すべてフリーハンド!熟練の技術が生んだ表情豊かな「硝子のミャクミャク」【大阪・関西万博 特別企画】

日本全国、そして世界各国から多くの人々が集う、2025年大阪・関西万博。
日本のものづくりの魅力を楽しく感じてもらいたいという思いを込めて、2025大阪・関西万博公式ライセンス商品として、工芸の技で豪華に表現したミャクミャクのオブジェ5種を制作しました。
今回はその中から、「硝子のミャクミャク」に焦点を当て、その魅力を支えるものづくりの現場をご紹介します。
硝子で作った、水のように美しい透明感をもつミャクミャク
食器や鏡、窓、照明機器、さらにはデジタル機器のディスプレイなど、身近な素材として私たちの生活を支えてくれている「硝子(ガラス)」。
見た目や用途がまさに変幻自在で、実は「個体ではなく液体」ともされる、ものづくりの中でも不思議な存在です。
今回、そんなガラスの不思議さ・魅力を引き出すものづくりを続けているガラスメーカー「菅原工芸硝子」さんとともに、日本国際博覧会(通称:大阪・関西万博)の公式キャラクターであるミャクミャクをつくりました。
硝子で作った、水のように美しい透明感をもつミャクミャクはどのように生まれたのでしょ
うか。千葉県九十九里町にある「菅原工芸硝子」さんの工房を訪ねました。

すべてフリーハンドで作られた、技術の結晶
「ガラスで作ればきっと綺麗だろうなと思いました」
菅原工芸硝子の代表取締役社長 菅原裕輔さんは、どこまでの精度でキャラクターを再現できるのかという不安はありつつも、ガラスの魅力を発揮できる機会だと感じて依頼を受けたと言います。

「うちの職人たちも、普段からガラス製品の企画を考えている、新しい挑戦が好きな人たちなので、ミャクミャクの話をしたらその日のうちに試作を始めていましたね。
どうやって作ればいいか普通は想像がつかないと思うんですが、すぐにある程度の形にしていて、自社の職人ながら凄いなと」
あの複雑な形状のミャクミャクをどうやってガラスで作るのか。確かに素人考えでは想像もつきません。
今回の制作を担当したのは、菅原工芸硝子の中でも特に熟練の技術を持ったベテラン職人の塚本さん。ミャクミャクの制作にあたっては型は使用せず、すべてフリーハンド。高温の炉で溶かしたガラスの塊を、何度も温め直しながら伸ばし、曲げ、これまで培ったガラスづくりの経験と技術を注ぎ込んでユニークなミャクミャクの姿を形作っていきました。





「デザインを見て、大まかには作り方のイメージができたんですが、そこから精度を上げていく、作り方を自分の中に染み込ませていくのに苦労しました。
(試作を)30個くらいは作ったのかな。最初のうちは途中で溶けて落としてしまったり。長い時間ガラスを扱うには、温度の保ち方の感覚を自分のものにしないと。パーツによって溶け具合も違うので、それを覚えるために3、4ヶ月練習しましたね」(塚本さん)
ガラスの魅力が詰まった、表情豊かなミャクミャクの誕生
ガラスは約600度まで温度が下がると固まってしまうため、その前に温め直す必要があります。逆に、温めすぎると今度は作った形が溶けて崩れてしまうため、そのバランスを掴むことは至難の業。
作業は2人1組でおこなわれ、パートナーの職人さんが炉から適量のガラスを運んできて、それを塚本さんが受け取り、大小さまざまなミャクミャクの目玉としてボディに取り付けていきます。


「(ガラスの種を)つけてくれる人のタイミングひとつでガラリと変わっちゃうので、パートナーも大切。タイミングが合わないと丸の形も綺麗にならないんですよね。
それから、スムーズに形が作れるようになった後は(ミャクミャクの)表情をしっかり出すことが難しかった。
よく見てみますとね、すごく表情が豊かなキャラクターなんですよ。その豊かさをガラスでいかに表現するか。おなかやおしりの丸み、しずくの部分なんかも全て難しかったんですけど、一番は豊かな表情を出すことでした。
この頃はいい表情が出せるようになってきて、透明感というか、ガラスの良さも感じられる仕上がりになりました。ガラスの面白さが詰まっていると思います」


ガラスづくりにはさまざまな技法がある中で、どれか一つに特化するのではなく、溶けたガラスから形を作るためにあらゆる方法を試したり、開発したりしてきたという菅原さん。その積み上げが今回のミャクミャクに繋がっています。
「本当に色々なものを作っているので、効率を考えるとよろしくない。でも、数や効率では機械に勝てません。大変ですが、人の手で作る意味があるきちんとしたものをこれからも作っていきたいですし、食器以外の空間のためのガラスなど、新たな挑戦も続けていきたいと考えています」(菅原さん)

これまで多種多様なガラス製品を手掛けてきた職人の経験と技術、ガラスという素材ならではの柔らかな丸み、ぽってりとしたフォルム。さらに手仕事の“ゆらぎ”が生み出す、一つとして同じ形のない、硝子のミャクミャクが誕生しました。
ぜひ皆さまもその目で、職人技が可能にした唯一無二の存在感を確かめてみてください。
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文:白石雄太
写真:阿部高之
2025大阪・関西万博公式ライセンス商品
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