超絶技巧で描かれる360度つながる文様「鍋島焼のミャクミャク」【大阪・関西万博 特別企画】

日本全国、そして世界各国から多くの人々が集う、2025年大阪・関西万博。
日本のものづくりの魅力を楽しく感じてもらいたいという思いを込めて、2025大阪・関西万博公式ライセンス商品として、工芸の技で豪華に表現したミャクミャクのオブジェ5種を制作しました。
今回はその中から、「鍋島焼のミャクミャク」に焦点を当て、その魅力を支えるものづくりの現場をご紹介します。
超絶技巧を脈々と受け継ぐ「鍋島焼」とは

皆さん、「鍋島焼(なべしまやき)」って聞いたことありますか?
中川政七商店ではおなじみでもありますが、案外聞いたことがないという方も多いかもしれません。
それもそのはず。鍋島焼は、もともと藩の御用窯として江戸時代に始まった焼き物産地。お殿様への献上品という性質から、技術もうつわも流通が厳しく取り締まられ、庶民には決して手に入らない幻の焼き物とも言われていました。
いわば当時の技術の粋を集めた産地。その技術が300年にわたり、脈々と受け継がれて今につながっています。
鍋島焼の文化をつなぐ、「虎仙窯」の志
今回「鍋島焼のミャクミャク」を作ったのは、そんな鍋島焼の文化をつなぐことを志にものづくりを行う、虎仙窯。
代々受け継がれてきた技術や貴重な天然資源。それらが織りなす鍋島焼の文化を未来に継承していくために、窯を越えて、産地の発展のための活動に取り組まれています。

実際今回のミャクミャクは、虎仙窯だけでなく、産地の職人さんとタッグを組んでのものづくりだったと言います。
「鍋島焼のミャクミャク」の見どころ
ものづくりの工程を見る前に、「鍋島焼のミャクミャク」のポイントをご紹介しましょう。
大きく2つの見どころがあります。

まずは、一筆一筆、職人の手によって丁寧に描き出された絵付け。水をモチーフに生まれたミャクミャクを表現するために、さまざまな水にまつわる文様を総柄で描きました。

そして、もう一つが、形。
ミャクミャクの形、よく考えると、めちゃくちゃ複雑ですよね。実はこれ、1つの型では作れず、9つもの型に分けて作っているんです。
まずは絵付けに注目してしまいますが、じつはミャクミャクの形を再現することに、とても苦労したと言います。
それでは実際、どんな風に作っていったのか見ていきましょう。
9分割のパーツで完全再現!「成形」の工程

工房に着いてすぐ目に入った、ふかふかのマットレスに寝かされたミャクミャク。しっぽや腕のしずくが折れないように、うつぶせで厳重に寝かされていました。

形を作るのは、鍋島焼の産地で50年以上、人形や置き物など細かな造形のものづくりを行ってきた大五郎窯の福岡光正さん。工房のそこかしこに積まれた型の数々に、福岡さんが積み上げてきたものづくりの歴史を感じます。
今回こんなに細やかな成型ができるのも、50年以上の経験によるものです。過去に作った中で最多の型を使ったのは狛犬。なんと100型以上にも及んだと言います。

100ができるなら9つは簡単なのでは…と感じてしまうかもしれませんが、虎仙窯の川副さんいわく、
「2~3のパーツをつける急須やマグカップですら、接着した部分から割れちゃうことが結構あるんです」とのこと。
100は異次元ですが、9つのパーツに分けたものを接着して形を作るのも、想像以上に難しいことなのだそうです。
実際、はじめの頃は失敗が続いたそう。上半身が重いため、焼いたら前に傾いてしまったり。しずく部分が割れてしまったことも。型に泥がうまく流れ込まず、一部がへこんでしまったり…語り出せばきりがありません。
成功に至るまでに、成型方法はもちろん焼き方も含めて、調整が続いたと話します。

形がうまく作れても、焼きあがるまで成功しているかが分からないミャクミャクづくり。窯の蓋を開けて見るまで不安が大きく、うまく焼きあがった後は、安堵の表情を浮かべていました。
これぞ鍋島焼の真髄!精緻な「絵付け」の工程

ここからは、素焼きの後に行う絵付けの工程をご紹介します。
百聞は一見に如かず。まずはこちらの動画をご覧ください。
虎仙窯で絵付けを専門にしている職人さんが、すべて手描きで文様を施しています。
手描きと聞いてはいたものの、実際にその様子を目の当たりにすると、1体作るのにかかる時間を想像し、圧倒されてしまいました。

どんなところが難しかったのか聞いてみると、
「平面であれば全く問題ないのですが、複雑な形状の立体なので、文様を繋げるのに苦労しました。細かい総柄を360度途切れさせずに、ぐるっと繋がるように計算して描いています」
とのこと。
実際にしずくや脇の下を見て、驚嘆。本当にすべて繋がっているんです。間近で見る機会がある方は、ぜひ、脇の下にご注目ください。

胴体の絵付けが完成した状態。
この状態で一度焼いて、この後、赤絵と金の絵付けを施し、再度焼成します。
まだまだ途中の段階ですが、この状態でも十分に、人の手で描かれたことによる凄みが伝わってくるようです。
焼き物ならではの「絵付け」表現。各文様の意味とは
他のミャクミャクと最も違うのが、全面に水にまつわる文様が描かれていること。これぞ焼き物ならではの表現とも言えると思います。
今回採用した3つの文様について、それぞれの意味をご紹介します。

胴体をぐるりと取り巻くのは、「青海波(せいがいは)」。
穏やかな波がどこまでも続いている様子を文様にした「青海波」は、未来永劫にという意味が込められた吉祥柄です。
平穏な暮らしが続いていくように、という願いが込められています。
焼き物だけでなく着物などにも使われる、昔から日本で愛されてきた文様です。

実際、鍋島焼の産地を歩いていると、焼き物で作られた橋の欄干にも、青海波が。古くから日本で愛されてきた文様だったことが分かります。

顔にあしらわれた鱗(うろこ)も、魚や龍の鱗を模した伝統的な文様です。
鱗で身を守り、邪気を祓う厄除けの柄として、「再生」「厄除け」の意味が込められています。

最後に蛸唐草(たこからくさ)。大阪・関西万博に合わせて、大阪名物「たこ焼き」から着想を得て選んだ文様でもあります。カジュアルな雰囲気がある唐草文様ですが、とても縁起のいい文様です。
植物のつるが四方に長く途切れず伸びる様子から、唐草には「長寿・繁栄」の意味があります。さらに8本の足をもつ蛸は末広がりとも結びつきます。
鍋島焼で作る、工芸のミャクミャク
そうして、お殿様が愛した焼き物産地の技術の粋を集めて完成した、鍋島焼のミャクミャクがこちら。



日本人が自然に対して抱く、神々しさすら感じるような佇まいに仕上がりました。

ミャクミャクのものづくりを振り返って、虎仙窯の川副さんは、こう話します。
「今回のミャクミャクって、一朝一夕で作れるものではなくて、職人のこれまで数十年の時間もそうだし、産地で脈々とつないできた歴史があってできたものでもあると思います。
最新の技術ももちろんすごいけど、人の手で技術を積み重ねてきたからこそできるものもあるわけで 。今回のミャクミャクを通じて、そういったものの美しさを見てもらって、手仕事の文化だったり魅力を多く方が感じる機会になってくれれば嬉しいです」

産地の歴史と、職人の数十年の時間が作り上げた、圧倒的な存在感の「鍋島焼のミャクミャク」。ぜひご堪能ください。
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文:上田恵理子
写真:阿部高之
2025大阪・関西万博公式ライセンス商品
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