で組み上げる伝統の和凧

凧茂本店 山田直樹さん

「組み立ては、基本的にこの場所で、僕一人でやっています」

創業150年を超える「凧茂本店」ですが、現在、凧の組み立てをおこなう職人は直樹さんただ一人。凧の紙、竹ひご、凧糸など、日本各地から届いた部材を黙々と組み立てて、出荷までも一人でこなしています。

「祖父の代の頃は、祖父の兄弟など職人が5名くらい在籍していて、一番生産力がありました。内職さんも多くて、複雑な凧も作れていた時代です」

元々、大学卒業後にサラリーマンとして働いていた直樹さんでしたが、10年ほど前に家業である和凧作りの道へ。直樹さんが戻ってきた当時、すでに凧作りの職人は直樹さんのお祖母さま一人だけという状況。

「ポイントを祖母に教わりながら、とにかくたくさん凧を作って。3年目になる頃にこの部屋に上がってきて、一人で凧作りをするようになりました」

それ以来、150年続く家業、そして和凧の技術を絶やさないために、日々凧作りに励んでいます。

定番柄で人気の高い武者絵の六角凧
かつて作られていた複雑な形の凧たち。祖母から教わり切れなかった部分は、こうしたアーカイブを紐解いて、自身で作り方を研究している
固い竹を使用する場合は、ろうそくの火を数時間当てて曲げる必要があったのだとか。「複雑な骨組みの凧は、一朝一夕では作れません」(直樹さん)

繊細な作業が要求される、和凧作りの工程

凧の組み上げは、和紙に竹ひごを通す穴をあけるところから始まります。

「おおよそ25枚くらいの紙を重ねて穴をあけますが、この作業がかなりシビアですね。ここでずれてしまうとやり直しがきかないので」

穴あけの工程
穴の位置がずれると、凧の仕上がりに大きな影響が出る

和紙の穴あけが終わると、竹ひごに糊をつけて張り付けていく工程へ。綺麗に仕上げるため、均一に糊をつけていく必要がある繊細な作業です。

でんぷん糊を水で薄めながら使用

「竹ひごは、必ず皮がついた状態のものを使います。皮がないと柔らかすぎて折れてしまうので。

また、皮がついていない側に糊付けをして貼り付けることで、凧を揚げたときに皮がついている側が下向きになる。そうすると重心が安定して揚げやすくなります」

飾る用途の凧であっても、実際に揚げられるということにこだわっている直樹さん。左右ができる限り対称になっていることや、風を受けやすい反り具合など、きちんと飛ぶ凧を追求することで、見た目にも美しい和凧が仕上がっているように感じます。

和紙の端を折り返して糊で貼り込む工程。ここで竹ひごの反り具合も調整する
乾燥させた後、糸をつけて完成

すべての素材を国産にこだわった、美しい凧

「素材すべてを国産にこだわっていることが、大きな特徴じゃないかなと思います」

直樹さんがそう話すように、凧茂本店の和凧は、和紙、竹ひご、凧糸まですべて国産の素材で作られています。 かつて海外産の竹ひごを試したこともあるそうですが、含まれる水分が多すぎたのか簡単に割れてしまい、仕事にならなかったのだとか。

国産の竹ひごは、京都で加工されたもの。サイズと薄さを指定して発注している
紙は美濃の和紙を使用
紙の印刷は、「刷り込み屋さん」と呼ぶ印刷屋で行うことが多い。一色一版で、鮮やかな色合いに仕上げていることが特徴
中には、10種類以上の版を使用する絵柄もある
干支ものの凧は人気が高い

「昔から変わらないやり方ですけど、これがベストだと思って続けています。今後は凧作りを教えていきたいなと思っていて。夏休みの子ども達に向けたワークショップなどができればいいですよね」

150年続く和凧作りを後世につなげるために、広くその魅力を伝えていきたいと考えている直樹さん。その取り組みはこれからも続きます。

「自分が作った凧が売れるということに対して、不思議な感覚もあるんですよね。

時代とともにお金の使い方も多様化している中で、和凧を買っていただけている。それはすごく価値のあることだと思っています。

純粋にものづくりの楽しさも感じていますが、それよりも今は、感謝の気持ちが大きいというか。凧作りに関わってくださっている方々や、発注してくださる取引先、そして実際に買ってくださる消費者の皆さん。本当にたくさんの方に支えられているということを実感しています」

ご両親とともに。お父様は、凧茂本店の5代目である山田民雄さん

<掲載商品>
飾り凧

文:白石雄太
写真:阿部高之

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