【旬のひと皿】ゆり根バターのあんかけ茶碗蒸し

みずみずしい旬を、食卓へ。

この連載「旬のひと皿」では、奈良で創作料理と玄挽きの蕎麦の店「だんだん」を営む店主の新田奈々さんに、季節を味わうエッセイとひと皿をお届けしてもらいます。



過日の寒波で奈良にも雪がちらちらと舞い、風も冷たい日が数日続きました。ひんやりした空気のなか、毎日の日課にしていることがあります。それは、自宅近くに住みついた猫の寝床をあたためること。大きな鍋にお湯を沸かして、外猫ちゃんの寝床から湯たんぽを取り出し、お湯を入れ替えます。

この湯たんぽ、外に置いて丸一日経っているにもかかわらず、日によってはまだほんのり温かい日も。毛布には巻いていますが、湯たんぽの保温力に驚いています。

充電式のものも使ってみたのですが、軽くて手間はかからないものの翌日には完全に冷え切ってしまいました。そのうち突然充電できなくなったことから、以前から持っていた今の陶器の湯たんぽに切り替えて使っています。

移動の際に重く、たっぷりのお湯を入れ替える必要はありますが、やはり昔から使ってきたものは長く使えるし、そして優秀だなと改めて感心しています。猫達も安心してよく眠れているのか朝寝坊しています。少しでも暖かい場所で、穏やかな気持ちで元気に冬を越してほしいものです。

そんな寒い時季、今回のレシピは私のソウルフードのひとつである茶碗蒸しにしてみました。

父が島根で営んでいた店でよく茶碗蒸しを作っていたので、小さい頃から仕込みをしている姿を見てきました。父の茶碗蒸しは昔ながらの具がたくさん。鶏肉、銀杏、海老、三つ葉、椎茸、ゆり根‥‥。器をたくさん並べて、具をひとつづつ入れていく手伝いをしていたことを今も覚えています。

友人と遊んでいても1人で先に帰って手伝いをすることが優先だったので、当時はもっと遊びたい気持ちがあったのですが、今となっては一緒にいい時間を過ごせたなと思います。

今回のレシピには、尊敬しているそばがき屋さんに連れて行ってもらったお店で教えていただいた生産者さんのゆり根を使いました。

そのお店での時間は本当に素敵なもので、店主さんの優しさと、日常を、普段を大事にしようというお気持ちが溢れたお料理に感動しっぱなしでした。そのときおいしい!というだけではなく、今ふりかえっても穏やかな気持ちになれます。

そのゆり根を存分に楽しめるよう、別に火を入れてから餡と共にかけています。蒸し物は中の状態を想像しながらワクワクする気持ちと共に、蓋を開ける瞬間が楽しいですよね。

火加減によっては「す」が入ってしまうかもしれないけれど、それはそれで、お家で食べるものなので全部オッケーという気持ちで。餡を葛でとめて生姜を入れて、食べ終わってからも温かさが持続するようにしました。

外気温とは対照的に、手料理や、温かな時間の流れる時間は、今も想い浮かべるだけで豊かな気持ちに。もうすぐ猫の日。猫も人も温かく穏やかに過ごせる時間がふえますように。

<ゆり根バターのあんかけ茶碗蒸し>

材料(2人分)

・卵…1個
・ゆり根…適量
・出汁…180ml(卵の3倍量)
・塩…3つまみ
・醤油…小さじ1/3
・バター…10g

◆餡

・しいたけ…1~2個
・生姜…1かけ
・出汁…180ml
・めんつゆ(返し)…大さじ2/3
・くず粉(片栗粉でも可)…適量

作りかた

卵液を作る。卵をボウルに割り入れ、ときほぐしたら出汁と塩・醤油を入れる。卵を溶く際は、こしを切る程度で泡立てないよう注意。味付けの際は少しずつ調味料を入れ、味を見ながら調整する。あとで餡をかけるので薄味でよい。ザルで一度濾す。

ゆり根を一粒ずつ切り離し、きれいに掃除をする。黒い部分は包丁でとる。フライパンにバターを溶かし、ゆり根と塩(分量外)を入れて弱火で火を通す。オーブンがある場合は、オーブンで火を通すとよりふっくらと仕上がる(今回は160度で15分程度加熱)。

蒸し器に水をはり、火にかけて準備しておく。うつわに卵液を入れたら、アルミホイルで蓋をする。沸騰したら蒸し器に器を入れ、すが入らないように20分ほど蒸す(蒸し時間は様子を見ながら調整する)。

蒸している間にあんかけ用の餡を作る。椎茸は軸を取り、さいの目切りにする。生姜はすりおろす。

鍋に出汁を沸かし、椎茸とめんつゆを入れる。椎茸に火が通ったらくず粉を水で溶いたものを回し入れ、少し加熱する。生姜を入れて火を止める。

蒸し上がった茶碗蒸しに餡をかける。ゆり根をのせて完成!

うつわ紹介

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写真:奥山晴日

料理・執筆

だんだん店主・新田奈々

島根県生まれ。 調理師学校卒業後都内のレストランで働く。 両親が母の故郷である奈良へ移住することを決め、3人で出雲そばの店を開業する。  
野に咲く花を生けられるようになりたいと大和未生流のお稽古に通い、師範のお免状を頂く。 父の他界後、季節の花や食材を楽しみながら母と二人三脚でお店を守っている。
https://dandannara.com/

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