わたしの一皿 旅を盛り付ける
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酷暑の台湾、台北に行ってきました。みんげい おくむらの奥村です。
南国台北の夏は色とりどりのフルーツや、緑の濃い野菜の季節。おいしいものをしこたま食べて台北から帰っても、まだ台湾気分が続いているので今日はそんな料理を。
日本は世界中の食材が手に入るし、それを盛り付けるうつわもこれまた世界中のものが手に入る。ということで、今日は台湾気分を、これまた日本のうつわだけど異国感のあるうつわに盛り付ける、という試みを。
ところで、僕らが子どものころと今と、八百屋やスーパーに並ぶ野菜の種類が全然ちがいませんか?どれだけ種類がふえるんだろう、と思うぐらい野菜はふえた気がする。今の小学生に知っている野菜の名前を言わせたらきっとシャレた野菜の名前が出てくるんだろうなぁ。
今日の素材は「空芯菜 (くうしんさい) 」。これも夏の野菜。アジア各国を夏に訪れると、まず食べたい食材の1つ。この野菜も僕が子供の頃は日常ではなかったのに、いつのまにか毎年夏には手に入りやすくなりました。とにかく食感が気持ちよく、定番の炒め物もよいし、おひたしやスープにもよい万能の食材です。
うつわは、栃木県の益子で作陶される伊藤丈浩 (いとう・たけひろ) さんのスリップウェアのうつわ。スリップウェアというのはヨーロッパなどで古くから見られるもので、泥漿(でいしょう)でうつわに装飾をするものです。日本に伝わり、今やすっかり日本の焼き物に根付いたと言ってもよいかもしれません。細かに描かれるもの、大胆に描かれるもの、動物など具体的な意匠をもつもの、と様々ですが、個人的にはこんな大胆でシンプルなものが好きです。
一見、日本のうつわという感じはしないなぁと思うものの、和食にもよく合うし、今日みたいな料理にもよい。こんな風に料理とうつわの組み合わせを楽しむのが日本人らしい食の楽しみかな、と思ったり。
余談ですが、益子には益子参考館という美術館があります。民藝運動で知られる濱田庄司の自邸・工房を使い、彼の生前の蒐集などを展示しています。益子に行くと必ず立ち寄るのですが、日本と世界の民藝が場所や時代を超えて集められ、調和している様は見事。益子に行ったらぜひ立ち寄ってみてほしい場所です。
さてと料理は、空芯菜の腐乳炒め。台湾や中国で一般的に使われる腐乳(沖縄の豆腐ようみたいなもの)。よく中国では朝食のおかゆのお供なんかに出てくるあれです。発酵調味料らしい、奥行きのある味わいはミルキーでコクがあり、ちょっと大人の味。肉なんか入れなくてもご飯は進むし、ビールにもワインにもよい。くせになるんですよ、これ。
空芯菜は軽く洗ってざく切りに。油を引き、きざんだニンニクを入れ、空芯菜を茎、葉の順で炒めます。今日の腐乳はもともと辛味のついたもの。辛味がない場合は赤唐辛子も入れるとよいでしょう。空芯菜がしんなりしてきたころに、腐乳を少しお酒で伸ばしたものを入れます。腐乳に塩気がありますが、もし塩気が足りなければ塩を足す。ささっと炒めて腐乳が全体にからんだらおしまい。空芯菜は火が通りやすいので、本当にパパッとできちゃう簡単料理。このうつわとの相性もすこぶるよい。
アツアツを食べながら、ぼんやり思った。空芯菜ってストローみたいな野菜。昔、ちくわでストロー遊びをした日本人としては、台湾や中国、アジア各国の子供が空芯菜でストロー遊びをするのかも気になるところ。はたしてどうなんでしょうね。
奥村 忍 おくむら しのぶ
世界中の民藝や手仕事の器やガラス、生活道具などのwebショップ
「みんげい おくむら」店主。月の2/3は産地へ出向き、作り手と向き合い、
選んだものを取り扱う。どこにでも行き、なんでも食べる。
お酒と音楽と本が大好物。
みんげい おくむら
http://www.mingei-okumura.com
文:奥村 忍
写真:山根 衣理